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サルのココナツ収穫は虐待か【地球コラム】

2023年01月28日10時00分

愛護団体追及、タイ業者は反発

 タイでココナツの収穫にサルを使うのは虐待に当たるとして、動物愛護団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」が問題提起したのが2020年。PETAはその後も追及の手を緩めず、「鎖でつながれたサルは長時間にわたり、高い木の上で重いヤシの実を収穫させられている」とする「最新調査結果」をこのほど発表した。本当にサルは過酷な状況に置かれているのか。南部スラタニ県でサルに収穫方法を仕込む訓練所を訪ねた。(時事通信社バンコク支局 東敬生)

欧米で不買運動広がる

 「犬ぞりや狩猟が行われている国こそ動物を虐げている」。訓練所でサルの指導に当たるルーサック・パッタナワットさんにPETAの報告について尋ねると、西洋文化こそ批判に当たると不快感をあらわにした。ルーサックさんによると、サルを使ったココナツの収穫はスラタニ県で始まり、周辺のチュムポン、ラノン、プーケット、ソンクラーの各県に広がった。ルーサックさんは「重機は30~35メートルもあるヤシの木の先端には届かない。水路があるため、搬入も難しい」とサルを使う事情を説明した。

 PETAは20年、生後間もなく家族から引き離されたサルが自由を奪われ、「ココナツ収穫機」にされていると非難する報告書を発表。不買運動を呼び掛け、欧米でタイ産ココナツ商品の販売を見合わせる動きが広がった。

 PETAはさらに、21年12月~22年7月に再調査した結果として、「サルは金属の首輪を付けられ、鎖でつながれている。飼育係はサルをたたいたり、首からつるしたりしている」と報告した。また、「サルが木の上でアリにかまれたりスズメバチに刺されたりすることもある」と懸念を表明。PETAによれば、呼び掛けに応じた欧米などの小売店約4万店がタイ産商品の取り扱いを中止した。

「家族同然の信頼関係」

 訓練所では収穫業者から預かった2~5歳の雄のブタオザルを3カ月ほど教育し、一人前に育てている。訓練前にサルを飼いならし、信頼関係を築いていると説明するルーサックさんは「サルの労働時間は1日最大3時間。休憩も入れている」と述べ、最大限の配慮をしていると強調。「サルを使うココナツ業者の間にはネットワークが張り巡らされ、互いに知り合いだが、虐待の話は聞いたことがない」とPETAの報告に疑問を呈した。

 PETAにはココナツ業者だけでなく、タイの一般市民もいら立ちを強めている。南部パッタニー県の住民は「ココナツ業者は収穫場所にサルの餌を持っていくのを忘れると、わざわざ取りに帰る。サルは家族同然の扱いを受けている」と反発した。一方で、「サルは犬歯を抜かれている」というPETAの指摘は一部事実と認める。成長した雄は気性が荒くなり、抜かざるを得ない場合があるためで、「きちんと獣医師が処置している」(ルーサックさん)という。

 PETAは、サルを用いなくても容易に収穫できる低木のヤシの木を植えるなどの工夫を業者は怠っていると主張する。また、サルが収穫したココナツは使っていないと政府や業者が説明する商品の中にも実際には含まれていることがあると批判。「不誠実こそがタイのココナツ産業の特徴。タイ産ココナツ商品に、サルの強制労働が伴っていない事実を保証するのは不可能」と訴え、「タイ以外で収穫されたココナツを使った商品のみ買うよう求める」と消費者に呼び掛けている。(了)


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