中国軍内の粛清拡大 掌握に四苦八苦の習主席【中国ウオッチ】

2023年09月27日13時00分

 李尚福中国国防相の失脚が確実視され、人民解放軍内で大粛清が進んでいることがはっきりした。打倒の対象は、先に司令官らが解任されたロケット軍や戦略支援部隊以外にも拡大。習近平国家主席は自分が重用した軍高官を次々と粛清しており、中央軍事委員会主席を10年以上務めてきたにもかかわらず、軍の掌握に四苦八苦しているようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)

 国防相が自宅軟禁?

 李国防相は8月下旬から公の場に姿を見せず、9月中旬以降、欧米メディアなどが相次いで失脚説を報じた。米国のエマニュエル駐日大使もX(旧ツイッター)で「ベトナムを訪問するはずが、姿を現さなかった。そして、シンガポール海軍総司令官との会談も欠席している。自宅軟禁のせいだろうか? 」と疑問を呈した。

 李氏は、7月に外相を解任された秦剛氏と同様、習主席が政権3期目の指導部人事で抜てきした高官だった。宇宙ロケット発射部門に長く勤務した後、装備調達部門に異動。中央軍事委の装備発展部副部長、戦略支援部隊の副司令官兼参謀長を経て、2017年から装備発展部長を5年務めた。

 昨年10月の第20回共産党大会で初めて中央軍事委入りし、今年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で国防相兼国務委員に選ばれた。国務委員は上級閣僚で、普通の閣僚より上位の「国家指導者」とされている。

 歴代国防相は中央軍事委員を1期(5年)務めてから、国防相兼国務委員のポストに就いていたので、李氏の国防相起用は異例の人選。中央軍事委の制服組(6人)で張又侠、何衛東の両副主席に次ぐナンバー3となった。

 張氏は習主席の盟友として知られ、高齢(1950年生まれ)にもかかわらず、第20回党大会で例外的に中央軍事委副主席を続投した。国防相人事は、張氏が装備発展部時代の部下だった李氏を習主席に推したのだろう。張氏は同部の初代部長で、後任が李氏だった。

 装備発展部が7月下旬、装備調達に関する不正情報提供を求める公告を出したので、いずれ同部の関係者が反腐敗で摘発されることは予想されたが、これほど早く国防相のような高官が粛清されたのは意外なことだ。

 軍機関紙の解放軍報は9月22日、軍内外の交遊関係の「浄化」を求める論文を掲載し、「権力と金銭の取引」がないよう戒めた。軍需企業などとの付き合いを念頭に置いた警告とみられる。

 習主席盟友に痛手

 装備発展部の公告は、部長が張氏から李氏に代わった後の時期(2017年秋以降)を対象としているため、現在進行中の同部関係者に対する調査がこの公告と同じ方針だとすれば、張氏が直接調べられることはなさそうだ。

 ただ、習派有力者で軍制服組トップの張氏にとって、軍指導部に引き上げた直系高官の失脚は痛手となった。習主席としても、外交と軍事の両部門で政権3期目の目玉人事を自己否定した形になり、威信の低下は避けられない。

 中国高官に対する反腐敗闘争は本来、仕事や生活で腐敗行為があったから取り締まるのではなく、政権主流派が邪魔者に腐敗のレッテルを張って打倒するものだ。したがって、主流派で特に重用された高官の相次ぐ粛清は前例のない異常事態である。

 個々の粛清の具体的理由は不明だが、習主席が部下たちの忠誠心について疑心暗鬼になっているのは間違いない。政権内で面従腹背の雰囲気が広まっているようだが、思想や生活などに対する過度な統制が不満の一因になっている可能性があり、反腐敗の強化は水面下の不満を拡大するだけだろう。

 非主流派の動き活発化

 政局が混乱する中、旧主流派の残党である江沢民元国家主席派の「活躍」が目立つという奇妙な現象が生じている。

 江派の中核を成した上海閥出身の韓正国家副主席(元上海市党委書記)は9月18日からニューヨークを訪れ、国連総会で演説したほか、米国のブリンケン国務長官やケリー大統領特使(気候変動問題担当)らと会談した。国家副主席は儀礼的ポスト。しかも、韓氏は第20回党大会で党指導部(政治局常務委)から退いているので、重要な国際会議で演説したり、外国要人と実質的会談を行ったりするのは非常に珍しい。

 また、同7日には北京で元閣僚らによる「中豪ハイレベル対話」が3年ぶりに開催され、中国側から李肇星・元外相が参加した。同氏は中国側主催団体である人民外交学会の名誉会長なので、参加するのはおかしくないものの、年齢は82歳。鄧小平氏長男の鄧樸方氏(79)が最近、身体障害者連合会の名誉主席から退任させられたのと比べると、優遇されているように見える。

 李元外相は、江政権下で外相や副首相を歴任した銭其琛氏の側近。銭氏は江主席(当時)の対日強硬路線を忠実に実行し、外交官としては異例の党政治局入りを果たした。

 なお、現政治局常務委で唯一の上海閥出身者で人民政治協商会議(政協)主席の王滬寧氏も、習氏率いる党中央改革全面深化委員会の副主任を兼ねたことが4月に判明。政協は実権のない国政諮問機関だが、そのトップが同副主任を務めるのは初めてだ。

 7月20日の香港紙・明報によると、王氏は同委員会の弁公室主任(事務局長)も前指導部から続投しており、政策決定について過去の政協主席より大きな影響力を持っているとみられる。

 江派だけなく、今春まで共産主義青年団(共青団)派の現役筆頭格だった李克強・前首相も存在をアピールした。8月30日から敦煌(甘粛省)の莫高窟を参観したとされる映像がインターネット上で拡散。映像では、李前首相は観光客らに手を振り、歓声を浴びていた。首相経験者のような大物OBは勝手に公衆の前に出ることはできないので、習指導部の承認を得た上で敦煌を訪問したと思われる。

 いまさら政権非主流派が盛り返す流れになるとも思えないが、政治、経済両面で苦しい習派としては、反腐敗で引き締めを強めると同時に、「一致団結」のイメージを党内外に広めたいのかもしれない。

(2023年9月27日掲載)

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