一時は「上限はない」と蜜月を誇示していた中ロ関係がぎくしゃくしている。中国人のロシア入国をめぐるトラブルで中国側はロシア当局の対応を「野蛮」と非難。ウクライナ戦争関係でも、中国はロシア抜きの国際和平会議に参加した。その直後に中ロ外相が電話で会談するなど微妙な状況だが、習近平政権はロシアとの距離を何とか調整しようと苦悩しているように見える。(時事通信解説委員 西村哲也)
「友好の大局に合わない」
モスクワの中国大使館は8月4日、中国人観光客5人が7月29日に中央アジアのカザフスタンから車でロシア南部に入ろうとしたところ、入国を拒否され、観光ビザを取り消されたと発表した。5人は国境警備要員から4時間も取り調べを受けたという。
発表によると、大使館はロシア外務省や国境警備当局などに申し入れを行い、5人に対する法律執行は「野蛮」「過度」であり、中ロ友好の大局に合わないと指摘。再発防止を要求した。ロシア側は、ビザ申請時の目的地と実際の目的地が一致しなかったためだと説明している。
中ロは反米で共闘するパートナーとして密接な関係にあり、中国がロシアとのこのようなトラブルをわざわざ公表するのは極めて珍しい。しかも、日米に対してすらあまり使わない「野蛮」という言葉でロシア側を非難したのは驚くべきことだ。
この発表は大使館レベルで、外務省の本省レベルでは何もコメントしていない。大ごとにはしたくないということであろうが、それなら、そもそも公表しければよかったのであり、奇妙な対応である。
ロシア抜きの会議に参加
同じ4日、中国外務省報道官は、サウジアラビアのジッダで5日から6日にかけて開かれるウクライナ問題に関する国際会議に、中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表が出席すると発表した。
ジッダ会議はウクライナ、日米など約40カ国から外交・安全保障担当の高官が参加したが、ロシアは招かれなかった。ロシア抜きのこの種の会議に中国が出るのは異例。李代表は、ロシアと対立するウクライナの閣僚やサリバン米大統領補佐官(国家安保担当)と同席して、ウクライナ和平問題を話し合った。
当然ながら、ロシア政府は「ジッダで外交的成功はなかった」「ロシア抜きでは意味がない」などと酷評した。
中国外務省はロシアのプーチン大統領やラブロフ外相に気を使ってか、ジッダ会議に関する詳しい説明を避けたが、国家安全省傘下のシンクタンク・中国現代国際関係研究院の専門家が8日、同会議について論文を発表し、以下のように中国の立場を詳述した。
一、(ロシア・ウクライナ間で)衝突が起きてから、中国は一貫して中立の立場を堅持し、積極的に停戦を目指してきた。
一、にもかかわらず、米国など西側は中ロを「陣営化」して、西側と対立させようとしたほか、中国がロシアを支持し、ロシアの「侵略の企て」を擁護しているなどと中傷した。
一、中国にまだ具体的な和平案がない状況下で、西側は中国の立場を攻撃し続け、世論の面で主導的地位を維持しようとしている。
西側が中国をロシア陣営の一員と見なしていることに対する習政権の不満がよく分かる。論文は中国のジッダ会議参加について「ロシアが孤立に直面していることを示す」という外国メディアの指摘も引用しており、西側に反発しつつ、ロシアとも距離を置いている。
「反ロ」意見を放置
中ロ関係を巡っては、中国のインターネット世論にも興味深い現象がある。中ロの結束強化を主張したロシアメディアの論評に対し、批判の声が噴出しているのだ。
ロシアの通信社スプートニクが8月1日、中国のSNS「微博(ウェイボー)」を通じて、「北京─モスクワ─ミンスク(ベラルーシ)枢軸の強化はロシアにとって極めて有利」とする記事を配信したところ、「われわれを悪事に引き込みたいのか?」「枢軸国?狂ったのか??」などと非難の書き込みが殺到。同じような文章は別のSNS「微信(ウィーチャット)」でも見られる。「枢軸国」(中国語で軸心国)は中国でも第2次世界大戦当時の日独伊を指すので、当然の反応である。
問題は、ネット上でこれらの批判が放置されていることだ。中国のネット言論は当局の完全な統制下にあり、政権の意向に沿わない文章はすぐに削除され、場合によってはアカウントが封鎖されたり、警察沙汰になったりすることもある。つまり、中ロを一体化するような関係強化への反対意見は、習政権の意向に沿うということだろう。
(2023年8月16日)