中国の習近平国家主席(共産党総書記)は6月15日で70歳。本来なら引退の準備をする年齢だが、憲法改正で国家主席の任期を廃止した上、後継者の確定を避け続けており、終身制に向かっているように見える。(時事通信解説委員 西村哲也)
「皇太子」を否定
党中央で編集され、4月に出版された「習近平著作選読」第2巻に収録された習氏の演説に、若手幹部人事の原則に触れた部分がある。中国メディアによると、2018年7月、全国組織工作会議で行った演説で、要旨は以下の通り。
一、幹部の選抜は若ければ若いほど良いというわけではない。苗の成長を助けようして、引き抜いてしまうようなことをしてはならない。
一、優秀な若手幹部が特別なグループになってはならず、「皇太子」のように構えて抜てきを待つというのではいけない。
一、幾つかの地方で幹部の「ロケット式抜てき」が社会に良からぬ影響を与えたことがあり、今後の戒めとする必要がある。
つまり、前首相の李克強氏や前副首相の胡春華氏らエリート青年組織の共産主義青年団(共青団)出身者がかつて、若い頃から党最高幹部コースに乗り、ハイペースで昇進したような人事は好ましくないと言いたいのだろう。
実際に習氏は17年の第19回党大会で、一時は総書記候補といわれた胡氏を党政治局員から政治局常務委員に昇格させず、昨秋の第20回党大会では政治局からも追い出して、閑職に左遷した。胡氏は1963年4月生まれ。有力幹部が60歳になる前に第一線から退かされる異例の人事だった。
60年代生まれは駄目?
胡氏に代わって台頭した同世代の指導者が現首相の李強氏(59年7月生まれ)と筆頭副首相の丁薛祥氏(62年9月生まれ)。いずれも習氏の直系で、新しい政治局の常務委員として最高指導部入りした。序列は常務委員7人の中でそれぞれ、2位、6位だ。
ただ、李強氏は習氏の子分ということもあって、李克強氏ら歴代首相と比べると、政治家として軽量級であることは否定し難い。
その印象が決定的になったのが習氏の雄安新区視察(5月10日)だ。北京と隣接する河北省の同新区を訪れた習氏には、李強氏、丁氏、党中央書記局の蔡奇筆頭書記と政治局常務委員3人が同行した。序列1位の常務委員である総書記の地方視察に他の常務委員が参加するのは珍しく、特に首相の随行は極めて異例。李克強首相時代には、あり得なかったことだ。
習氏自身を含め、過去の総書記候補はそれなりの処遇をされていたが、李強氏は「格落ち」の首相として、習氏の付き人のような扱いをされており、仮に27年の第21回党大会開催時に68歳という年齢がネックにならないとしても、総書記就任はありそうもない。
また、総書記の首席秘書官のような役割を果たす党中央弁公庁主任だった丁氏は、党務を離れて筆頭副首相になったことから、次期首相が順当なコースだろう。
香港紙・明報(5月3日)によると、習政権上層部では、80年代は天安門事件などがあり、国内の思想が最も混乱していた時期で、60年代生まれの世界観はその頃に形成されたので、この世代から習氏の後継者を選ぶべきではないと考えられているという。最年少が64年生まれである現政治局に後継者候補はいないということになる。
香港メディア関係者によると、中国政局に関する明報のニュースソースは党中央のある機関。同紙の報道が北京など中国本土へ逆流してくることを想定して、情報を流していると思われる。
となると、「ポスト習近平」は70年代以降に生まれた幹部であり、習氏の総書記退任は早くても32年の第22回党大会。退任したとしても、総書記在任20年の後なので、健康に問題がなければ、院政を敷いて最高権力を持ち続ける可能性が大きい。
(2023年6月6日)