中国とロシアは習近平国家主席の公式訪ロ(3月20~22日)で蜜月関係を誇示したにもかかわらず、実際には重要な問題で食い違いが目立っている。中国は事実上、ウクライナ戦争でロシア側に立ちながらも、侵略支援国として国際社会で制裁や排除の対象になるのを恐れて中立を装っているという事情があり、両国の間にはさまざまな思惑の違いがあるようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)
共同声明の「反核」ほごに
習氏の訪ロ終了から3日後の3月25日、プーチン氏は隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を明らかにした。旧ソ連諸国に残された核兵器が1990年代にロシアへ移管されてから、ロシアが国外に核兵器を配備するのは初めてだ。
プーチン氏は、何十年も前から米国は北大西洋条約機構(NATO)諸国に戦術核を配備しており、ベラルーシへの戦術核配備も同じことだとした上で、核拡散防止の国際的義務に反するものではないと主張した。
しかし、習主席訪ロで発表された中ロ首脳の共同声明は「全ての核兵器保有国は核兵器を国外に配備してはならない」と明記しており、ロシア核兵器のベラルーシ配備はそれに明確に反する。
中国外務省は2月24日、「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題する文書を発表し、その中で核兵器使用反対を強調した。中ロ共同声明はそれを盛り込んだわけだが、ロシア側はあっさりとほごにした。
中立を装う中国の宣伝戦略で「反核」は重要な要素なので、これは手痛い約束違反だ。第三者である日本外務省からも「中国はロシアに説明を求めるべきだろう」(幹部)という声が聞こえてくる。
中国が強く警戒する米英とオーストラリアの安全保障に関する枠組み「AUKUS」への対応にも影響がある。先の中ロ共同声明も、AUKUSに基づく豪州の原子力潜水艦配備計画に「重大な関心」を表明し、大量破壊兵器とその運搬手段を拡散させない義務を厳格に守るよう要求。だが、同声明に署名したロシアが他国に核兵器を持ち込むのを中国が容認すれば、それ自体は核兵器ではない原潜を豪州が配備することへの批判は説得力を持たなくなる。
「限界なしはレトリック」
習氏訪ロでは、経済協力に関しても中ロ間に温度差があった。ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に送るパイプライン「シベリアの力2」建設プロジェクトが話し合われたと思われるが、合意の発表はなかった。
ロシア側の報道によると、プーチン氏は、プロジェクトのほぼ全ての要素について合意したと述べたが、中国側では何の発表も報道もなかった。経済面で戦争遂行能力を維持したいプーチン氏はガスのほか、石油、石炭、食品の対中輸出拡大にも期待を表明。欧米メディアでは「ロシアは中国の資源植民地になる」「属国になりつつある」などと報じられた。
共同声明の中ロ関係についての表現も前回(昨年2月のプーチン氏訪中時)と比べると、変化があった。前回の「両国の協力に立ち入り禁止区域はない」はなくなった。一方、今回は「同盟せず」という文言が入った。
「中ロ関係は同盟せず、対抗せず、第三国に向けず」は中国政府の基本方針で、過去の首脳レベルの共同声明に記されたことがあるが、前回は「第三国に向けず」だけで、「同盟せず」は盛り込まれていなかった。
また、前回は楽玉成筆頭外務次官(当時)が首脳会談後、中ロ関係について「上限はない」「終着駅はない」と公言。中国側で今回、そのような発言はなかった。
なお、楽氏は次の外相(王毅氏の後任)の最有力候補といわれていたが、昨年6月、外交と無関係のラジオ・テレビ総局に左遷された。一方、同年3月に「中ロの協力には限界がある」と明言した秦剛駐米大使(当時)は大抜てき人事で外相に昇進した。
先の習氏訪ロの後も、欧州連合(EU)大使の傅聡氏が米紙ニューヨーク・タイムズ(4月5日)に対し、ウクライナ戦争で中国はロシア側に立ってはおらず、中ロ関係に限界ないというのは「レトリックにすぎない」と説明した。
中国としては、隣国の盟友としてロシアを支えるというより、反米・非民主主義陣営の有力パートナーであるロシアを「駒」としていかに利用するのかが重要なのだろう。
(2023年4月19日掲載)