会員限定記事会員限定記事

【中国ウオッチ】有事即応体制を強化 「国防動員」の整備急ぐ

2023年03月13日13時00分

 中国の習近平政権が有事即応体制の強化に力を入れている。全国各地に「国防動員弁公室」を新設。台湾海峡や東・南シナ海で大きな紛争が起きる事態などを想定し、迅速に国家総動員で対応できる仕組みの整備を急いでいるとみられる。(時事通信解説委員・西村哲也)

 全国各地に出先機関 

 習近平国家主席が異例の共産党総書記3選を決めた昨秋の第20回党大会の後、既存の人民防空弁公室を基礎に国防動員弁公室が次々と設けられた。台湾対岸の福建省や首都・北京市は昨年12月、上海市は今年2月20日に発足式を開催した。省・直轄市・自治区の下に位置する一般の市や区・県にも設置されているので、膨大な数になっていると思われる。

 この分野では1990年代から国家国防動員委員会があり、国防動員法も制定。習政権下の軍隊組織改革で中央軍事委に国防動員部も新設された。ただ、国防動員の実質的なネットワークはあまり整備されていなかったようで、近年の政府活動報告や第20回党大会の政治報告は国防動員の体系整備や体制改革の必要性を再三強調していた。

 各レベルの国防動員弁公室は、同級の発展改革委主任もしくは副主任がトップを兼任したり、発展改革委の建物にオフィスを構えたりしており、国防省ではなく、発展改革委が管轄しているようだ。発展改革委は経済のマクロコントロールを担う主要官庁。軍需物資の確保を重視しているのだろう。

軍の「一人芝居」改める

 国防動員弁公室の新設は具体的に何を意味するのか。国防教育に重点を置く人民解放軍の日刊紙・中国国防報(2月24日付)は以下のように解説した。

 一、新たな国防動員体制改革の明確な特徴は、国防動員弁公室を各地に設けることだ。これにより、国防動員の総合的調整、管理などの機能を各地の省軍区から同級の地方政府に移し、国防動員が基本的に軍事機関の「一人芝居」だった状況は根本的に変わる。国防動員工作の新しい枠組みの下、党の集中的かつ統一的指導を必ず堅持して、軍隊内外が協力して「二人芝居」をうまく演じていかなくてはならない。

 一、過去の相当長い時期、わが国の国防建設は主に軍隊組織を通じて行われ、「国防建設は軍隊のことだ」という誤った認識が出来上がってしまった。しかし、国防建設は軍隊建設だけではなく、国防経済、国防教育、国防動員など多方面の内容を含む。国防体制の改革が進むにつれ、既に多くの業務が軍隊担当から政府担当に変わっている。

 一、今回の改革は、「国防動員と予備力建設を強化する」という第20回党大会の重大決定を実行する具体的措置である。

 一、国防動員の「二人芝居」の舞台上では、省軍区系統と国防動員弁公室は別々の家の人間だが、一つの芝居を演じ、「戦争の弓」を引く準備作業を共同で進めねばならない。

 この解説から、中国では長年、国防動員に関する軍と政府機関の協力がうまく行っていなかったことが分かる。このような状況を全面的に改めねば、台湾侵攻どころではあるまい。ウクライナに侵攻したロシアが戦争遂行能力の維持に苦労していることも影響を与えたかもしれない。

刑訴法も「戦時調整」

 法律面でも、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委が2月24日、軍隊が戦時に刑事訴訟法の一部の規定を「調整」して適用することに関する決定を突然採択した。対象は管轄、強制措置、起訴などで、具体的には中央軍事委が規定するという。詳細は未公表だが、戦時に作戦や動員の妨げになる言動を厳しく取り締まるためとみられる。中央軍事委が法的権限を広げたことになる。

 3月1日には、予備役士官法に代わる予備役人員法が施行された。2月22日付の軍機関紙・解放軍報によると、国防大学教授は、招集の手順などを明確にして、戦時に迅速な出動を可能にするためだと解説した。

 また、3月前半の全人代で主要議題の一つになった立法法の改正では、これまで原則として3回とされてきた法案審議が緊急時には1回だけでよいことになった。これも詳細な説明はなかったが、戦時の緊急立法を想定していることは容易に想像できる。

 有事対応のための制度改変がこれほど立て続けに行われるのは、中国でも珍しい。体制の軍事色を増すことで、中央軍事委主席も兼ねる習氏個人の権力をさらに拡大し、国内の政治的引き締めを図る狙いもあるとみられる。

(2023年3月13日掲載)

中国ウオッチ バックナンバー

話題のニュース

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ