智頭急行は1994年12月3日に開業した第三セクターの鉄道会社で、兵庫県上郡町の上郡駅を起点とし、終点である鳥取県智頭町の智頭駅までを結ぶ56.1キロの路線で、智頭線と呼ばれています。特急列車が何往復も運転されていて、京阪神や岡山からのお客さんを中国山地を経て鳥取・倉吉へといざなっています。開通した時期も比較的新しいので、トンネルや盛土に線路が敷かれ、直線が多くカーブも緩いなど線形が非常によく、踏切も少ないので、特急が高速で走行できるバイパス路線としての役割をしっかり果たしています。また、路線が兵庫、岡山、鳥取と三つの県にまたがっているのも珍しく、智頭急行の車両には誇らしげに「H(HYOGO)」と「O(OKAYAMA)」と「T(TOTTORI)」の3文字が冠されています。
みんな大好き「スーパーはくと」
京阪神と鳥取とを結ぶ特急「スーパーはくと」。バイパス路線である智頭急行の“宿命的”な位置づけの列車です。大阪から鳥取までの間をおよそ2時間30分で結び、金土休日は1日最大7往復しています。
気動車には「HOT7000」形が使用されていますが、車両が実に面白くチェックポイントを。
まずは座席が最高です。落ち着いた色目の座席に木製のバックボード。ハッキリ言って、落ち着きます。座り心地も実に柔らかく、これぞ特急車両。ドリンクホルダーも別に付いているので安心して飲み物も楽しめます。
またデッキなどの客室以外の部分もこだわりが詰まっています。一番こだわりを感じるのは洗面台ですね。一つ一つ手作りで仕上げられた因州中井窯の陶器が洗面台に用いられています。照明には因州和紙と智頭杉が使われていて温かい雰囲気になっています。またカーテンには倉吉絣や「ちずぶるー」が使われていて、鳥取県の名産品の展示会のようで旅に膨らみを感じます。
そして先頭車両は流線形になっていて前面展望が楽しめます。山の中を貫き抜く真新しい路線を疾走する列車の前面展望はとても迫力あってまるでテーマパークのアトラクションのようです。下りの鳥取行きは、先頭車が自由席ですので最前列が空いていれば座れますのでぜひチャレンジを。上りは先頭が座席指定車両になるので、指定席を購入する際は「一番前」をご指定ください。ちなみに、車両運用によって展望席がない「貫通型」の車両が入ることもまあまあありますので、ご了承ください。
車内チャイムがまたよくて、童謡「ふるさと」が用いられていますが、この素朴なメロディーが癖になります。
少し専門的なチェックポイントですが、「スーパーはくと」はカーブでもスピードを落とさず走行できる振り子式の台車が採用されていて、カーブで傾きながら走行するのが楽しく連結面を見ているとだんだん傾いていく様子が面白いです。
恋がかなう「恋山形」
知る人ぞ知る恋山形駅(智頭町)。もともとは普通の小さな無人駅でしたが、その駅名にちなみ駅舎やフェンス、そして業務用電話ボックスまでをピンクで塗装、各所にハートマークを配置してから一気に有名になりました。全国で「恋」という字が付く4駅による「恋駅プロジェクト」(JR北海道「母恋駅」、三陸鉄道「恋し浜駅」、西武鉄道「恋ヶ窪駅」)が発足して、つなげると1枚の絵になる「恋の駅きっぷ」を販売しました。
このピンク色の駅、薄いピンクというよりもしっかりとした濃いピンク色で、山の中に突如現れる姿はこれまた異様な雰囲気ではありますが、インパクトにはなっています。
駅にはハートのモニュメントと「恋がかなう鐘」があります。このハートのモニュメントには、ハート型の絵馬の形がくり抜かれており、ここに絵馬をはめて鐘を鳴らせば、その恋がかなうんだとか。横には絵馬を掛ける場所もあり、定期的に職員の方々が絵馬を回収し、1年1回鳥取市にある因幡の白うさぎで知られ意中の人との縁結びのご利益があるとされる白兎神社に奉納し心願成就を祈っているとの事。
駅に設置された恋ポストは、智頭急行独自の郵便ポストになりますので集荷は週一回なのですが、風景印と呼ばれる特殊な消印が山形郵便局で押されます。ぜひ大切な方や、自分へ手紙を出してみるのはいかがでしょうか。
ハート型の絵馬は運転士さんからか恋山形駅の自動販売機で購入することができますが、郵便はがきは売っていないのであらかじめご用意されることをお勧めします。
他にも、恋ロードや、写真撮影スポットなどたくさん見どころがありますのでぜひ一度訪れていただきたいところ。特急列車の止まらない駅ですが、1日1本ずつ恋山形駅で15分ほど停車する普通列車がありますのでぜひご利用下さいませ。県内県外から鉄道旅以外の観光客もたくさん訪れます。実際私が駅を堪能しているときには、バイク乗りの方がツーリングの途中で訪れていました。
温泉もあります
智頭線には「あわくら温泉」(岡山県西粟倉村)という駅があります。これまで智頭急行はかれこれ30回ほど旅しているのですが、この駅ではまだ降りたことがなく、ちょっと温泉に入ってみたいなと思い下車しました。
日帰り温泉が可能な「湯~とぴあ黄金泉」という施設が駅から徒歩15分のところにあるとのこと。普通列車しか停車しないこの駅ですが、盛土の上に建設されていてかなり立派なたたずまい。無人駅で平日だったこともありこの駅で降りたのは私のみ。階段を降りていくと、温泉の案内板やモニュメントなどがあり、大きな待合室もあります。
次の列車までおよそ1時間15分しかありません、のんびりしてる暇はありません。早速山道を登って、温泉を目指します。舗装された山道は決して広くはありませんが、道沿いを流れる川の様子などを見ながら歩くのはとても心地よいもの。夏の日差しが照り付けていますが、山の中は風が舞い涼やかな雰囲気なのが不思議でした。見えてきました「湯~とぴあ」。とても立派な建物で、駐車場も広く、マイカーで来るお客さんの方も多いのでしょう。
智頭急行の「智頭線1日フリーきっぷ」を使っていたので、割引の入湯料で入ることができました。受付を済ませて風呂場へ。室内は広く窓も広くて開放的です。大きな浴槽と薬湯、サウナと水風呂もあり、いろんな温泉があります。取り急ぎ体と髪を洗い、屋内の浴槽を一通り堪能しました。そして屋外の露天風呂にも。やっぱり露天風呂はいいですね。「オフ」って感じがします。スマホは脱衣所のロッカーに入れてあるのでもう電話がかかってきても出ることができないという諦めもあり、自分のスイッチを切ることができます。川のせせらぎの音を聞きながら過ごす時間、温泉のお湯はややぬるめですが、その分長くゆったりと過ごせるのがよいでね。
あっという間に時間は経つものです。もう行かなければなりません。フロント前にはいろんなお土産のほかに、産地直送の野菜を売っています。バザー品でしょうか瀬戸物も売っていて、地元のお店って感じがほほ笑ましいです。
また15分掛けて山道を下って駅に到着し、またホームに上がりました。湯上がりならではの爽快感で後続の普通列車待つ時間もまた至福の時。また来たいなと思います。
街散歩にピッタリ「平福」
一度町歩きをしたことのある平福駅(兵庫県佐用町)で降りてみました。ここは佐用川の川沿いに古い建物が並ぶ旧宿場町で、映画の撮影などにも使われたことがあるとのこと。ここではちょっと行ってみたいところがありました。「平福茶房」という甘味処です。旧街道沿いにあるお店は蔵をリフォームしたと思われる、新しくもシックな外観でとてもおしゃれなたたずまいです。今回は限定のパフェをいただきたく。私が訪れたのはもう午後2時を回っていたので、売り切れてしまっているのではと不安でしたが、何とかありつけました。上品なグラスの中に、あんこクリームアイスクリームの甘さも体に染み渡りとても美味。
私が訪れたのは夏の季節だったので他のお客様はかき氷を召し上がっている方が多かったです。お店の前には広場が広がり、外でいただくこともできます。家族連れが楽しそうにかき氷を食べているのを見てほほ笑ましく思いました。そこへ「スーパーはくと」が駆け足で通過していく姿は智頭線沿線ならではだなと思いました。
旧街道沿いには他にも喫茶店やおそば屋さんなどいろんなお店もあり、また少し行けば道の駅「宿場町ひらふく」もあり町歩きするにはちょうどのサイズ感でお勧めです。
智頭急行の鉄印は、上郡、大原(岡山県美作市)、智頭の各駅で求めることができます。「智頭線」と大きく線名が主張しているのが印象的です。鉄印のデザインは、智頭線沿線5市町村の花をイメージしたマークとマスコットキャラクター「スーパーはくとくん」をデザインしています。また、このマークはイベント列車「あまつぼし(天津星)」の座席カバーにデザインされているものです。「鉄印」を片手に「あまつぼし」に乗車してみるのも通な乗り方かもしれません。
智頭急行では、4月と10月の年に2回、期間限定で駅名の鉄印シリーズの記帳を開始しています。現在、第3弾となる智頭急行オリジナル「鉄印 河野原円心駅」の記帳が行われいます。「鉄印 河野原円心駅」は、宝林寺(兵庫県上郡町)が所蔵する南北朝時代の武将、赤松円心坐像と白旗城跡をモチーフにしています。次のデザインは、どこの市町村の駅になるのでしょうか。
なかなか途中下車する機会が少ないのが、バイパス路線の宿命かと思います。しかし、あえて普通列車で途中下車して、新たな発見をして、鉄印とともに思い出に残していただければと思います。
(2022年11月24日掲載)