「そうだ、錦川鉄道に行こう」―九州出張の帰りふと思い、博多駅から新幹線に飛び乗りました。
17:35新岩国駅到着
錦川鉄道錦川清流線は、山口県岩国市にある川西駅と錦町駅を結ぶ第三セクター鉄道線で、ほぼ2級河川である錦川に沿いながら走ります。
同線は、国鉄岩日(がんにち)線を引き継ぐ形で1987年に誕生しました。単線非電化路線でディーゼルカーが延長32.7キロをおよそ1時間かけてゆっくりと走ります。山陽新幹線の新岩国駅と錦川鉄道の清流新岩国駅は乗り換えができ、今日の旅は清流新岩国駅からスタートすべく、新幹線高架駅の脇の細い道を300メートルほど歩きました。
17:45清流新岩国駅着
この駅は実に趣のあるいい駅です。
以前はホームの両側とも列車の発着に使ういわゆる「島式ホーム」でしたが、現在は片側だけを使っています。昔は線路があったであろう場所には草が生い茂っていました。
清流新岩国駅の見どころは、なんと言っても待合室。この待合室はもともと貨物列車に連結されていた車掌車を転用したものです。JR北海道にはこのタイプの待合室がいくつか存在するのですが、この駅では「コキフ形」という比較的新しめな車掌室付きコンテナ車の車掌室部分を使っていて、なおかつ、広く使うために車掌車を二つ使ったぜいたくなつくりです。
ただ、中をのぞくとがらんとしています。以前はここにも椅子が設置されていたのでしょう。窓もしっかり開いて換気が十分に行き届いている印象です。屋根上には、この駅舎がコンテナ車から改造されたものと分かる銘板が取り付けられています。そして注目は入り口上部に「御庄駅」と書いてあること。実はこの駅、2013年に清流新岩国駅という名称になるまでは、御庄(みしょう)駅だったのです。駅名を変更される事はよくありますが、旧駅名の名残があることはあまりなく、以前、CS日テレプラスで放送中の「鉄道発見伝」のロケで来た時にみんなで発見して、盛り上がったことを思い出します。
他にも古いレールを利用して作られた柱が支える屋根があるなど、とてもローカルな雰囲気のするこの駅、新幹線接続駅とは思えないほど静かで、近くを流れる用水路の水の音と樹々の葉っぱがこすれる音が聞こえてきます。そんな中、突然、通過する列車の大きな音が聞こえてくるので、やはり新幹線接続なんだと思う不思議な駅なのです。
17:59清流新岩国駅発
ホームにピンク色のディーゼルカー錦町行きが1両でやってきました。ワンマン列車なので後ドアからの乗車です。整理券を取ります。このご時世なのでスタンドに置いてあったアルコール液で手を消毒します。そしてドアがゆっくり閉まり、列車は錦町方面に向けてゆっくり出発しました。
錦川鉄道の車両はとてもカラフルで、沿線の見どころが描かれています。今回、乗ったピンク色の車両は「ひだまり号」で、沿線に咲く桜の花がデザインされています。
座席は2人掛けのセミクロスシートですが、進行方向に合わせて座席の向きを変えることができます。お手洗いも完備されていて、最近トイレが近くなった私にはほっとひと安心? 細いですが座席ごとに折りたたみ式テーブルも付いていて、ちょっとした荷物やドリンクが置けます。金具部分には「指詰め注意」と注意書きが貼られていて、テーブル一つ一つに貼ったのかと思うと職員さんの気づかいにジーンときました。網棚部分には沿線の見どころが解説されていてとても参考になります。また座席のヘッドレストカバー部分にも路線図等が描かれていて、とても親切だなと思いました。
列車は軽快に進みます。やがて錦川が近づいてきました。沈下橋も見えます。2級河川らしく水量も豊富でしっかり流れている印象です。そして一つ目の駅、守内かさ神駅を越えると川からやや離れ、森の中を疾走する印象です。新緑のトンネルを潜っていく感じがとても爽やかです。
18:11行波駅着
難読駅名です。さて、なんと読むでしょうか? 答えは「ゆかば」駅です。この駅の近くの河原では、7年に1度お祭りが行われるとのこと。乗ってきた列車を見送り、まずは空全体を見渡してみます。そうすると、ちょっと山を登ったところに神社の鳥居が見えます。これも何かの縁なのでお参りしてみることにしました。この荒玉神社はとても神秘的で心が落ち着きます。
お参りをしたら次は線路をくぐって錦川の方へ向かいます。途中で見かけた湧き水で手を洗ってみましたが、何となくまろやかな感触がしました。川には橋がかかっていて橋の途中まで行き川面を見ると、しっかり流れているにもかかわらず水がとても澄んでいる印象。魚を見つけようと目を凝らしましたが、なかなか見つかりませんでした。この川の流れと、山の緑と、夕日の黄色がマッチしたこの時間帯はとても心地よく穏やかな気持ちになれます。時折ウグイスの鳴き声なども聞こえ、とても癒やされます。
18:23行波駅発
緑の中から岩国行きの列車がやってきました。今度は水色を基調としたカラーの「せせらぎ号」です。錦川に生息するアユやオオサンショウウオが描かれていてとても涼しげです。
この他、森林の緑と錦川に生息するカワセミを描いた「こもれび号」、蛍の光をイメージした黄色いボディーの「きらめき号」と計4種類の車両があるので何が来るか楽しみですね。
私は「せせらぎ号」に乗って元来た線路を戻り、錦川鉄道の起点駅でもある川西駅に向かいます。錦川鉄道はおよそ90分に1本のペースで運行され、途中の北河内駅で上下線が行き違うダイヤになっています。こうした本数の少ない路線では、一つ一つ駅で下車するのも良いのですが、時間が限られている場合は、上り列車下り列車を上手に乗り継ぎ、いったん引き返すことも積極的に取り入れると効率よく駅を巡ることができます。これは漫画「鉄子の旅」の登場人物としても知られるトラベルライターの横見浩彦さんに教わった技です。
元来た線路ですが、同じ景色でも少し時間がたっただけで太陽の角度が変わり、違った印象になるのが楽しいです。
列車は先ほど来た清流新岩国駅を過ぎ、JR岩徳線と合流、川西駅に近づいてきました。
18:42川西駅着
お客さんをたくさん乗せて岩国駅に向かって出発する列車をお見送りしました。川西駅は、かの有名な岩国錦帯橋の最寄り駅。小説家・宇野千代の生家の最寄り駅でもあります。ただ今回は立ち寄っている時間もなく、またの機会に。この駅では以前から行ってみたかった「ボナペティ」と言うお店に行くことにしてきます。
こちらはデミグラスソースがとてもおいしいハンバーグで有名なお店。駅の階段を降りて大きな道路を5分ほど歩くととんがり屋根の良い雰囲気のお店が見えてきました。お店に入ると、お店の方が待ってましたとばかりにお出迎えいただき、注文をした料理を準備していてくださいました。実は先ほど錦川のほとりから電話でテークアウトの注文をしていたのでした。
店内には家族連れが夕食を楽しんでいました。ハンバーグは列車の中でいただきます。カウンター奥のシェフにもお礼をして、また川西駅に戻りました。
聞くところによると、もう少し先に行った「欽明館名物自動販売機コーナー」には麺類の自動販売機があり、ラーメンやうどん、そばが食べられるそう。全国からファンが訪れる名所らしく、ここも立ち寄りたいスポットですね。
19:13川西駅発
先ほど川西駅まで乗車していた車両が、終点の岩国駅から引き返す形でやってきました、錦町行「せせらぎ号」。またお会いしましたね。よろしくお願いします。
今度は反対側の終着駅・錦町駅まで乗り、鉄印をゲットするのが目的です。19時を過ぎるともうどっぷり日が暮れ、車窓はほぼ漆黒。川とは反対側の車窓から見える滝や、カジカガエルの生息地などビュースポットでは徐行してくれることもあるのですが、また明るい時に来たいと思います。
さて、先ほどテークアウトしたハンバーグをいただきます。他のお客さんの迷惑にならないよう“密”をさけた座席を選びました。とても香り高いデミグラスソースに包まれたハンバーグは柔らかく、めちゃくちゃおいしいです。付け合わせのお野菜も味わい深く、特にニンジンの甘さときたらたまりません。ぺろりと平らげました。
さて、錦町駅に近づくにつれトンネルも増えてきます。山を走るローカル線に乗ると毎回思うのですが、よくここに鉄道を通したなと。大変なご苦労があったんだと思います。たくさんの方々が関わったんだと思います。
20:09錦町駅着
終着駅に到着しました。鉄印帳の記帳は20時15分までと、遅くまで受け付けているのがありがたいです。窓口で4種類の鉄印があるとご案内をいただきましたが、直接帳面に角印を押印する2種類のタイプのうち、もっともシンプルなものをセレクト。他にも、錦川鉄道のキャラクター「ニシキー」が登場するものや、「せせらぎ号」の車両がデザインされた書き置き印もありました。こちらは四半期ごとに車両が変わっていくそうです。
伺ってみると、直接押印するタイプが人気だとか。丁寧に朱肉を付けて、しっかり印鑑の四隅を抑えて押してくださいました。ありがとうございます。
20:20錦町駅最終列車岩国行発車
最終列車で岩国に戻ります。あっという間のアフターファイブ鉄印旅、とても充実した旅になりました。時間はかなり短かったので、やりきれなかった部分もありましたが、時間的にはやむを得ないですね。
ちなみに次回、私がゆっくり錦川鉄道を訪れる際、絶対チェックしたいことをリストアップしておきます。
「とことこトレイン」
「とことこトレイン」は錦町駅から雙津(そうづ)峡温泉駅まで約6キロ間の専用道路を電気自動車が引っ張るトロッコ遊覧車です。約40分かけてゆっくり走ります。錦町駅を出たらすぐ入ることになる「きらら夢トンネル」の中にはゴージャスなイルミネーションが施されています。写真で見ただけでもそのすごさは感じ取れますので、実際に訪れてそのトンネルをくぐるとどんな感覚がするのかワクワクが止まりません。
他にも、春になれば花が咲き誇る桜並木を通ったり、なかなかお目にかかれない野生のコウモリが生息するトンネルを通ったり、川のせせらぎが聞こえる橋を通ったり、見どころ満載だそうです。鉄道ファンじゃなくてもきっと楽しめるはずです。
ただ、マニアならここでしっかり押さえておきたいのがこの専用道路。「とことこトレイン」の専用道路は、将来的に錦町駅からJR山口線・日原駅まで伸びるはずだった「未成線」を活用したものであるということです。錦川鉄道の祖先、国鉄岩日線は山口県の岩国駅と島根県日原町(現・津和野町)の日原を結ぶ路線として計画され、建設が始まり途中、錦町駅までは完成しました。その先も工事が進められていてある程度まで建設が進んだエリアもありましたが、完成することはありませんでした。この専用道路は、かつて日原までつなぎたかった、列車が走ることを目指した先人たちの悲願を実現しているところがアツいポイントなのです。
清流みはらし駅
2019年に開業したばかりの新しい駅です。近くの道路とは接続されていない、いわゆる「秘境駅」。新しく作られたホームは少し高台の展望台のようになっていて、そこから眺める錦川の清流は絶景だそう。しかしこの駅は到達難易度がとても高く、通常の列車は全て通過してしまいます。なんと「清流みはらし号」などイベント列車のみ停車するという「幻の駅」なのでもあります。イベント列車の運行は1カ月に一回程度。ハードルが高い分、なんとしても訪れたいと言う気持ちが高ぶります。イベント列車は定員があるので気になる方は早めのお申し込みを。
運転体験
錦町駅では駅構内の運転体験ができます。一般車両がメインなのですが、オプションで国鉄型ディーゼルカー「キハ40」も運転できるとか。私は現在47歳ですが、自分と同世代の車両を運転することができるのはとても貴重な経験です。「キハ40」は現在修理中らしいですが、復活した暁にはぜひ国鉄車両を運転したいものです。
21:26岩国駅着
川西駅からJR岩徳線に乗り入れ、岩国駅に着きました。ワンマン列車なので車内で運賃を精算し乗車証明書をしっかりいただき、改札口を通過して今回の旅は終了です。今後、第三セクターのある都市に出張がある方、仕事終わりに少し立ち寄ってみませんか。
(2022年5月21日掲載)