政治ジャーナリスト・泉 宏
岸田政権発足後の2回の国政選挙で大躍進し、立憲民主党に代わる野党第1党の座をうかがう日本維新の会が、逆風に苦しんでいる。
参院選後の8月に松井一郎大阪市長の後継代表となった馬場伸幸衆院議員は、「全国政党」への脱皮を目標に党勢拡大を図るため、10月末から「全国キャラバン」を開始した。「大阪の地域政党」という国民的イメージから関西以外では伸び悩みが目立つだけに、馬場氏は全国各地での遊説で党の掲げる「改革姿勢」を軸に、憲法改正や防衛費増強といった保守的な政策を訴えることで支持拡大に腐心している。ただ、ここに来ての相次ぐ所属議員の問題行動や発言が大きな障害となり始めている。
【点描・永田町】前回は⇒首相が政権維持に強気な訳
「松井氏からバトンを渡された。改革しながら、いろいろなことを前に進めていく」。馬場氏は10月30日、全国キャラバンの最初の遊説地として選んだ仙台市内で熱っぽく聴衆に語り掛けた。維新が掲げる「身を切る改革」の必要性を力説する一方、連携を進める立民についても「協調しながら国民のための政策を実現していく」と訴えた。馬場氏は来年4月の統一地方選までに全47都道府県を巡る予定で、「街頭演説は地道だが、維新スピリッツを全国に広げていく確かな手だ」と、代表としての陣頭指揮に徹する構えだ。
維新は昨年10月の衆院選で、公示前勢力(11議席)を大きく上回る41議席を獲得し、第3党に躍進。今年7月の参院選でも比例代表の獲得議席数が8と、立民を上回った。ただ選挙区では東京や神奈川、京都、兵庫などを最重点区に指定して臨んだものの、当選できたのはわずかに3選挙区だけで、関西以外の地方には浸透できていない。
「全国政党」目指すも窮地に
そうした中、党内から馬場氏の足を引っ張る政治スキャンダルが続発している。まず元衆院議員の新開裕司氏に成り済まし、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を記したビラを配ったとして、私文書偽造容疑で告発された堀本和歌子福岡市議が10月26日に維新を離党、同28日に議員辞職した。この騒動は何とかローカルな話題にとどまったが、今度は7月の参院選比例代表で当選した歌手で俳優の中条きよし氏が11月15日の参院文教科学委員会で、自らの芸能活動を宣伝したことが大問題となった。
中条氏は同委での質問の最後に自身の新曲や年末のディナーショー開催に言及し、「(新曲を)お聞きになりたい方はお買い上げを。(ディナーショーは)今年最後ではなく、芸能界最後」などと得意げに宣伝。インターネット上で「国会の場を宣伝に利用するなんて酷(ひど)すぎる」などと大炎上し、維新幹部も「ど素人の極みだ」と怒り狂う事態となり、慌てた党執行部は翌16日、藤田文武幹事長が口頭で厳重注意し、中条氏も「不適切だった」と謝罪した。
中条氏は同党が集票アップを狙った目玉候補として比例代表に擁立し、4位で当選した。ちなみに5位当選は猪瀬直樹元東京都知事だ。この人選に、政界では「知名度は高いが、悪名も高い問題候補」との批判が渦巻いていた。それだけに「国会議員が絶対やってはいけない行為で、議員辞職もの」(自民党幹部)と、擁立を主導した松井、馬場両氏の責任を問う声も多い。
馬場氏は「統一選での600議席獲得に代表の地位を懸ける」と宣言しているが、最新の各種世論調査では維新の支持率下落が際立つだけに、こうした状況が続けば目標達成は不可能で、「馬場氏の代表の地位も風前のともしび」との見方が広がっている。
(2022年12月6日掲載)
次回は⇒【点描・永田町】「改造」「解散」...飛び交う揣摩臆測 12月12日(月)掲載予定
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