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学生最強ランナー・駒大の田沢廉、最後の箱根駅伝で「3冠」狙う

2022年12月28日16時30分

出雲と全日本制覇に貢献

 学生最強ランナーが「3冠」を懸け、自身最後の箱根駅伝に臨む。男子1万メートルで日本歴代2位の記録(27分23秒44)を持ち、7月の世界選手権(米オレゴン州)にも出場した駒大の田沢廉。今年のトラックシーズンは思うような結果を残せなかったが、エースとして出雲駅伝、全日本大学駅伝制覇に貢献した。学生生活の有終の美を飾るべく、年明けの第99回東京箱根間往復大学駅伝競走に照準を合わせている。(時事通信運動部 前田祐貴)

 世界選手権までの道のりは平たんではなかった。参加標準記録(27分28秒00)を日本勢でただ一人突破し、3位以内に入れば代表に決まる優位な状況で迎えた5月の日本選手権1万メートル。終盤に日本記録保持者の相沢晃(旭化成)がペースを上げると、先頭集団から脱落し、まさかの10位に終わった。

 失速の要因に挙げたのは、調整の失敗。5000メートルに出場した4月の金栗記念の疲労が抜けないまま練習を重ねたという。「コンディションをすごく落としてしまって、いつもの流れではなく練習をやってしまった。大事な試合で力を発揮できないという自分の弱さが出た」。悔しさをかみしめ、「体力とかスピードの問題じゃない」と肩を落とした。

世界選手権は「参加しただけ」

 世界選手権に出場できる可能性を信じ、変わらず練習を続けてきた。結局、他の日本選手が有効期間内に標準記録を切ることができず、切符は田沢に回ってきた。「大舞台で結果を残せる選手が、今後も活躍できる選手」と意気込み、米国へ乗り込んだ。

 アフリカ勢が引っ張り、世界大会ならではの激しいペースの上げ下げもあるレース。5000メートルくらいまではペースアップに対応したものの、その後はずるずると後退した。「差し込み(脇腹痛)が来てしまって、そこから全然思う走りができなかった。ただ耐え忍ぶレースだった」

 28分24秒25の20位に終わり、目標に掲げた27分台にも届かなかった。「体調のミスで、世界との差もあまり肌で感じることができなかった。ただ参加しただけのレースになってしまった」と肩を落とした。苦い経験ではあったが、「世界で戦えたことは少なからずプラスになっている。そういった部分を自分の中に取り込んでやっていきたい」と前向きに捉えた。

変わった意識

 迎えた最終学年の駅伝シーズン。「世界選手権代表」の肩書きが意識を変えた。「自分の立ち位置を一番深く感じた。しっかり戦えたとは言えないようなレースではあったけど、そこで走るか走らないかでは全然違う」。エースとしての自覚は、一層強いものになった。

 10月の出雲駅伝は、約1週間前に胃腸炎にかかって体調が万全ではなかった。それでも、2区の区間新記録を出してトップに立ったルーキー佐藤圭汰からたすきを受け取った3区で好走。フィリップ・ムルワ(創価大)に次ぐ区間2位と意地を見せた。

驚異の区間新

 胃腸の痛みはさらに1週間ほど長引いたが、回復後は順調に練習を重ねた。「悪くはない」と言う状態まで上げて臨んだ11月の全日本大学駅伝で、本領を発揮。2番目に距離の長い7区(17.6キロ)を任され、2位に2分近くの差をつけたトップでスタート。競り合う相手がいない中、同区初の50分切りとなる49分38秒をマークし、区間記録を大幅に更新した。

 その7区。大八木弘明監督は従来の区間記録(50分21秒)を目標に設定した。だが、田沢は「それじゃ駄目だと思って、49分台を一つの目標にした」。抑え気味に入り、最初の5キロは14分を少し切るほどのペース。ギアを上げたのは15キロ地点。「49分台に届くかギリギリだった。そこから上げないと49分台は出ない」。必死の形相で力を振り絞り、アンカーの花尾恭輔にたすきを渡した。

「区間賞は取って当たり前」

 2年生だった2020年はアンカー、19年と21、22年は7区で区間賞。「(全体の)レベルが上がってきている中で、自分が大きな記録を出して4年目の全日本を終えたいという気持ちがあった」。その言葉通り、驚異の区間新記録で4年連続の勲章に花を添えた。「区間賞は取って当たり前。うれしいのはうれしいけど、当たり前」。さらりと言ってのける表情に、不動の大黒柱としての自覚がにじむ。

 21年は同じ7区を50分36秒で走った。大八木監督は「今はあの時よりもはるかに強い」と評し、49分台への驚きはないという。「世界で戦うなら、今回の創価大の選手(ムルワ)に勝って当たり前。同じぐらいの記録を持っているので、勝たなくてはいけない」と期待を込める。

青学大のエースも認める実力

 駅伝を走る時に田沢が心掛け、報道陣の取材にも繰り返す言葉が「他を寄せ付けない走り」。全日本大学駅伝では、まさにその走りを体現した。青学大のエース近藤幸太郎も同じ区間で49分台を出して食い下がったが、14秒及ばなかった。近藤は「はるか向こうという意味で、全然ライバル視していない。次元が違う」と田沢の飛び抜けた実力を認める。

 チームは史上5校目、駒大としては初の大学三大駅伝3冠に王手をかけた。主将の山野力は「田沢でしっかり(他校との)差を稼いでくれるという安心感がチームとしてある」と全幅の信頼を寄せる。その中で、当初から3冠を目指してきた各選手についても「田沢を頼るだけではなく、自分が稼いでチームを助けていくんだと思って走ってくれている」と変化を感じ取っているという。

 田沢にとって、学生生活の集大成となる箱根駅伝。前回は各校のエースが集う2区で区間賞を獲得した。今回は後半に上り坂が待ち構える2区ではなく、下り基調の3区を希望している。大八木監督がどんな区間配置を決めるのか。「区間賞、区間新を目標に頑張りたい。他を寄せ付けない走りをしたい」。23年の年明けに向け、闘志を燃やしている。

◇ ◇ ◇

 田沢 廉(たざわ・れん) 2000年11月11日生まれの22歳。青森山田高から駒大に進み、1年生の時から大学三大駅伝で活躍。3年生だった21年12月、1万メートルで日本歴代2位の27分23秒44をマークした。22年1月の箱根駅伝は2区で区間賞。22年7月の世界選手権は1万メートルで20位。5000メートルの自己ベストは13分22秒60。身長180センチ。青森県出身。

(2022年12月28日掲載)

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