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森保ジャパンに学ぶ「Z世代」と組織学 世代論に詳しい常見陽平准教授に聞く

2022年12月28日12時45分

 サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本代表は2大会連続の16強入りを果たした。森保一監督が話し合いを重ねて能力を引き出し、老いも若きも一体となったチームの躍進は、企業も含めたあらゆる組織の好例と言える。「Z世代」を多く擁した集団が、世界で輝いた要因はどこにあるのか。世代論に詳しい千葉商科大の常見陽平准教授(48)=労働社会学=に話を聞いた。(時事通信運動部 前川卓也)

上意下達は組織を弱体化

 日本代表がカタールの地で列島を沸かせたのは記憶に新しい。W杯1次リーグ第1戦でドイツ、第3戦ではスペインを撃破。優勝経験を持つ強豪から二つの金星を挙げた姿は、明るいニュースとなった。

 2得点を挙げた堂安律(フライブルク)は24歳、久保建英(レアル・ソシエダード)は21歳。推進力のあるドリブルなどジョーカーに躍り出た三笘薫(ブライトン)は25歳だ。彼らは全員が1990年代半ば以降の生まれで、いわゆる「Z世代」と呼ばれる。いつの時代も「若者の考えが理解できない」と嘆く声がある中、若者を生かせれば組織に活力が生まれるのも確か。日本代表の場合、森保一監督の「選手が主体的にやることを覚悟して見ていきたい」という哲学が合致したと、常見さんは見立てている。

 「これからの時代は、叱るではなく諭す、です。一緒に考えて成長を促すことが非常に重要。森保監督の考え方は、この時流にぴったり合致していると言えます。『失敗してもいいからやってみよう』『間違ってもいいから、意見や考えを聞かせて』という姿勢が大切。商品を売るにしても、スポーツで結果を出すにしても、トップダウンや上意下達は長期的に組織を弱体化させる時代になったと言えます」

根性ではなく合理的な「Z世代」

 そもそも、この年代の特徴はどのようなものか。

 「明確な定義は、あるようでありません。一般的に言われるのは、グローバル化とSNSが前提という世界観を持っています。倫理的でもあり、社会問題を身近なこととして考えられるのも特徴です。『素振り1000本』みたいな根性論ではなく、合理的な努力を好む傾向があります」

 集団にとって、世代間による価値観のずれは常に起こり得る。今の時代によく聞かれるのは、「若者に覇気がない」という言葉だろう。一般的に上昇より安定を好むとされる世代。ただ、これを断片的に理解するのは危ないという。物心がついた後の2008年秋にリーマンショックが起きるなど、経済の危機や成長の鈍化に直面した年代だからだ。

 「そもそも安定志向は、決して悪いことではありません。彼らは安定が前提ではない社会で育ってきたことが一つのポイントです。長くGDP(国内総生産)が上がっていない現実もあります。貧富の差は日本でも広がり、身近なところでも親が離婚したり、リストラされたケースもあるでしょう。そうなると本能的に安定を求めるのは、非常に正しいベクトルです」

企業もスポーツも「叱るより諭す」

 常見さんはスポーツほど今の若者にマッチしやすい環境が整っているものはないと指摘する。言い換えれば、これは社会にとって一つの指針。生まれた時からインターネットが普及していた「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代は、機器や情報の取り扱いに慣れている。プレーを映像やデータで解析し、科学的に分析する手法は、ときに冷めていると捉えられがちな「合理的に考える性格」に合致する。

 「企業の管理職論にも通じますが、スポーツ界はすさまじく合理的に発展している印象があります。学生スポーツでさえ、少なくとも映像を撮って分析する時代。それが今のZ世代にはまり、さらに進化している印象を受けます」

 W杯初出場を目前で逃した1993年の「ドーハの悲劇」を経験した森保監督。その現役時代は、三浦知良やラモス瑠偉、柱谷哲二ら我の強い選手が日本代表にあふれていた。ときにはラモスの要求を無視してオフト監督の指示を優先するなど、負けない芯の強さではね返していた。ところがそうした過去の経験にとらわれず、今は視野の広い柔軟な思考を貫いている。

 「上の年代は自分たちの常識で考えてはいけません。不幸な思い出自慢はやめるべきです。ある大きな企業の管理職研修を行ったとき、彼らの悩みはそろって『今の若者に違和感を覚える。ガッツが足りないから強さを伝えようとしても、うまくいかない』でした。それでますます煙たがられてしまうのです」

 昔はこうだったの押しつけではなく、今の傾向を踏まえた上で指導に生かす。そのためには何が必要か。

 「叱るとか怒るはダメと言うけれど、それを進化させて考えてほしいと思います。繰り返しますが、『叱るより諭す』。相手に気付いてもらうことが大事という姿勢です。頭ごなしに『このやろう、できていないじゃないか』と怒るのではなく、『じゃあ一緒にデータを見てみよう』と。数字や経過を参考にして一緒に分析し、『ここはこうした方がいいかもしれないね』など、発展的、建設的に話していくことが重要なのです」

 「森保監督の場合、コミュニケーションが直接取れて、さらに細かいニュアンスや機微のやりとりもできる日本人監督だった点も大きいでしょう。若者の扱い方や火の付け方、考えを伝えるための発信の仕方が本当に素晴らしかった。ファンを含め、周囲から愛される環境をつくれたのも非常に良いことです。これがチームワーク、つまり組織の力を最大限にしたと言えます」

森保監督はお手本のような接し方

 どれだけ若者に寄り添えるか。現代の組織論を語る上で、森保監督はお手本のような接し方だったという。

 「もちろん報道ベースで知っている範囲にはなりますが、気合や根性だけではない印象を強く受けました。日本代表には30代の選手もいますが、今の若い人たちに非常に合致した指導です。考えや戦術を一方的に伝えて終わりなどではなく、選手との人間関係が非常に良く、バランスがいいと感じました」

 森保監督は就任以来、選手に耳を傾け、話し合いを重視してきた。こうした積み重ねが、大きな成果につながったと説く。

 「ここから学べるところはいっぱいあります。何よりもまず科学的、合理的に考えていた点です。サッカーで映像やデータを参考にするように、営業や人事も科学的に今の市場に合っているか分析することが重要です。なぜこんなに魅力のない商品を、買いそうもない顧客に売りに行かせるのかということがあります。市場は変化して当然。それに寄り添わないといけません。さらに、それを売りに行く若手営業の気質が変化しています。今の営業組織や戦略が市場に合っているかも見ないといけません。いいところは取り入れ、伸ばすところは伸ばす。今の若者が考える売り方や見せ方の方が優れていることは、よくあることです」

 W杯1次リーグ最終戦、スペイン戦の前。練習で当初は5―3―2を試していたが、選手らは思うようにプレスが効いていないと感じていた。強豪を相手に、このままではいけない。そこで26歳の鎌田大地は、所属するアイントラハト・フランクフルト(ドイツ)での経験をもとに3―4―3の布陣を提案した。日頃から選手の自主的かつ積極的な意見を大切にする森保監督は、これを了承。相手の良さを消し、この大会二つ目の金星という釣果を挙げた。

 「これは好例でしょう。企業では、現場がどれだけ市場と向き合えているかがポイント。加えて、管理職が市場の変化や求めるものを機敏に察知できるかも大事なのです。日本代表に当てはめると、選手は海外組が多く、普段から世界と向き合い、世界を肌で感じながら戦ってきました。森保監督は生きた声を聞きながら、市場に合う戦略かを柔軟に判断した管理職と言えます」

 「市場と商品が合っているかは非常に重要です。例えば就職サイトなら、大手の細かいところにまで応える大きなプランも必要なら、中小企業も参加できるような手軽な料金プランも必要でしょう。売れないイコールその人に力がないではなく、ニーズのないものを間違った戦略で売りに行くから結果が出ないのです。組織の力はみんなで切磋琢磨して上げていくもの。それで個人の能力も高まるのです」

長友、吉田ら「中間管理職」も機能

 スポーツにおける組織の構成もまた、一般社会と酷似する点がある。日本代表の場合、「中間管理職」に相当する30代中盤の選手もうまく機能した。長友佑都(FC東京)の「ブラボー!」、美化されようと負けは負けという意味を込めた吉田麻也(シャルケ)の「グッドルーザー(潔い敗者)は、もういい」などは、若手を熱く前向きにさせる言葉。こうした雰囲気づくりも現代の風潮に沿ったものだったとみる。

 「特に吉田選手のメッセージは、ものすごくSNSっぽい表現だと感じました。受け手を意識し、同時に自分も鼓舞するような言葉です。分かりやすく、それでいて熱く人の心に響きます。サッカーに限らず、最後はどれだけ熱くなれるか、あるいは冷たくなれるかが勝つための方法なのです」

 仕事はピッチ上だけではない。39歳のGK川島永嗣(ストラスブール)や36歳の長友、34歳の吉田らがチームを盛り上げ、精神的にも支えた。間に立って調整したり、上と下の世代の言葉を「翻訳」するのも彼らの重要な役割。それが組織を強固にし、まとまりを生んだ。

 「ミドル世代の働きって本当に重要なんです。でも、今は一般企業でその年代が苦しんでいます。若手社員がどんどんモザイク化し(多様な人が集まり)、中途入社もいれば子どもがいる人もいて、あるいは親の介護、仕事の学び直しをしている人だっています。さまざまな価値観をパッチワークし、穴埋めしていくことが求められる中、中間管理職の役割は大きい。日本代表では、そのミドル世代が本当によく機能したと言えるでしょう」

押し付けず、能力伸ばした組織が勝つ時代

 時代とともに価値観は生まれ、増えていく。同時に情報の刷新も重要だ。警戒は必要だが、必要以上に恐れてもパフォーマンスは落ちる。適度な自信と緊張を持つことの大切さは、どの分野でも同じ。今回の日本代表の躍進について、常見さんはこう捉えている。

 「選手は普段から世界で戦い、科学的なトレーニングで汗を流しています。そもそも代表メンバー26人のうち、欧州のクラブに所属するのが19人。私のような素人からすると、番狂わせなんて一つもなかったように感じます。皆さんがそう感じるのであれば、それはアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がかかり、まるで(サッカー漫画の)キャプテン翼がはやった頃の世界観のままということ。今の感覚で言えば、ドイツとスペインに勝ったのは必然と捉えるべきでしょう」

 W杯後の帰国会見。森保監督は、日本の全ての若者へ向けてこう発信した。「日本の若い人たちは素晴らしい力、可能性を持っていると思う。日本の選手の姿を見てもらって、俺たちもできる、自分たちの可能性を信じて、そして自信を持って成長してくれたら本当にうれしい」。この熱い呼び掛けの理由は。

 「日本代表監督として、しかるべきメッセージだと思います。勇気や夢、希望を与えることはすごく大事。でも、ここには翻訳も必要です。この言葉をそのまま受け取って、『みんな日本代表のように頑張れ』と鼓舞するのは危ない。それだと若者に責任を押し付けているだけになります。面白い傾向がありまして、ゲームの主人公は日本製だと若者ばかりなんですけど、海外製は普通のおじさんだったりします。『若者頑張れ暴力』になってはいけません。鼓舞することも重要だし、サポートに徹する姿勢も必要。森保監督の言葉の真意は、自分のステージで自信を持って腕を磨いてほしいという投げかけでしょう。自分の置かれている状況を不利な点も含めて認識し、合理的に考えながら自分のフィールドで活躍してほしいということです」

 聞く耳と柔軟な姿勢を大切にする森保監督ら管理職、世界を肌で感じる堂安や三笘ら「Z世代」、その間で鼓舞と調整に励んだ長友や吉田ら中間管理職。現代社会の縮図と言える各年代が融合し、世界を驚かせるまでに花開いた。

 「難しく考える必要はありません。組織がまとまる原理は、スポーツでも一般社会でも同じです。今の若者にはあるべき姿を押し付けるのではなく、一緒に考えて見つけ出すことが肝。若者の能力を伸ばした組織が勝ち続ける時代に入っているのです」

◇ ◇ ◇

 常見 陽平(つねみ・ようへい) 1974年4月4日生まれ。北海道出身。一橋大商学部、同大学院社会学研究科修士課程修了。民間企業勤務やフリーランスを経て2015年4月に千葉商科大の国際教養学部専任講師に就任し、現在は准教授(労働社会学)。労働問題や若者論などに詳しく、寄稿や講演なども精力的にこなす。参議院経済産業委員会や、厚生労働省の「多様な選考・採用機会の拡大に向けた検討会」で参考人も務めた。政策に関する提言なども行っている。

(2022年12月28日掲載)

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