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旧統一教会の解散は可能なのか オウム真理教との違い

2022年11月20日10時00分

 安倍晋三元首相銃撃事件に端を発し、大きな社会問題として改めてクローズアップされた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題。当初は対応が鈍かった政府・自民党だが、世論の強い反発や内閣支持率の低落に重い腰を上げざるを得なくなった。岸田文雄首相は、被害者救済のための新法について、消極的だった姿勢を転換して今国会に提出したい考えを表明。一方、解散命令についても、「信教の自由」を理由にした慎重姿勢を変え、請求を視野に入れ始めた。しかし、事態は簡単迅速には進展しそうもない。それはなぜなのか。前例と比較しながら、整理してみたい。(作家・ジャーナリスト 青沼陽一郎)

 宗教法人の解散命令は、宗教法人法の第81条で次のように規定されている。

「裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる」

 その第1号には、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」とあり、さらに第2号には「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」とある。いわゆる霊感商法や高額の献金をさせられたとする被害の相次ぐ旧統一教会にも、政府が所轄庁を通じて解散命令を請求すべきとする議論が高まった。

 これを根拠に、最初の解散命令が出されたのがオウム真理教だった。地下鉄・松本両サリン事件などを引き起こしたばかりでなく、化学兵器サリンと密造した自動小銃で武装蜂起まで企んでいた、もはや宗教法人というよりテロ組織あるいは殺人集団と呼ぶべき団体だ。1995年3月の地下鉄サリン事件後、警視庁による一斉家宅捜索で、さまざまな事件が白日の下にさらされると、同年6月に所轄庁の東京都と東京地検が解散命令を請求した。それもサリン製造を企てた殺人予備行為が、第81条に該当するとした。同年10月には東京地裁が請求を認めて解散命令を出し、翌96年1月には最高裁で最終的に決定している。

 オウム真理教のほかに、もうひとつ解散命令が出された宗教法人がある。「明覚寺」だ。もともとは「本覚寺」という宗教法人を1987年に茨城県で設立したのが始まり。無料相談などで人を集めては「霊視」を行い、「水子の霊がついている」「先祖の霊のたたりだ」など脅し、供養の見返りに高額を請求していた。これが首都圏の消費者センターに多数の苦情が寄せられ、損害賠償請求訴訟が相次ぐと、同じグループが和歌山県に「明覚寺」という宗教法人を設立して、こちらでも同様の活動を繰り広げていく。1995年10月に愛知県警が名古屋市にあった明覚寺のグループ「満願寺」の住職を逮捕。教団トップや幹部も詐欺の疑いで摘発され、実刑判決を受けた。そこから1999年に文化庁によって和歌山地裁に明覚寺の解散請求が行われ、2002年に解散命令が出ている。

 ただ、解散命令といっても、宗教法人法によって認証された宗教法人としての解散であって、いうなれば法人格を剥奪され、法人は清算され、税制上の優遇もなくなるが、認証以前の任意の宗教団体としては存続が認められる。集会結社の自由まで奪うものではなく、そこで信教の自由は保障される。それは、オウム真理教の後継団体が「Aleph(アレフ)」「ひかりの輪」「山田らの集団」の三つに分裂、名前を変えて今でも活動を続けていることからも分かる。

 ただし、オウム真理教はテロ組織だった側面も持つことから、1999年に国会で成立した「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(団体規制法)による観察処分の対象となっていて、公安調査庁による立ち入り検査や活動実態の報告が義務付けられている。

腰が重いワケ

 オウム真理教や明覚寺の事例に比べ、旧統一教会への解散命令請求に政府の腰が重いのは、過去の2件が刑事処罰の対象となったことに対し、旧統一教会には刑事事件での有罪事例がないためだ。2009年には不安をあおって印鑑を売りつけたとして、統一教会信者が刑事訴追され、有罪判決を受けているが、高額献金の返金などの民事訴訟はいくつもあっても、教団や幹部が刑事訴追されたことはない。

 この点を巡って、10月3日に召集された臨時国会で岸田首相の答弁も右往左往する。

 10月18日の衆院予算委員会。宗教法人法の第81条にある解散命令請求要件の「法令違反」について、岸田首相は刑法違反のみに限られると答弁。その上で、「民法の不法行為は入らない」と断言していた。

 ところが、翌19日の参院予算委員会では、「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、法令に反して著しく公共の福祉を害すると認められる場合には、民法の不法行為も入り得る」と、一夜にして前言を撤回。「個別事案、それぞれに応じて検討するべきであり、結果としてご指摘のように民法の不法行為も該当する、このように政府としては考え方、整理をさせていただきました」と説明したのだ。しかも、民法の不法行為には、指揮・監督する立場の人物の責任を問う「使用者責任」も対象に含まれるとの考えも合わせて示している。

 そもそも、臨時国会冒頭の衆参両院の代表質問では、「信教の自由を保障する観点から宗教法人の法人格を剥奪するという極めて重い対応である解散命令の請求については、判例も踏まえて慎重に判断する必要がある」との答弁を繰り返して、解散命令請求には慎重だった岸田首相だが、17日の衆院予算委員会では、宗教法人法に基づく「報告徴収」「質問権」を行使して、旧統一教会の調査実施に乗り出すことを表明している。これは同法78条の2に規定されているもので、解散命令請求の前段階として、法令違反などの要件に該当するかどうか、教団に報告を求め、所轄庁の職員に質問をさせて調べるものだ。背景に内閣支持率の低下があっての方針転換と見られ、これを受けて前述の国会論議になった。

実効性は?

 ところが、この「報告徴収」「質問権」を所轄庁が行使するにあたっては、事前に文部科学大臣が宗教法人審議会に諮問して意見を聞かなければならず、しかもその内容も、宗教法人審議会に諮らなければならない規定がある。

 その上しかもだ。「報告徴収」「質問権」の行使が過去になく、初めてのことだからという理由で、宗教法人審議会に諮る前に質問の内容や基準を事前に検討する専門家会議を永岡桂子文部科学相が立ち上げている。この報告を受けてようやく法的手続きに入ることになる。

 さらにこの手続きで慎重な意見が出る可能性もあれば、その過程を経て職員が質問をしようと教団の施設に立ち入ろうにも、教団側の同意がなければならないことが、前出の第78条の2に定められている。教団が虚偽の報告をすることもあれば、回答を得たとしても解散の事由が見当たらなければ、教団の存立にお墨付きを与えることになる。

 解散命令の事由に「民法の不法行為も該当する」と断言した岸田首相だったが、24日の衆院予算委員会では、政府が確認した民法の法令違反は22件で、そのうち教団の組織的な不法行為責任が認められた事案が2件、使用者責任が認められた事案が20件であることを明らかにした上で、「過去に解散を命令した事例と比較して十分に解散事由として認められるものではない。報告徴収・質問権を行使することでより事実を積み上げることが必要だ」と述べ、オウム真理教など過去の2件はいずれも刑法違反だったことを強調している。

勧誘活動は止められない

 一方で政府は「旧統一教会問題関係省庁連絡会議」を立ち上げ、9月には合同相談窓口を設置。ここでようやく政府が初めて被害実態を把握できたことになる。そこで寄せられた旧統一教会に関する相談が1700件余りあり、このうち警察につないだ案件が70件程度あったとしている。これで刑事事件として立件され、教団の罪が問われることになれば、前例にならって解散命令請求もしやすくなる。ただ、それも有罪が確定するまでには相当の時間がかかる。

 その前に「報告徴収」「質問権」の行使をしたいのが政府の方針。永岡文部科学相は11月11日、専門家会議でまとまった基準に沿って検討した結果、質問権を行使すると表明。文化庁は年内にも初の権限行使に踏み切りたい構えだが、それも前述の通り、行使したところで実効性があるとは言い難い。

 いずれにせよ、解散命令までこぎ着けたとしても、あくまで法人格を失うだけで、オウム真理教がそうであるように、任意団体としては存続が認められ、宗教活動も続けられる。そのオウム真理教の後継団体は、今でも名前を隠した勧誘活動を行い、2019年10月時点で現金などの資産が12億9000万円あったことが、公安調査庁に報告されている。

 集金能力に長けた旧統一教会が仮に法人格を失ったとしても、今のような勧誘、献金活動は続けられることを、あえて言及しておく。

 青沼陽一郎(あおぬま・よういちろう) 作家・ジャーナリスト。1968年長野県生まれ。犯罪・事件や社会事象などをテーマに、精力的にルポルタージュ作品を発表している。著書に「食料植民地ニッポン」「オウム裁判傍笑記」(ともに小学館文庫)、「私が見た21の死刑判決」(文春新書)、「侵略する豚」(小学館)など。映像ドキュメンタリー作品も制作。

 (2022年11月20日掲載)

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