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どうする新ワクチン 悩めるあなたへ【解説◆新型コロナ】

2022年12月06日10時00分

NPO法人医療ガバナンス研究所・上昌広理事長

 新型コロナウイルスのまん延が続いています。「第8波」の到来やインフルエンザとの同時流行も懸念され、政府はオミクロン株対応ワクチンの接種を呼び掛けていますが、接種率は2割程度(2022年12月5日公表時点)。「3回接種しても感染した」とか、「感染しても軽症で済むのでは」といった考えを持つ人も少なくないのかもしれません。新ワクチン接種には、どのようなメリットがあるのでしょうか。接種するかどうかを考える上で、ヒントとなることはあるのでしょうか。NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長に寄稿をお願いしました。

 【解説◆新型コロナ】

【目次】
 ◇致死率は
 ◇勧めるケース
 ◇若年者にこそ、効果あり?
 ◇大事なことは「いつ打つか」 

致死率は

 「コロナワクチンの追加接種はどうすればいいですか」。外来診療で、このような質問を受けたとき、わたしは「これまでに複数回ワクチンを打っている人、あるいは感染した経験がある若い人は、一部の例外を除き、追加接種をする必要性は低い」と説明している。

 それは、オミクロン株の毒性が低いからだ。図1は、コロナの致死率の推移を示す。英オックスフォード大が運営するデータベース「アウワ・ワールド・イン・データ」を用いて、筆者が作成したものだ。22年1月にオミクロン株の流行が始まって以降、致死率は急低下している。

 1000人に1人の感染者が亡くなるということは重大な事実だが、普通の風邪でも、一部の感染者が亡くなることは避けられない。心肺機能が低下した高齢者が感染した場合、ギリギリで維持している体調を崩し、不幸な転帰をとることはある

 では、オミクロン株は、どの程度、危険なのか。インフルエンザと比較すると分かりやすい。厚労省によれば、インフルエンザの致死率は60歳未満で0.01%、60歳以上で0.55%だ。オミクロン株と大差ない。オミクロン株が主流となった現在、基本的には、健康な若年者があえてワクチンを打つ必要性は低い。ただ、コロナは後遺症など未解明な部分がある。推奨する人はいる。

勧めるケース

 では、追加接種を勧めるのはどんな人なのか。まずは、高齢者や持病のある人だ。コロナワクチンを追加接種することで、重症化予防効果は高まる。4月13日にイスラエルの研究チームが、米『ニューイングランド医学誌』に発表した研究によれば、オミクロン株流行中の昨冬、60歳以上の高齢者に4回接種を行ったところ、3回接種と比べ、接種後1カ月間の入院は68%、死亡は74%減少した。同様の研究成果は、他国からも報告されている。高齢者や持病を有する人は、オミクロン株が弱毒といえども、ワクチンを追加接種しておいた方が無難だ。

 それから、今冬に受験などの人生のイベントが控えている人だ。持病がない若年者でも接種を勧める。その理由は、少なくとも、第8波の間は、コロナが感染症法の2類に据え置かれるだろうからだ。感染した場合、症状があれば7日間の外出自粛、その後、3日間の感染予防行動の徹底が求められる。無症状でも、最低5日間は不要不急の外出の自粛が求められる。これは感染症法に基づく法定措置だ。

 もし、この時期が入学試験などのイベントにぶつかれば、出席できなくなる。これは医師・看護師や教員などの国家試験も例外ではない。これまで政府は、感染はもちろん、濃厚接触で試験を受けられなかった人に対しても、追試などの救済措置を実施していない。コロナにかかったがため、留年を余儀なくされた人もいる。

 こういう人はワクチンを追加接種するといい。外出自粛が困難な人、そして同居する家族など、だ。前述のイスラエルの研究でも、追加接種は重症化予防だけでなく、感染予防にも有効だった。問題は、重症化予防と比べると、その効果が低く、持続が短いことだ。接種後1カ月間の感染予防効果45%で、接種後2カ月で効果は10%まで低下した。感染予防効果は2カ月弱しかもたない。

若年者にこそ、効果あり?

 追加接種の感染予防効果が低いことは、別のグループからも報告されている。米疾病対策センター(CDC)が、米国でBA.4/5が感染の主流となっていた9月14日から11月11日までの間に、全米の薬局で実施された検査36万件余りのデータを分析したところ、BA.4/5に対応する2価ワクチンの接種を受けた50~64歳、65歳以上の群では、追加接種を受けていない群と比べ、感染率はそれぞれ28%、22%低下していただけだった。

 興味深いのは、この研究では、若年者では感染予防効果が高かったことだ。18~49歳の年齢層では43%感染が減っていた。追加接種の効果は若年者の方が高いのかもしれない。

 実は、若年者で追加接種の効果が高いことは、わが国でも確認されている。6月16日、福島県相馬市が発表した調査結果が興味深い。相馬市はワクチン接種が全国で最も迅速に進んでいる自治体の一つだ。6月15日現在、中高生1834人中1066人(58.1%)が3回目接種を終えていた。全国平均より27.1%高い。

 相馬市によれば、4月1日から6月15日のオミクロン株流行期間に中高生65人が感染しているが、3回目接種完了者、未完了者の感染率はそれぞれ0.67%、7.16%だった(表1)。相馬市では、3回目接種により、中高生の感染を91%予防したことになる。

 追加接種が若年者で有効という結果は、医学的にも納得がいく。コロナは、はしかや天然痘とは異なり、1回のワクチンや感染で完全な免疫はできない。インフルエンザのように何度も感染し、何度もワクチンを打つことで、徐々に免疫が形成される。人生経験が短い若年世代は、新型コロナ流行前から存在した、従来型コロナに感染した経験が少なく、免疫をもっていなかったのだろう。ただ、高齢者比べ、ワクチンへの反応性は高いから、ワクチンを追加接種することで、免疫力が急速に向上する。

大事なことは「いつ打つか」

 今冬、受験など人生の一大イベントを控えた若者は、ワクチンを打つべきだ。23年1~2月にイベントを控えた人なら、そろそろ接種すればいい。いま打てば、第8波の流行期をフルにカバーすることができる。追加接種は、感染予防を目的とするなら、いつ打つかが大切なのだ。

 既に、このような対策を行っている国もある。その一つがイスラエルだ。同国の研究チームは、22年1月のオミクロン株の流行時期に、医療従事者に4回目接種を行うことで、感染リスクを65%低下させたと報告している。イスラエルは21年末から流行が本格化し、感染者数のピークは22年1月25日だった。まさに流行の真っ最中に医療従事者に一気にワクチンを接種したことになる。

 人口約920万人のイスラエルだから実行可能だった施策だが、医学的には合理的だ。日本政府は追加接種を推奨しているものの、その時期については明言していない。コロナワクチン接種は、個別化対応が必要だ。主治医や信頼出来る医師と相談して、接種をするか否か、いつ接種するかを決めてほしい。

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