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岸田政権復活の処方箋とは 今こそ求められる政治の緊張感◇三ツ矢憲生・元外務副大臣インタビュー

2022年12月16日14時00分

 「政界一寸先は闇」─。岸田文雄首相はこの言葉をかみしめているのでないか。昨年10月に就任後、衆院選と参院選に勝利して順風満帆と思えたが、安倍晋三元首相の国葬や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題、物価高騰、相次ぐ閣僚の辞任などで、内閣支持率は急落、低迷している。防衛費増額方針を巡って与野党の動きも活発化する中、岸田政権復活の処方箋はあるか。自民党岸田派(宏池会)で長く首相を支え、昨年政界を引退した三ツ矢憲生・元外務副大臣に聞いた。

【目次】
 ◇日本の課題を洗い直す
 ◇被害者救済法は波乱含みの法律
 ◇首相の理念が見えない
 ◇なぜ防衛費増額はGDP比2%なのか
 ◇今の宏池会、国民が望む姿か

日本の課題を洗い直す

 ─内閣支持率低下の原因は何か。

 基本的に岸田派は第4派閥で、政権基盤は盤石でないが、衆院選、参院選とも勝ったから首相は自分がやりたいことを始めるのではないかと思った。ところが相変わらず党内で意見を聞いていて、やりたいことが見えない。「信念を持ってやりたいことがないからでは」と国民が思い始めたのではないか。個別の問題への対応がぐらついたところもあまり国民から評価されなくなった原因の一つだと思う。

 ─支持率回復の処方箋は。

 特効薬はないと思う。ただ初心に帰り、日本が抱えている課題を洗い直し、処方箋を練り直して真面目にやっていけば、国民の信頼を回復できるチャンスはある。

 例えば日本で長期的に一番の問題は少子化だ。若い人が結婚して子どもをつくりたいと思わないのは、日本の行く末に希望が持てないからだ。就職氷河期の世代は正社員になれなかった人たちが結構いる。この問題に関しては、労働法制を変えて正規・非正規(雇用)の区別をなくすべきだ。正規・非正規で格差ができ、それが固定化されるのが一番まずい。

 後は経済成長だ。日本経済は国内需要に支えられてきた面が大きかった。ところが、人口が減って高齢化が続くと国内需要は減少していく。それでも個人の金融資産は約2000兆円ある。企業の内部留保は約500兆円に上る。個人の金融資産のうち、恐らく半分以上は高齢者が持っているが、これを生かすべきだ。

 例えば相続税の税率を高くし、贈与税を安くする。お金の必要な子育て世代に早くお金を回し、消費を喚起すべきだ。需給ギャップを財政で穴埋めし、公の借金ばかり増やすのは異常だ。現代金融理論(MMT)はいくら借金してもいいと説くが、それなら税金は要らない。法人税、所得税も見直したほうがいい。最後に科学技術だ。世界中の若手研究者を日本に集めるくらいのことをすべきだ。

被害者救済法は波乱含みの法律

 ─旧統一教会問題では被害者救済法が成立したが、解決に向かうか。

 法律はあいまいな内容になっている。「2世信者」と言われる子どもたちを本当に助けられるかどうか非常に疑問だ。あまり踏み込むと信教の自由に抵触する。寄付した人が「自分の意思で寄付した」と言えば追及できない。それをマインドコントロールでそう言わされているとして救おうとしている。それから財産権は憲法でも保障されているし民主主義の基本の権利の一つだが、そこにも抵触してくる可能性がある。波乱含みの法律ではないか。

 ─巨額の総合経済対策も打ち出したが、効果は。

 一時的ではないか。燃料関係だけでなく食品など、軒並み物価が上がっている。給料を上げないといけないが、政府がいくら言っても企業が給料を上げるわけがない。新型コロナウイルス禍を奇貨として、制度疲労を起こしている日本の経済システム全体を見直すべき時期に来ていると思う。

首相の理念が見えない

 ─首相の政権運営に問題はないか。

 岸田氏の理念が見えない。目先の問題の処理に追われ、より重要な課題への対処がおろそかになっていないだろうか。政権を支える体制を見直してはどうか、今からでも遅くはない。政策面でも国会対応の面でも首相の「聞く力」を発揮できるよう、もう少し体制の強化を図った方がいい。

 内閣改造もした方がいいと思う。公然と反旗を翻すような閣僚を閣内に置いてこのままくすぶって(来年の)通常国会に入って本当にいいのか。

 ─外交分野では、どう対応すべきか。

 ウクライナ問題や台湾問題、北朝鮮問題を巡り、日本でも勇ましい議論が出ている。「外交の岸田」というのなら、武力衝突に至らないようにするのが外交の役割だ。外交力が問われている。

 北朝鮮問題や台湾問題に関しては、日韓や日中で話し合いをした方がいい。甘いと言われるかもしれないが、中国はそんな簡単に(台湾へ)軍事侵攻しないと思う。やれば中国にも犠牲が出る。日本には米軍基地がある。米国に自衛隊の基地を共用しようと言ったらいい。その方が抑止力として効果がある。

 北朝鮮あるいは中国が東京にミサイルを撃ち込むと、横田(東京都)や横須賀、厚木(ともに神奈川県)にある米軍基地が影響を受けるので、米国が黙っているわけがない。

 来年は、広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。日本はアジアで唯一のメンバーだが、G7でアジアのために何か言ったことがあるか。日本はいつまでも大国ではない。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の可能性も含め、もっとアジアと緊密に連携していくべきだ。

なぜ防衛費増額はGDP比2%なのか

 ─増税を含む防衛費の増額議論が本格化している。

 なぜ(国内総生産=GDP比)2%に増額かという説明が全くない。北西洋条約機構(NATO)の基準である数字を引っ張ってきただけだ。NATOはいろいろな国が入っているから、2%はそのくらい出さないと守れないというNATO参加料だ。ところが日本は米国以外の国と安全保障で同盟関係にはない。

 しかも日本の軍事支出が2%になると世界で(9位から)3位になるらしい。何で2%にしないといけないかという中身の議論をしない。巡航ミサイル「トマホーク」を500発購入するとも言われているが、40年前に開発されたミサイルが本当に抑止力になるのか。

 ─防衛費増額の前に取り組むべきことがあるとしたら何か。

 まず日米同盟は強固なものだということを外に対してもっと見せることだ。あとは先に述べた、米軍の存在をもっと外に見えるよう、自衛隊基地を米軍にも使ってもらうというようなことをする。もう一つ言うと「西太平洋協力会議」のようなものをつくる。日本、米国、韓国、豪州、ニュージーランドと、中国との領土問題を抱えているフィリピン、マレーシア、インドネシアなどで、毎年協議する場をつくったらどうか。

今の宏池会、国民が望む姿か

 ─30年ぶりの宏池会政権となる岸田内閣だが、どのような政策を期待するか。

 私は宏池会が生活を大事にし、本当に困っている人に手を差し伸べるというイメージがあったからメンバーになった。今は右寄りの声の方が大きい。しかし本当に国民がそれを望んでいるかといったら、そうでもないと思う。

 国民が抱えている障害、生きづらさを取り除いていくのが政治の役割だ。正しいと信じることをやり、こういう社会を実現したいというパッション(情熱)を持って国民に訴えていけば、必ず支持してもらえると思う。国民を説得するのも政治家の大きな役割の一つだ。

 最後に、政治に緊張感を持たせるためにも政権交代可能な二大政党が必要だと思う。そのための一番の近道は、実は自民党を二つに割ることではないだろうか。分け方は保守とリベラル、都会と地方など、いろいろとあると思うが、野党も含めて再編すべき時期に来ているのではないだろうか。米中間選挙も事前予想では圧倒的に共和党有利といわれたが、そうでもなかった。やはり米国人の良識が働いている。まさに二大政党だ。

 三ツ矢憲生氏(みつや・のりお) 1950年生まれ。三重県出身。東大教養卒。75年運輸省(現国土交通省)に入り、国交省航空局監理部長などを経て退官。2003年衆院選で初当選。6期務め、21年10月に政界を引退。この間、財務政務官、外務副大臣、自民党政調会長代理などを歴任。初当選から所属した宏池会では事務総長代行などを務めた。

(聞き手・時事通信社 日高広樹、「地方行政」11月21日号の記事に一部加筆・修正したものです)

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