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可能性も課題も膨らんだソフトボールJDリーグ元年

2022年12月28日16時00分

 女子ソフトボールの新リーグ「ニトリJDリーグ」が1季目を終えた。選手たちのプレーやファンサービスなどの取り組み、情報発信などには意欲と成果が感じられた半面、東京五輪の金メダルがあっても集客はいまひとつ。運営面でも多くの課題が見えた。

東西制と長丁場、期待される西の底上げ

 2022年3月28日に開幕したJDリーグは、11月13日のダイヤモンドシリーズ決勝で幕を閉じた。ともに千葉・ZOZOマリンスタジアムを使い、それぞれ6502人、4579人の観客が声援を送った。

 リーグの編成や対戦方式などが大きく変わった。前年の日本リーグ1部12チームに2部から4チームが加わり16チームに。レギュラーシーズンはこれを東西に分けて地区シリーズ(3回総当り)と交流戦(各カード1試合)を行い、チーム当たりの試合数は22から29に増えた。

 本拠地で東西に分けたため旧1部のチームが東に7、西に5チーム。「東高西低」を懸念する声がある中、当初はどのカードも好試合が続出。西地区では旧2部のSGホールディングスが前半で首位を争い、最終順位も2位に1ゲーム差の3位と健闘した。

 それも途中から力の差が見え、交流戦は東の40勝24敗。国際試合との関係で前半戦が長くなったため、投手の疲れなのか一方的な試合もあった。日本のレベル向上を図る観点で「例えば後藤希友(トヨタ)が西地区の打者と多く対戦していて強化につながるだろうか」との声が聞かれる。

 ただ、1季で入れ替えれば、西地区の可能性を否定してしまう。2季目も同じ地区分けで、交流戦も1試合ずつの見込み。西の下位チームに補強や底上げを期待したいところだ。

 多かった「WOW」、高額入場券も売れ行き好調

 グラウンドではMC(進行役)がイベントや先発メンバー発表、ヒロインインタビューなどを盛り上げ、観客の視線を強く感じてモチベーションが高まった選手が多い。

 女子ソフトボールを初めて見た人が感じる驚きを表す「WOW(ワオ)」が、リーグのキーワード。投手の球速だけでなく豪快な本塁打、好守と俊足の間一髪勝負、走者三塁でエンドランをかけるスリルなど、多くの「WOW」を提供した。

 リーグのホームページやSNSでは「WOW COLLECTION」などを展開。身分証明書のような写真と定型の略歴が主だった従来のプロフィルが一変し、楽しい写真や意外な素顔の紹介で個性をアピールした。

 そうした選手を間近で見てもらおうと、グラウンドレベルのフェンス際で観戦できる特別席「WOWパスポート」席を売り出した。選手との記念撮影など特典付きで一、三塁側が1万円、外野の本塁打ゾーンが6000円。スタンド席(大人1000円台~2000円台)に比べ高額だが、売れ行きは好調だった。

 11月30日に東京都内で開いた個人賞表彰式では、受賞者と記念写真を撮れる特別観覧券を2人1組3万円で販売した。購入した4組のうち3組は選手の家族だったが、1組は一般のファン。川崎市の及川宏美さんと土井路子さんは、東京五輪を見て「チーム一丸となる姿に鳥肌が立つほど」夢中になり、この日の特別観覧券も「価値があると思うから高いと感じない」と話した。

 これらの価格設定がこの競技の庶民性に合わないとの声は多く、当初は接遇も不十分に見えたが、島田利正チェアマンは「皆さんが高いと思うものが売れたりする。興行である以上、それに応えてもう1回来てもらえるようにしなければ」と、新たなニーズ開拓の意義を指摘する。

 厳しかった観客数、楽しみの創出を

 東海理化、トヨタ、日立などが企業努力で集客に貢献。遠征先で関連会社などと連係して応援席を埋めたチームもあった。応援席でなく一般席には、初めて来たとおぼしき観客の姿もよく見かけ、金メダル効果が感じられた。

 それでも、現実の数字は厳しい。レギュラーシーズンの観客数は、特別な設定だった開幕戦を除いて計10万6183人、入れ替えなしのため1日1会場(1または2試合)当たり804人だった。前半はまだコロナの影響で、企業が従業員らに呼び掛けにくく、96日・会場で平均753人。後半に36日・会場平均941人と盛り返したので、これが来季につながるか。

 小・中・高生の姿も少なく見える。元五輪代表監督でリーグのキャプテン(副会長)・宇津木妙子さんは、おなじみの「高速ノック」で普及活動に飛び回り、子どもたちや競技経験のある中高年の熱意を肌で感じるだけに、観客数につながらない歯がゆさを感じる。

 「地元の子どもたちをもっと招待してもいいのでは。無料に慣れると有料入場者が増えないというけれど、競技をしている子どもたちは、大人になったら入場券を買って来てくれるはず」

 試合前のイベントや試合後のソフトボール教室は、より積極的になった。元五輪代表らOGも熱心に駆け付けて一役買ってくれる。ただ、予算や球場設備の制約で演出に限りがある分、何か工夫が必要だろう。今季はできなかったサインボールの投げ込み、グッズの品ぞろえなど、球場へ行く楽しみの創出にも課題は多い。

 オフにはファン感謝イベントやソフトボール教室などが行われている。リーグとしては「シーズン中にも少人数でいいから地域の学校などへ出掛けてほしい。オフよりも『今週の土曜日に見に来てね』などと言える方がいい」(島田チェアマン)と考えるが、チーム側の事情もあり、これも課題だろう。

 動画配信は月曜ナイターも好調

 全試合を配信したスポーツナビの累計視聴件数は2200万、累計ユーザー数は900万と好調だった。プロ野球のない日に野球ファンを取り込もうと行った月曜ナイターは、視聴件数が土・日を大きく上回り、島田チェアマンは「見るものがない日だから見られた」と手応えを感じている。

 集客効果はまだこれから。「月曜より金曜の夜の方が来てくれる」(宇津木キャプテン)との考え方もある。月曜ナイターを入り口に、曜日を問わずいかに球場へ呼ぶか。もっと野球ファンの目に止まるよう、元プロ野球選手らを起用した仕掛けも考えるという。

 マスメディアの取材は想像以上に減った。それも個人の愛着でやり繰りして来る記者が中心。東京五輪後の各社の予算・人員削減や、パリ五輪からの除外が原因か。リーグやチーム、選手による発信だけで十分ならいいが、ファン層拡大にまだ既存メディアが必要だとすれば、寂しい取材風景だった。

 主体が日本ソフトボール協会からJDリーグ機構になったことで、現場の実務に行き違いも生じた。徐々に改善が図られたようだが、来季はリーグ、協会、地元(地方協会、自治体、チーム)が「三位一体となってやらなければ」と宇津木キャプテン。

 2季目に問われるもの

 スポーツに限らず、改革を始めれば「新旧」の間でさまざまな反応が起こる。変化の規模やスピードに対するイメージや期待感が食い違えば、結果の捉え方もかみ合わない恐れがある。

 プロジェクト開始前に共有した危機感を思い出し、今季のグラウンドで再確認できた女性スポーツとしての大きな可能性をよりどころに、2季目は同じベクトルに向かう力をさらに高められるか。

 モニカ・アボット(トヨタ)は、10月の日本引退セレモニーで「何かが起こるのを待つのではなく、自分が何かを起こすアスリートになってください。皆さんが思うより皆さんの力はすごくて、扉を開ける力を秘めているのです」と、後輩たちや子どもたちに呼び掛けた。「アスリート」を「リーグ」と置き換えれば、JDリーグへのメッセージにもなる。

(時事通信社 若林哲治)(2022.12.28)

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