【藤田俊哉の司令塔ラボ③】サッカー日本代表に足りなかった「試合を無理やり動かす力」

2022年12月09日20時00分

 中東で初開催となるサッカーの第22回ワールドカップ(W杯)カタール大会は、いよいよ佳境です。日本代表は史上初の8強入りを逃しましたが、ドイツとスペインを撃破して世界を沸かせ、2大会連続の16進出には列島も興奮しました。時事通信社は、元日本代表で現役時代にジュビロ磐田や欧州のクラブで活躍した藤田俊哉さん(51)にW杯の解説をお願いしています。今回は日本代表の総括や、大会終盤の見どころなどをお話ししてもらいました。(構成・時事通信運動部 前川卓也)

動かない試合を動かす力に差

 こんにちは、藤田俊哉です。残念ながら日本は決勝トーナメント1回戦で前回大会準優勝のクロアチアに敗れてしまいました。私もすごく悔しく感じました。でも、皆さんを熱狂の渦に巻き込んだことからも分かるように、日本は本当に素晴らしい戦いぶりを見せてくれたのも事実です。こんなに盛り上げてくれた日本の選手と森保一監督、スタッフの皆さんに、まずは感謝とねぎらいの思いを伝えたいと思います。

 さて、惜しくもPK戦で散ったクロアチア戦。日本はまたもや悲願の8強入りを逃しました。これまでより近づいたようにも感じますが、一方で世界の壁の厚さを改めて感じる内容でした。これだけ世界を驚かせた日本に、まだ何が足りなかったのでしょうか。そのヒントは、相手のクロアチアが示してくれたように感じています。

◆藤田俊哉の司令塔ラボ①
◆藤田俊哉の司令塔ラボ②
◆特設ページ 2022FIFAワールドカップ

 クロアチア戦には負傷で状態を落としていた遠藤航(シュツットガルト)と冨安健洋(アーセナル)が戦列に戻り、この日もいい守備から入ることはできていました。ただ、90分、120分と続く難しい戦いの中で、両チームの経験の差が如実に出たと言えます。クロアチアは前回大会で決勝トーナメント以降の4試合のうち、3試合が延長戦。さらに2試合はPK戦で決着しました。準優勝するまでの道のりは、とてもタフだったと言えます。場数の違いが、ひしひしと伝わってきました。

 それをすごく感じたのは、試合がこう着し始めた後半です。クロアチアは前半途中から攻め手がないように見えたのに、全くチャンスがない状況から同点ゴールを奪いました。クロアチアにあって日本になかったものは、何もないところからゴールを生み出す力です。「うまく崩せないときはこうする」や「劣勢ならこうする」など、勝機をたぐり寄せる引き出しをたくさん持っていました。

 何もないところからゴールを生み出す力は重要です。あの失点の場面を思い出してみてください。シンプルなクロスに合わせられた形で、守備を崩されたものではありませんでした。でも、それも得点パターンの一つ。そういうカードが豊富だったのが、クロアチアだったと思います。どんな時でも何かしらの手を備えており、総合力で一枚上でした。

 もちろん日本は流れのいい場面でゴールする、交代策でスイッチを入れて流れを変えることなどは大会を通じて示せていました。では、動かない試合を無理やりにでも動かすにはどうするか。それがこれからの日本に突き詰めてほしいポイントの一つです。全体の組織力や戦術が注視されがちですが、これからは流れが悪くても、相手を崩さなくても点を取る方法に目を向ける必要があるでしょう。これまでの日本ではあまり考えが及ばなかった点と言えます。

 そのために必要なのは、やはり個人の能力です。組織ではどうにもならないところで、いかに局面を打開するかというところですから。シンプルだけど正確なクロスから、ペリシッチが強烈なヘディングでたたき込んだように、セットプレーや飛び道具、あるいは別の方法をどうやって身につけていくかが問われています。攻撃の取っかかりも何もない状況からサッカーをつくり、強豪チームに勝ち切れるかが今後のカギ。これまでと違った毛色の考え方が、世界の壁を破るためのピースになると感じています。

次代を担う若手が経験生かし、「新しい景色」を

 日本の今大会を総評すると、試合運びや選手の試合への入り方や捉え方、状況に応じたプレーというのは、すごく成長したと思います。日本のサッカーを世界に示せたことは、非常に有意義でした。明らかにこれまでとは違うインプレッション(印象)を与えたと感じています。

 1次リーグ初戦のドイツ戦と最終戦のスペイン戦で見せたように、強豪相手に先制されても逆転できる戦い方や組織力を示せました。個の能力で戦っても、そこまで遜色のないレベルまで上がってきています。これまでは組織を重視して個を補うという側面がありましたから。突破力のある三笘薫(ブライトン)や、デュエル(球際の決闘)に強い遠藤ら、戦える選手が確実に増え、「日本は脅威だ」と印象づけることができました。現に、私のところにまで欧州の知り合いからたくさんのメッセージが来ています。こんなことはこれまでになかったことで、それだけ世界が注目したということが分かります。

 だからこそ、日本が今大会で世界に与えた衝撃を生かし、チームの総合力を高めることにつなげてほしいと感じています。それには選手個々がそれぞれのクラブチームでレベルの高い経験を積むことが大事。選手自身も感じることは多々あったことでしょう。私としては、日本のサッカーは明るい方向に向いていると感じました。こうした経験が、歴史となって積み重なっていくのです。「ベスト16を突破するというのは、こんなに難しいことなんだな」「世界の壁は本当に厚いんだな」と改めて実感できるところまで来たというのは、今後の糧になります。

 堂安律(フライブルク)や三笘、久保建英(レアル・ソシエダード)ら、これからを担う年齢の選手は、日本サッカーの未来のために経験値を生かしてほしい。クラブで、自分の置かれた立場でもっともっと研さんを積んで、最大限のトライをしてほしい。次代の若手はこの経験を生かして乗り越えたとき、新しい景色が見えるはずです。

強豪チームのギア上がる大会終盤

 決勝トーナメントも進み、大会全体としてはどうでしょうか。やはり強豪チームは先を見据えたマネジメントをしていたんだな、という印象です。序盤は波乱も多く、ドイツやベルギー、スペインは既に敗退しましたが、上へ行けば行くほど強豪チームのギアは上がっていくと実感しています。1次リーグから様変わりしたチームが多く見られ、サッカーのレベルもどんどん上がってきています。日本がいないのは心底残念ですが、ここから一層の見応えが出てくるのがW杯です。

 圧倒的に強いのはフランスでしょう。エムバペは誰が見ても伝わるすごさで、ゴールを量産しています。20年ぶりの南米勢優勝を狙うアルゼンチンとブラジルも興味深い存在です。アルゼンチンは絶対的なスターのメッシに加え、過去の大会以上にチーム全員で戦っている印象を受けます。ブラジルもネイマールが復帰し、サッカー王国の復権へ向けて充実しています。個人的な注目はオランダです。名将ファンハール監督の戦術に加え、得点能力の高いガクポが違った特色を見せています。25歳のベルフワインも楽しみな一人です。

 大会も終盤へ向かい、戦いに厳しさが増すほど、そのチームのスタイルがはっきり出てきます。「この国はこういうスタイルなのか」という発見と同時に、その国が培ってきた歴史や文化、伝統までが浮かび上がってきます。そうした多彩さが、W杯、そして決勝トーナメントの楽しみなのです。技術面、精神面、戦い方の全てでお国柄が出てきます。皆さんの一人でも多くに、もっともっとW杯を楽しんでもらえたら、私もサッカー人の一人としてうれしい限りです。

◇ ◇ ◇

 藤田 俊哉(ふじた・としや) 1971年10月4日生まれ。静岡県出身。元日本代表MF。静岡・清水商高(現清水桜が丘高)の2年時に全国高校選手権優勝。筑波大を経て、94年にジュビロ磐田に入団。中山雅史や名波浩らとともにクラブの黄金時代を築き、リーグ優勝3度、アジアクラブ選手権(現アジア・チャンピオンズリーグ)優勝1度に貢献。01年にはJリーグ最優秀選手に輝いた。オランダのユトレヒトや名古屋グランパスでもプレー。07~11年には日本プロサッカー選手会会長も務め、サッカー界の環境を整備した。通算成績はJ1で419試合に出場して100得点、日本代表では24試合出場で3得点。現役引退後はオランダで指導者を務め、イングランドではフロント業務に携わった。18年に日本協会に入り、今年9月から磐田のスポーツダイレクターを務めている。

(2022年12月9日掲載)

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