祖母は日本人、日本食が好物
サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会に出場する米国代表に、日本にルーツを持つ選手がいる。米メジャーリーグ・サッカー、ロサンゼルスFCに所属するMFケリン・アコスタ(27)だ。このほど時事通信社のインタビューに応じ、日本とのつながりや少年時代の葛藤、現在の心境などを語った。(時事通信ロサンゼルス特派員 峯岸弘行)
「見た目は黒人だが、祖母は日本人で、父も日本で生まれた。祖父はメキシコ系。僕にはいろいろなバックグラウンドがあるんだ。こどもの頃は、自分は何者なんだとアイデンティティーについてずっと考え、苦しんでいた」
生まれ育った場所はテキサス州プラーノで、白人の多い地域。日系、アフリカ系、メキシコ系と複数の背景があるアコスタだが、いずれも少数派で目立ってしまう存在だったという。嫌な言葉を掛けられ、悔しさを味わった日は今でも忘れない。周囲になじもうと、好きなサッカーではなく、米国で人気の高いアメフットに取り組んだ時期もあった。「本当の自分ではなかった」と当時を振り返る。
悩みを抱えた少年時代に大きかったのが祖母と過ごした時間で、日本の文化に触れる機会が多かった。祖母の電話の声や、テレビから聞こえてくるニュースは日本語で、自然と耳に入った。日本食が好物で、「朝食は白いご飯だった。目玉焼きとソーセージにしょうゆをかけて食べるのが一番好きだった。ふりかけも大好きだったんだ」と笑顔で思い返す。
「自分は日本人」と話すことも
祖母の応援も受けてサッカーに熱中し、選手としてどんどんと成長した。同時に多くの人との出会いがあって、次第に考え方は変化。以前は自身について積極的に発信しなかったが、「今は自分を受け入れ、個性だと思っている」と説明する。「人と違って、悩んでいる人がいたら伝えたい。周囲に無理になじむ必要はない。個性的というのは素晴らしいことだから」と言い、最近はメディアを通じて「自分は日本人」と話すこともある。
米国では新型コロナウイルスの感染拡大以降、アジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が増加した。「とても悲しかった。多様性を理解し、差別ではなく受け入れることが大事」とつらい思いをした人々の立場に立ち、メッセージを送る。出自に限らず、性別や環境など少数派の力になりたいと考えている。
9月の欧州遠征で米国は日本と対戦。アコスタは出場せず、代わりに数日後のサウジアラビア戦で先発出場した。日本戦をベンチから見詰め、「若い久保(建英)を始め、良い選手ばかりで本当に素晴らしいチーム。ゴールを決めた三笘(薫)はスピードがあった」。日本語は話せないというが、選手の名前や所属クラブはすらすらと出てきた。
自身初出場となる大舞台が間近に迫り、気持ちを高ぶらせている。「W杯で日本と対戦することを、ずっと夢見てきたんだ。実現したら最高だね」。夢を語る目はきらきらと輝いていた。
(2022年11月15日掲載)