サッカーのワールドカップ(W杯)は2022年カタール大会が22回目。過去の21大会では通算2500を超えるゴールが歴史に刻まれた。
その中でベストゴールを選ぶとすればどうなるか。50年を超えるサッカー観戦歴を持ち、1986年、90年、2002年、06年大会などを現地で取材した筆者が、過去の名場面を回想しながら改めて考えてみた。
当然ながら、見ていないゴール、十分な映像資料がない時代のゴールを選ぶことはできないので、選出したゴールは58年大会以降のものとなった。古いゴールももう少し選びたかったが、多くの人の記憶に残っているであろう最近のものを意識的に多めに入れた。選ぶに当たっては、驚きの度合いや美しさはもちろん、そのゴールやチームの歴史的価値、大会結果に与えた影響度なども総合的に考慮したつもりである。個人の好みがあるので、こうしたランキングは一人ひとり異なるものになるはずだ。幾多の異論があるだろうが、ファンや関係者がそれぞれの名場面を回想するのも、スポーツの大きな楽しみである。(橋本 誠)
20位 エディンソン・カバニ(ウルグアイ) 2018年 対ポルトガル(決勝T1回戦) 先制点
フィールド幅をほぼいっぱいに使ったワンツープレーと言っていい。中盤右サイドでボールを得たカバニが大きなサイドチェンジパスで左サイドのスアレスに送る。胸でトラップしたスアレスがDF1人をかわしてクロスを送ると、パスを出した後、ゴールに向かって突進していたカバニがDF陣の背後に飛び込み、豪快なヘッドで決めた。
スアレスとカバニ。ウルグアイの強力FW2人のコンビでつかみ取ったゴール。背後から迫るカバニに気づかなかったポルトガルの守備の甘さはあっても、フィールド幅いっぱいのパス交換からゴールを奪う2人のパワーやスピードにうなるばかり。強烈に印象に残ったゴールだ。カバニは同点で迎えた後半にも攻撃陣がかみ合った速攻から鮮やかなシュートで決勝点を奪い、ウルグアイは強力2トップの力を見せつけた。
19位 デービッド・プラット(イングランド) 1990年 対ベルギー(決勝T1回戦) 決勝点
試合前半はベルギーがやや優勢で、その後イングランドが押し返す。無得点のまま延長も終了に近づき、PK戦突入かと思われた場面で決勝ゴールが飛び出した。
イングランドのMFガスコインが自陣からドリブルで突進、ベルギー守備陣が倒してゴール正面35メートルほどからのFKとなった。これをガスコインがふわりとした浮き球でゴール前に送ると、体を1回転させてDF陣との間をつくったプラットが鮮やかなボレーでゴール左へ突き刺した。体の動きから見て、プラットはほとんどガスコインのボールを見ていなかったと思われる。半ば本能で体が反応したような値千金の決勝ゴール。イングランドは大会途中からの3バックへの変更やガスコイン、プラットの台頭などで、24年ぶりの4強入り。久々に優勝争いのできるチームをつくり上げた。
18位 ロベルト・リベリーノ(ブラジル) 1974年 対東ドイツ(2次リーグ) 決勝点
前回王者ブラジルが1-0で制した試合の決勝ゴールは、あまりに衝撃的だった。後半15分、ゴール正面20メートルほどのFK。東ドイツ守備陣がつくった壁にブラジル勢が3人忍び込んだ。FKの名手リベリーノがボールを蹴ると壁の左から3人目にいたブラジル選手がその場に倒れ込む。ボールはそこに空いた40ー50センチほどのすき間をすり抜け、少しカーブを描きながらゴール正面右に飛び込んだ。
GKのクロイはまったく動けず、あっけに取られた様子で立ち尽くした。FK時のこうしたトリックプレーは次第にそれほど珍しくなくなり、今は足元の空間を埋めるために、DF陣が寝そべるような守備も定着している。しかし、74年当時では極めて斬新なプレーだった。リベリーノの「針の穴を通す」キックの正確さが、不可能を可能にしたと言える。当時中学生だった筆者は、世界の技術レベルの高さを改めて思い知った。
17位 ジョバンニ・ファンブロンクホルスト(オランダ) 2010年 対ウルグアイ(準決勝) 先制点
その一撃は、前半18分に飛び出した。相手陣の中ほど、左サイドの位置でボールを持った左DFファンブロンクホルストは、相手のマークが離れていることを確認すると、思い切りよく左足を振り抜いた。放たれたシュートは一直線にウルグアイゴール右へ。ボールはゴール右上のポスト内側をたたいてネットを揺すった。シュートの飛行距離は40メートルほどか。
W杯の舞台で何度も貴重なロングシュートを決めてきたオランダが、またも目の覚めるような弾道で相手ゴールを破った。この一発で主導権を握ったオランダは3-2で競り勝ち、32年ぶりにW杯決勝へとコマを進めた。
16位 エデル(ブラジル) 1982年 対ソ連(1次リーグ) 決勝点
「黄金の中盤」を軸に、魅力的な攻撃サッカーを繰り広げた82年大会のブラジル。しかし、その初戦は大苦戦だった。当時のソ連も、タレントぞろい。クラブでも欧州大会で好成績を収めていたディナモ・キーウ勢を軸に、ディナモ・トビリシ、スパルタク・モスクワなどの選手が何人が加わったチームは、クラブでも一緒にプレーしている選手が多く、チーム力も高かった。
ブラジルは、大会を通じて弱点となるGK、CFの課題を露呈。GKペレスのミスと言える拙守で前半に1点を先行されると、前線でもセルジーニョのシュートが決まらず、追い掛ける時間帯が長く続いた。後半30分、ソクラテスがドライブのかかった見事なミドル弾を決めてようやく同点。後半42分の決勝ゴールでようやく熱戦に決着をつけた。相手守備がはね返したボールを右サイドでイシドロが拾ってファルカンにパス。ファルカンがスルーしたところに後方からエデルが現れ、一度左足で小さく浮かせたボールを左足のボレーで突き刺した。まるでバレーボールの「1人時間差」のようなプレー。名GKダサエフは意表を突かれて一歩も動けず。約20メートルの決勝弾が、この大会のブラジルの攻撃エンジンに火を付けた。
15位 ヨハン・ニースケンス(オランダ) 1974年 対ブラジル(2次リーグ) 先制点
2次リーグの最終戦で優勝候補と前回覇者が激突。ともに2戦全勝で、勝者が決勝に進む事実上の準決勝となった。その先制ゴールが、後半5分に生まれた。
自陣からのFKをファンハネヘムが素早く縦へ送る。そのボールを受けたニースケンスは、これを右サイドにいたクライフに預けて前方に走る。クライフは中央を見てクロス。飛び込んだニースケンスがルイスペレイラより一瞬早くボールに触れてスライディングシュート。ドライブがかかったボールはGKレオンの頭上を破ると急速に落下し、ゴールに飛び込んだ。
速攻からのワンツー攻撃。実にシンプルなゴールだが、すべてがトップスピードの中で展開しているのが驚異的だ。DF陣の間の絶妙な位置に素早いパスを送ったクライフと、それをトップスピードでとらえたニースケンスの技と速さが、見事にかみ合った。
14位 ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン) 1986年 対ベルギー(準決勝) 2点目
イングランドとの準々決勝の5人抜きが特筆されるのは当然のこととして、マラドーナのこの大会のイタリア戦の同点ゴール、ベルギー戦の2得点は、いずれもスーパーゴールだった。ベルギー戦、後半6分の先制点は瞬間芸。ブルチャガが出した縦パスに鋭く反応。DF2人にマークされながら抜け出し、飛び出したGKを合わせた3人より一瞬早く左足のアウトで触れてゴールに流し込んだ。
14位としたのは、後半18分の2点目だ。ドリブルで攻め上がったクシューフォからのパスを受けたマラドーナは3人のDF陣に囲まれると、右に持ち出してその間を抜け、最後は左に進んで最後のDFを外すと、ゴールに蹴り込んだ。25歳で心技体がそろい、抜群の切れ味を見せた得点だった。
13位 マキシ・ロドリゲス(アルゼンチン) 2006年 対メキシコ(決勝T1回戦) 決勝点
1-1で迎えた延長前半8分に生まれたゴールだ。リケルメとパス交換した後、メッシは左サイドのソリンにボールを送る。ソリンはルックアップし、サイドチェンジ気味の大きなクロスを右サイドへ放つ。右サイドのペナルティーエリア外側にいたM・ロドリゲスは、ボールを胸でトラップし、浮かせたボールに左足を振り抜いた。
シュートはGKの届かない位置を進みながらゴール左へ。ゴール前を斜めによぎる鮮やかなボレー弾となった。試合途中から白熱した熱戦は、この一撃で決着した。
12位 ロベルト・バッジョ(イタリア) 1990年 対チェコ(1次リーグ) 2点目
R・バッジョもW杯の舞台で何度か印象的なゴールを残している。94年大会の決勝トーナメント1回戦のナイジェリア戦では、1点を先行され不可解な退場で1人少なくなる大苦戦。しかし、バッジョは0-1の残り2分に起死回生の同点ゴールを決めてチームを救い、チームの決勝進出に大きく貢献した。
12位に挙げたのは、イタリアが3位に入った90年大会1次リーグのチェコ戦の後半33分のゴールだ。左タッチライン際、ハーフウエーライン付近でボールを得たバッジョは、近づく2人の相手をジャンニー二とのワンツーパスで突破すると、1人をかわしてペナルティーエリアに迫り、同エリア内でさらに1人を外してゴールへ流し込んだ。23歳の期待の新鋭のスーパーゴールで開催国イタリアは沸き返った。
11位 ヨハン・クライフ(オランダ) 1974年 対ブラジル(2次リーグ) 2点目
ブラジルとの2次リーグ最終戦は、前述した通りに事実上の準決勝。後半20分、クライフは抜群の判断とスピードで2点目を奪い、前回王者の息の根を止めた。
自陣からのカウンターアタック。中盤左サイドでレンセンブリンクに縦パスが入る。際どくオフサイドを逃れたレンセンブリンクはワントラップした後、左サイドを攻め上がるサイドバックのクロルにパスを送った。クロルはタッチライン際をトップスピードで突破する。そのとき、パスを予期して全速力でゴール前に向けて走り出していたのが、クライフだった。
クロルが送った早いクロスを、クライフはジャンプしながら右足のボレーでたたく。まさに点で合わせたゴール。ブラジル守備陣は、オランダの電光石火の速攻に誰も対応できず。2-0で終わった試合は、王者交代を象徴するような一戦になった。
10位 ベンジャマン・パバール(フランス) 2018年 対アルゼンチン(決勝T1回戦) 同点
右サイドバックによる驚きのゴールは、1-2の後半12分に生まれた。中盤から左サイドにパスが出ると、攻め上がった左サイドバックのエルナンデスがゴールライン近くまでえぐって折り返す。ボールはアルゼンチンゴール前を、右サイドへと抜けた。
そこに攻め上がっていたのが、やはりサイドバックのパバールだった。ペナルティーエリア右外側から右足のアウトサイドでとらえたボレーシュートは、左外から右へと巻き込むような軌道を描き、ゴール左のサイドネットへ。サイドバック2人が左右からのスピーディーな攻撃参加で生み出した得点は、大会のベストゴールに選出された。この戦いを4-3で制したフランスは、2度目のW杯王者へと駆け上がった。
9位 ハメス・ロドリゲス(コロンビア) 2014年 対ウルグアイ(決勝T1回戦) 先制点
14年大会のベストゴールに選出された一撃は、前半27分に訪れた。アギラルが前方に送ったボールを、相手守備陣が頭でがはね返す。そのボールを、再びアギラルがヘッドで前方につなぐと、J・ロドリゲスは左胸でトラップしながら体をひねり、浮いたボールを左足のボレーでたたいた。
ゴール正面25メートル付近から放たれたシュートは、クロスバーの下側をたたいてゴールへ。ゴールを背にした体勢から、トラップ、反転、左足シュートと流れるような体の動き。逆方向を向いていた位置から突然放たれた強烈弾に、ウルグアイ守備陣は対応し切れなかった。コロンビアは初の4強は逃したものの、ハメスは大会得点王に輝いた。
8位 ネリーニョ(ブラジル) 1978年 対イタリア(3位決定戦) 同点
無敗のまま3位決定戦に回ったブラジル。1点を追う後半19分、驚きの同点ゴールが生まれた。敵陣の右サイドでボールを受けたネリーニョがゴール前にクロス…と思いきや、右足のアウトでスピンをかけたボールは右に向かって大きくカーブ。外側から巻くように相手GKゾフの指先もかわし、遠いサイドのポストの内側をたたくようにゴールインした。
テクニシャンぞろいのブラジル勢とはいえ、センタリングと思われる軌道から、このスピードで大きく曲げてゴール隅に送り込む技術の持ち主はそうそういない。ネリーニョは日ごろから、このパターンのシュートを狙っていたという。この1点で勢いを取り戻したブラジルは、やはり鮮やかなディルセウのミドルシュートで2点目を奪い、3位の座を確保した。
7位 エステバン・カンビアッソ(アルゼンチン) 2006年 対セルビア・モンテネグロ(1次リーグ) 2点目
およそ1分、25本のパスがつながった歴史的ゴールである。相手ボールを奪取したところから、横、縦と細かくパスをつなぎ、相手に与えない。サビオラ、ソリン、マスケラーノ、M・ロドリゲス、カンビアッソ、リケルメ、クレスポらが絡む。最後はサビオラからのパスを受けたカンビアッソが前方のクレスポに送ると、クレスポは巧みなバックヒールでリターンパス。カンビアッソが左足で相手ゴールへと運んだ。
ぺケルマン監督の下、丁寧にボールをつなぐ攻めを特長として臨んだこの大会のアルゼンチン。その象徴的なチームゴールがこの1点だった。やや不可解な選手起用の末、開催国ドイツに準々決勝でPK戦の末に屈したが、優勝を争う力は十分にあったのではないか。
6位 マヌエル・ネグレテ(メキシコ) 1986年 対ブルガリア(決勝T1回戦) 先制点
開催国メキシコを大会2度目の8強への軌道に乗せた前半34分の先制ゴールである。味方の後方からのパスを、相手ペナルティーエリア手前の位置で受けたネグレテは、左足で巧妙にトラップした、ワンバウンドさせた後、ボレーでアギーレに送る。アギーレは、ダイレクトの浮き球でこれをネグレテに返すと、ネグレテはリターンパスに体を投げだし、右側に倒れるようにしながらジャンピングボレーでミート。ボールは右のサイドネットを揺すった。
メキシコは後半にも1点を追加して快勝。メキシコ全土が大騒ぎとなった。この大会のメキシコはレアル・マドリードのエースFWだったウーゴ・サンチェスを擁し、攻守のバランスもよく、上位進出可能なチームだった。準々決勝では0-0の末のPK戦で西ドイツに屈し、無敗のまま姿を消した。準決勝でも見たいチームだった。
5位 デニス・ベルカンプ(オランダ) 1998年 対アルゼンチン(準々決勝) 決勝点
1-1で迎えた後半終了間際、オランダに劇的な決勝ゴールが誕生した。自陣をドリブルで持ち上がったF・デブールが左サイドから前方右方向にロングパスを送る。45メートルほど先の落下地点に走ったのがベルカンプだ。ペナルティーエリア内右側で追い付いたベルカンプは右足甲でトラップすると、即座に左へ運んで相手DFアジャラを外すと、右足ボレーで冷静にゴールへ流し込んだ。
F・デブールの後方からのロングフィードはオランダの持ち味の一つ。ノーマークの送球を許したのはアルゼンチンの油断だったが、正確なフィードとベルカンプの巧妙なトラップから瞬間的な切り返し、落ち着いたシュートの高度な技術がかみ合った忘れられないゴールになった。
4位 ペレ(ブラジル) 1958年 対スウェーデン(決勝) 3点目
ペレはW杯に4度出場し、3度優勝メンバーになって12得点を挙げている。最後の出場を見事な優勝で締めくくった70年大会でも、トラップ後のボレーで決めたチェコスロバキア戦の得点や決勝戦の先制ヘッドなど印象的なゴールを奪っている。しかし、W杯のペレを象徴するゴールとして一つ挙げるとすれば、17歳でブラジルの初優勝の原動力となった58年大会決勝の3点目となるのではないか。
ペレを擁するブラジルはウェールズとの準々決勝をペレの見事な個人技による1点で1-0と制し、準決勝ではペレのハットトリックなどでフランスを5-2で撃破した。迎えた開催国との決勝。2-1とリードした後半10分のペレのゴールが、優勝の行方をほぼ決定づけた。ジャウマ・サントスからのロビングボールをペナルティーエリア内で受けたペレは、太もものトラップで浮かせてグスタフソンの頭上を抜くと、背後に回り込む。落下するボールを今後は右足で浮かせてベルエソンの頭上を破り、もう一度相手の背後に回り込んでボレーシュートで決めた。ウェールズ戦のゴールも同様の技術だったが、決勝戦のゴールは17歳が相手守備陣2人を立て続けに手玉に取った形だった。
3位 アリー・ハーン(オランダ) 1978年 対イタリア(2次リーグ) 決勝点
オランダが好成績を挙げる大会は、必ずと言っていいほど、長距離砲がさく裂している。中長距離の強シュートがとりわけ威力を発揮したのが、78年大会だった。エースのクライフが家庭の事情を訴えて欠場。前回の準優勝チームから王様が消えて懸念もあったが、決勝戦で開催国アルゼンチンと延長戦の死闘を繰り広げるほど奮闘。2大会連続の決勝進出の原動力の一つは、相手を消沈させたロング弾の数々だった。
1次リーグ最終のスコットランド戦は2-3で敗れたものの、レップの強烈弾による2点目で同リーグ突破をほぼ決定。2次リーグの西ドイツ戦でハーンが長距離砲を見舞うなど2-2の引き分けに持ち込んで前回王者を瀬戸際に追い込むと、同リーグ最終のイタリア戦でもシュート力が決め手になった。優位と予想されたイタリアにオウンゴールで1点を先行されたものの、後半4分にDFのブランツがミドルシュートを決めて同点。迎えた同31分にイタリアを消沈させるロング砲がうなりを上げた。
FKからボールを受けたハーンは、敵陣左を少しドリブルで進むと、相手がカバーに入る前に鋭く右足を振り抜く。強烈な一撃は一直線にイタリアゴールの右ポスト内側へ。ゾフの懸命のダイブも及ばず、オランダを決勝に導く驚異の40メートル弾となった。
2位 カルロス・アルベルト(ブラジル) 1970年 対イタリア(決勝) 4点目
同点で迎えた後半、ブラジルは次第に疲れの出たイタリアを技術で翻弄(ほんろう)し始め、ジェルソン、ジャイルジーニョの連続ゴールで3度目の世界制覇を不動のものとしていた。しかし、ショーはまだ終わっていなかった。決勝を締めくくる4点目は、この大会のブラジルを象徴するチームワークが詰まった、仕上げにふさわしい名場面をもたらした。
後半40分すぎ。自陣中盤でクロドアウドが華麗な足技で相手選手を1人、2人とかわすと、左サイドのリベリーノに送る。リベリーノは敵陣にいるジャイルジーニョに向けて大きく縦に送る。ジャイルジーニョはマーク役のファケッティを外すと、右にいたペレにパス。磁石でもついているかのように、ペレの周りにDF陣が引き寄せられる。すべてが計算されたわなのようなプレーだった。本来は右ウイングの位置にジャイルジーニョがいて、ファケッティも一緒のはずだった。しかし、この場面ではジャイルジーニョが左サイドに移動していたため、イタリアの左の守備はがら空き。後方からこつぜんとこのスペースに突進したのがブラジルの右DFカルロス・アルベルトだった。
ペレは自らにマークを引き付けた後、カルロス・アルベルトが現れる場所に丁寧にボールを送る。カルロス・アルベルトは低く抑えた強烈なシュートをゴール左に突き刺した。個人技でもゴールを重ね、味方を生かすチームプレーでもゴールを重ねた。70年のブラジルは夢の攻撃マシンだった。
1位 ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン) 1986年 対イングランド(準々決勝) 2点目
説明無用とも言える5人抜きのゴールである。左手で押し込み、「神の手ゴール」として物議を醸す後半6分の先制ゴールから5分。場内にまだ1点目をめぐるざわめきが残る中、マラドーナが今度は神業で伝説をつくった。
自陣からのドリブルで次々に相手守備陣をかわし、最後は飛び出したGKのシルトンも外してゴールに流し込んだ。ドリブルした距離は68メートルに及んだという。
この試合、イングランドはマラドーナに徹底的に注意をはらい、プレースペースを限定する作戦で、前半はうまく運んでいた。しかし、抗議の末にマラドーナの先制点が認められたことで選手たちの気持ちが乱れ、2点目ではマラドーナを早めに潰す集中力に欠け、スペースを与えてしまったことは否めない。思わぬ1点目がリズムを狂わせた。現在ならビデオ判定でゴールは取り消されていただろうし、南米と欧州のライバル対決とあってアフリカの審判が主審を務めていたことも、アルゼンチンに味方した。アルゼンチンの天才はいくつかの幸運を逃さず、会心のゴール、勝利、伝説へとつなげていった。
以上ベスト20として並べてみたが、あくまで主観である。実際、これ以外にも入れたいゴールは少なくないし、一般的に評判の高い得点がいくつも抜けている。最後に、20傑に入れることができなかった印象的なゴールをいくつか列挙したい。
マルコ・タルデリ(イタリア) 1982年 対西ドイツ(決勝) 2点目
泣き出さんばかりの顔で絶叫しながら、味方ベンチへ走る。ゴール後の表情に喜びの大きさが集約されていた。W杯制覇にかける男たちの熱い思いを一瞬で思い知った。
マイケル・オーウェン(イングランド) 1998年 対アルゼンチン(決勝T1回戦) 2点目
18歳の「ワンダーボーイ」による高速ドリブル突破。チャモ、アジャラら相手の曲者を振り切った。
サイード・アルオワイラン(サウジアラビア) 1994年 対ベルギー(1次リーグ) 決勝点
自陣から4人をかわしてのドルブルシュート。ドリブル距離は69メートルという。チームを決勝トーナメントに導いた。
アーチ―・ゲミル(スコットランド) 1978年 対オランダ(1次リーグ) 3点目
ペナルティー右外側から持ち込み、次々に3人をかわしてゴール。前評判の高さを裏切り、1次リーグ敗退に終わったスコットランドの意地を示したファインゴール。
ロビン・ファンペルシー(オランダ) 2014年 対スペイン(1次リーグ) 同点
左サイド、ハーフウエーライン付近からの長いクロスに飛び出し、空中遊泳のように体を投げ出して10数メートルのダイビングヘッド。
ゲオルゲ・ハジ(ルーマニア) 1994年 対コロンビア(1次リーグ) 2点目
左のタッチラインに近い位置から意表を突く30メートルのシュート。少し前に出ていたGKの頭上を破る。
テオフィロ・クビジャス(ペルー) 1978年 対スコットランド(1次リーグ) 3点目
ペナルティーエリア正面左からのFK。右足アウトで外側から巻き、ゴール左上スミへ。意表を突く軌道が美しい。
これら以外にも、当然候補はまだまだある。日本のファンなら、2010年大会、デンマーク戦の本田圭佑、遠藤保仁の直接FKによる2得点などは、何度見ても飽きない名ゴールに違いない。
今後のW杯では、どんなスーパーゴールがファンを驚かせ、楽しませてくれるだろうか。