政治ジャーナリスト・泉 宏
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題や物価高騰に加え、野党から集中砲火を浴びる問題閣僚の〝辞任ドミノ〟の始まりで内閣支持率の下落が止まらず、苦境にあえぐ岸田文雄首相だが、政権維持へ強気の姿勢は失っていない。「判断がすべて後手」(自民党幹部)で求心力低下が目立つのに、8日間にわたる東南アジアでの首脳外交の際には自信と余裕の表情をにじませた。周辺によると「衆院解散さえしなければ退陣に追い込まれることはなく、政権内部の〝岸田降ろし〟の動きを封じ込める戦略も効果が出ている」(側近)のが理由だという。
【点描・永田町】前回は⇒「補正規模」巡る〝仁義なき戦い〟
もちろん、超大型経済対策実施のための第2次補正予算案の早期成立を含め、臨時国会での与野党攻防を乗り切ることが苦境脱出の大前提だ。野党は補正処理には柔軟対応の構えとされるだけに、首相は「野党への〝抱き着き作戦〟で、旧統一教会問題で最大の焦点となる被害者救済法案の今国会成立にまい進している」(自民幹部)。ただ、こうした「前のめりの対応」(同)が自民内の不信感を招き、同法案に警戒心を強める公明党とのあつれきも顕在化。このため、首相周辺から「このままでは自らの首を絞めるだけ」(官邸筋)との不安が漏れる。
10月末時点の世論調査で内閣支持率が下げ止まり傾向となったことで、首相は「一つ一つ成果を出せば反転攻勢は可能」(側近)と自信を回復したとされる。しかし、旧統一教会との〝癒着〟で10月24日に更迭せざるを得なかった山際大志郎前経済再生相を、直後に自民党の新型コロナウイルス感染症対策本部長に起用したり、首相を支えるはずの岸田派幹部・葉梨康弘氏の「死刑にはんこ」発言での法相更迭劇で「危機管理能力欠如を露呈」(閣僚経験者)したりしたことから、国民的不信は拡大する一方で、政権危機の深刻化に歯止めがかからない。
〝秘策〟は「解散せず、任期3年全う」だが・・・
こうした状況にもかかわらず、首相は「次期総裁選までの3年の任期満了への自信は揺らいでいない」(岸田派幹部)とされる。その背景には①最大派閥・安倍派が空中分解する可能性②反岸田勢力の旗頭である菅義偉前首相、二階俊博元幹事長の支持取り付け③有力な後継候補の不在──という党内の権力構造がある。ただ「首相の『解散せずに任期3 年全う』というのは、絶対に表沙汰にできない〝秘策〟だ」(同)。「次期総裁選不出馬を明かせば政権はすぐ死に体化し、何もできなくなる」(自民長老)からだ。そこで首相は、側近や安倍派幹部の松野博一官房長官らを通じ、来年5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)後の衆院解散説を流すなど、「求心力維持への手練手管に腐心」(自民長老)しているとされる。
首相が参考とするのは、三木武夫元首相の政局対応だ。約半世紀前、「金権批判」で退陣に追い込まれた田中角栄元首相の後継となり、「クリーン三木」を売りに、戦後最大のスキャンダルとなったロッキード事件での田中氏逮捕を主導したとされる。これに対し三木、中曽根両派を除く党内各派が「挙党体制確立協議会(挙党協)」を結成し、激しい〝三木降ろし〟を展開したが、三木氏は解散せずに衆院議員の任期満了選挙に持ち込み、途中退陣を免れたという「政治史に残る粘り腰」(自民長老)を見せた。