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「補正規模」巡る〝仁義なき戦い〟【点描・永田町】

2022年11月22日01時00分

政治ジャーナリスト・泉 宏

 国民生活を直撃している物価高騰に対応するため、政府は10月28日に総合経済対策を閣議決定した。内閣支持率の下落などによる政権の危機深刻化に苦しむ岸田文雄首相が、反転攻勢を狙って打ち出した形だ。

 しかし、その軸となる補正予算案の規模を巡って首相官邸と自民党のあつれきが露呈し、野党だけでなく国民からもばらまき批判が噴出。10月末の世論調査で支持率が下げ止まり、いったんは自信を回復したとされる首相だが、「遅過ぎた山際大志郎氏の経済再生担当相の更迭」(自民幹部)が国民的批判を増幅して〝辞任ドミノ〟につながる可能性もささやかれ、「政権危機からの脱出は全く見通せない」(同)のが現状だ。

【点描・永田町】前回は⇒野田氏「追悼演説」を与野党称賛

 政局秋の陣の舞台となる臨時国会の召集から間もなく1カ月半。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題で野党の集中攻撃を浴び、首相は防戦一方だ。窮状打開に向け、閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」は、事業規模71.6兆円、財政支出39兆円の超大型対策。特に軸となる今年度第2次補正予算案は、官邸が自民に押し切られる形で4兆円余もかさ上げされ、一般会計で29.1兆円となった。官邸・財務省と自民の〝仁義なき戦い〟の結果で、自民の政策責任者である萩生田光一政調会長が、官邸・財務省の提案先行への反発から「禁じ手には禁じ手で返した」とうそぶく事態となった。

 萩生田氏によると、自民が10月26日午後に経済対策の内容を詰めている最中に首相が同氏の携帯電話を鳴らし、補正の規模について「鈴木俊一財務相が与党も了承済みとして『25兆円』を提示した」と伝えた。これに対し「30兆円超」を強く主張してきた萩生田氏は「今、議論している最中で、了承はしていません」と猛反発。慌てた首相が財務省に「もう一度、規模を見直せ」と指示し、同省幹部が急きょ萩生田氏を訪ねて約4兆円の積み増しを提案した結果、「29.1兆円」が決まったというのが経緯とされる。

「会食攻勢」で与党内の動揺沈静化?

 こうした官邸と自民のぎくしゃくぶりに、政権内から不信や不満が続出。焦った首相が展開したのが、自民各派の領袖(りょうしゅう)や公明党幹部との会食作戦だった。中でも注目されたのは、10月31日夜に党内の反岸田勢力の旗頭とされる二階俊博元幹事長らと東京都内の高級中国料理店で約2時間、懇談したことだ。首相と二階氏の会食は4月以来で、同氏は「全力で支える」と首相を激励したという。これと前後して首相は、同29日には麻生太郎副総裁と都内のステーキ店で2人だけで密談。31日も麻生氏、茂木敏充幹事長と協議した後、二階氏らとの会食に臨むなど、党結束による求心力維持に必死な姿勢をあらわにした。

 さらに首相は、対策決定後の28日夜に山口那津男代表ら公明幹部と会食し、今後の政権運営での緊密な連携を呼び掛けた。「旧統一教会問題や防衛費増額で自公の足並みの乱れが顕在化」(自民幹部)していただけに、首相の公明重視の姿勢を確認した山口氏らは「わが党の要求はほとんど認められた」と満足げだったとされる。こうした首相の会食攻勢については、自民内から「政権弱体化への焦り」(同)との指摘がある一方、「党内の〝岸田降ろし〟の動きを封じ込める効果はある」(自民長老)との見方も広がる。

 ただ、更迭したばかりの山際氏を党コロナ対策本部長に起用し、野党だけでなく与党内からも「首相の危機管理能力の欠如」(閣僚経験者)との批判を招くなど、なお「政権内に疑心暗鬼が渦巻く状況」(同)で、首相は当分、苦境脱出の糸口をつかめそうもない。

(2022年11月22日掲載)

【次回】首相が政権維持に強気な訳 は11月28日掲載予定

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◆時事通信社「地方行政」より転載。地方行政のお申し込みはこちら

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