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1995年のNZ戦「145失点」メンバーが語る2022年の惜敗 元木由記雄さんと広瀬佳司さん

2022年11月24日18時00分

ラグビー日本代表、27年後の善戦​

 17―145。1995年6月4日、ラグビー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会1次リーグで、日本代表がニュージーランド代表に喫したスコアだ。W杯史上最多失点の惨敗から27年。世界ランキング10位の日本は今年10月29日、東京・国立競技場で行われた同4位のニュージーランドとのテストマッチで31―38と惜敗した。6万人を超える大観衆を沸かせた善戦。95年の屈辱を知る元代表メンバーの目に、後輩たちの奮闘はどう映ったのか―。歴代3位の代表キャップ79を誇る当時CTBの元木由記雄さん(51)と、正確なキックから「ゴールデンブーツ」と称された当時SOの広瀬佳司さん(49)。関西大学Aリーグでトップを走る京産大をそれぞれゼネラルマネジャー(GM)、監督として率いる2人に聞いた。(時事通信運動部 伊藤晋一郎)

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 日本代表はニュージーランド戦の後、欧州に遠征。11月にテストマッチ2試合に臨み、12日に世界ランク5位のイングランドと対戦して13―52で敗れ、20日には同2位のフランスに17―35で屈した。「ティア1(ワン)」と呼ばれる強豪に3連敗したものの、来秋のW杯フランス大会に向け、課題を確認するとともに収穫や手応えも得られたはずだ。

「あそこまでできるとは」

 大金星に近づいたニュージーランド戦を振り返る。数十点の差が開くとみていた元木さんは「あそこまでできるとは」と驚いた。ポイントに挙げたのは、前半に18点リードされた後、SO山沢拓也(埼玉)、SH流大(東京SG)の連続トライとゴール成功で4点差まで詰めて折り返したこと。「プラン通りにやり、離されても冷静にやっている」と感じたという。広瀬さんは「当たり負けもせず、後半に足が止まることもなかった」と評価する。

 2人とも、選手たちがニュージーランドに対しても「絶対に勝てる」との確信を持って挑んだ意気込みに感心する。27年前も、もちろん負けると思って臨んだわけではない。だが、今ほど海外の試合をテレビで見る機会がない時代。「神秘的というか、すごいチームと戦うという感じだった。そういう意味では、やる前から一歩引いていた」と元木さん。試合開始直後から次々と失点を重ね、「途中で止めたいと思った試合はあれぐらい」。当時は戦術による途中交代が認められなかった。悔しさや恥ずかしさを感じながら、厳しく長い80分をピッチに立ち続けた。

27年前の批判と教訓

 「国を代表しているのに責任を持ってやっていたのか」。帰国後は容赦のない批判を浴びせられた。Jリーグが発足して2年のサッカーに人気で押される中、ニュージーランド戦の惨敗がラグビーの衰退に拍車をかけたとの意見は、今もある。広瀬さんは「記憶から消したい」。ただ、今の日本代表の成長には、あの一戦の教訓が礎にあるとも言える。

 2003年のトップリーグ発足以降、トップレベルの環境が整備され、今年1月にはリーグワンへと進化。各国から一流選手やコーチが日本のチームに在籍し、強豪国の選手の技術やスピードを体感できる機会は増加した。体の小ささが弱点とされる日本選手だが、国内の各チームが科学的な筋力トレーニングや栄養士による食事メニューを取り入れ、以前に比べサイズでも見劣りしなくなってきた。

前々回に歴史的勝利、前回は初の8強

 現役引退後もトヨタ自動車(現トヨタ)で監督を務めるなど、日本ラグビー界を支えてきた広瀬さんは「世界に取り残されないように強化した結果が今ついてきている」と話す。日本は15年のW杯で南アフリカから歴史的な勝利を挙げ、前回の19年大会では初の8強入りを果たした。元木さんは「勝つための準備、ゲームプラン、実力が一致している」。強豪国を打ち負かして得た自信を原動力に、さらなる成長を遂げる好循環が生まれている。

 外国出身の選手も含まれるのが日本代表の特徴だが、その多くが高校や大学から日本でプレーしている。京産大にも外国選手が所属。元木さんは「将来的に日本代表になりたいという気持ちを日本人以上に持っている。日本が世界で活躍できるチームになったことが魅力なのだろう」と語る。

「まだまだ力を付ける可能性」

 W杯フランス大会まで1年を切っている。日本が掲げる目標は8強以上だ。元木さんは「この10年の日本の成長は世界的に見てもまれで、誰もが驚いている。まだまだ力を付ける可能性があり、十分いける」と期待。広瀬さんも「(目標達成は)可能。今の強化を継続することが大事」と言い切る。

 10月のニュージーランド戦は6万5188人の観衆で埋まり、国立競技場の改修後で最多記録を更新した。最高のムードで試合ができる選手たちに、元木さんは「うらやましい」とほほ笑み、こう続けた。「自分は世界に勝ちたいと思っていたが、そのための答えが見つからないまま引退した。こうやって世界と互角に戦い、W杯で結果を出している。本当によくやっているし、感謝したい」。145失点という重い荷物をずっと背負い続けてきた。桜のジャージーで堂々の戦いを繰り広げる後輩たちが、屈辱の記憶を少しずつ和らげてくれている。

(※世界ランキングは今秋のテストマッチ時点の数字)

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 元木 由記雄(もとき・ゆきお) 1971年8月27日生まれの51歳。現役時代のポジションはCTB。W杯には91年から4大会連続出場した。大阪・大工大高(現常翔学園)から明大に進学。神戸製鋼では日本選手権7連覇に貢献した。引退後は京産大のコーチを経て2020年にゼネラルマネージャーに就任した。

 広瀬 佳司(ひろせ・けいじ) 1973年4月16日生まれの49歳。現役時代のポジションはSO。大阪・島本高から京産大に進み、在学中に1995年のW杯日本代表に選出。トヨタ自動車で活躍し、引退後は監督も務めた。

(2022年11月24日掲載)

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