会員限定記事会員限定記事

成田空港、ターミナルを一つに 容量拡大に向け、施設スマート化 どこに? 駅は? 便利に? 地元自治体も熱い視線

2022年11月01日12時00分

 成田空港と言えば、全日本空輸などが利用する第1、日本航空などの第2、そして、格安航空会社(LCC)向けの第3の三つの旅客ターミナルがあり、第1、第2の両ターミナルは、それぞれ鉄道駅にも直結している。そのターミナルを一つにしてしまおうという構想を、成田国際空港会社の田村明比古社長が9月、熊谷俊人千葉県知事をはじめ地元自治体の首長が出席した「意見交換会」で打ち上げ、周囲を驚かせた。2029年3月には、同空港の滑走路は現在の2本から3本に増え、敷地面積は1.9倍に拡大。発着容量も年30万回から同50万回に増える。それに合わせて、旅客ターミナルビルや貨物関連施設の大胆な「配置替え」を行おうというのだ。(時事通信編集委員 石井靖子)

 「構想」では、新しい空港の具体像は示されておらず、それは、空港用地を抱える地元3市町の首長もメンバーとなった「検討会」を経て決めるとしている。10月21日には第1回検討会が開かれたが、その席でも、空港会社側から「青写真」は示されず、地元関係者からは「具体像が示されないと議論のしようもない」との声も漏れる。「新ターミナルはどの自治体に建てる?」「駅はどうする?」「貨物地区はどこへ?」。さまざまな思惑が入り乱れ、関係者の心中は穏やかではない。

競争力強化に向け「ゼロベースで検討」

 「(現在の成田空港は)1960年代、70年代ぐらいのコンセプトに従ってレイアウトされ、需要に応じて『継ぎはぎ、継ぎはぎ』して今日に至っている。首都圏の玄関口として競争力を持ってやっていくには、新しい時代の航空ニーズを考え、ゼロベースでいろんなことを見直そうじゃないか、ということになった」。田村社長は、今回の構想が持ち上がった経緯をこう説明した。

 激しい反対運動の中、78年に滑走路1本、ターミナル一つ(現在の第1旅客ターミナルビル)で出発した成田空港は、拡大し続けた航空需要に応える形で第2旅客ターミナルビルの建設(92年供用開始)や、第1ビルの増築が行われてきた。特に、何度も増築が繰り返された第1ビルは、非常に複雑な構造になっており、利用者からは「まるで迷路みたいだ」との声も聞く。2015年にオープンした第3旅客ターミナルは、「簡素なつくり」が特徴だが、鉄道駅には直結しておらず、利用者は、空港第2ビル駅から約300メートルにわたる通路を歩いたり、空港内連絡バスを利用したりしなければならない。

 また、「ターミナルを間違えて、危うく航空機に乗り遅れそうになった経験がある」と話す利用者もいる。確かに、鉄道駅と直結するスマートな「ワンターミナル」ができれば、旅客にとっての利便性も向上するかもしれない。しかし、新ターミナルと現在の成田空港駅や空港第2ビル駅との関係はどうなるのだろうか?

新駅も造る?

 「いや~俺は全然心配していないよ。3本の滑走路どれにもアクセスが良くなければならないことや、鉄道駅のことを考えると、新しい旅客ターミナルも、成田市内に造るしかないでしょう」。空港問題に詳しい成田市議はこう話す。現在の成田空港の敷地面積の92%を占める同市は、空港から、市の歳入全体の5分の1に当たる年約120億円(2021年度当初予算ベース)の固定資産税収入を得ている。「土地」だけでなく、三つの旅客ターミナルという「建物」からの税収も大きく、ターミナルが隣接町に移転してしまえば、同市財政に少なからぬ影響を与える。新滑走路建設などで拡大する部分は、87%が隣接の芝山、多古両町内にあり、両町からは「第4ターミナルをわが町に」との要望が出たこともある。

 三つの滑走路全てからアクセスが良いという意味では、3本目の滑走路建設に伴い拡大する芝山町の部分などに新ターミナルを造る案もあり得そうだが、その場合、「鉄道駅から遠い」という問題が出てきそうだ。ただ、田村社長は9月下旬の会見で「(新ターミナルへのアクセスに関する検討では)鉄道も排除していない」と明言した。すると、「新駅」を造る可能性もあるということか? しかし、新しく駅を造るとなると莫大な設備投資費が掛かる。空港線を敷いている京成電鉄やJR東日本が同意するだろうか?

1ビルと2ビルをつなげてしまう?

 「現在の第1ビル第5サテライトと第2ビル本館の南端をつなげてしまえば、1ビル、2ビルが一体化した一つのターミナルビルになる。それが一番簡単な方法じゃないかな」。成田市内の関係者はこう指摘する。

 現在、第1ビル第5サテライト(第1ビルの東部)からは第2ビル南端に向かって、第2ビル南端からは第1ビル第5サテライト方向へ、ゲートが増設されており、第1ビルのゲート増設部と第2ビルのそれの間は、わずか300メートル。これを完全につなげてしまえば、第1、第2ビルが一体となった新たなターミナルビルになると言えないことはない。しかし、それでは新たな「継ぎはぎ」になってしまい、スマートな「ワンターミナル」のイメージからは離れる。「検討会」でも、空港会社は「新しいターミナルは、増改築・改修ではなく、既存施設の『建て替え』を想定している」と説明したという。ただ、この1ビルと2ビルの「間」の部分をベースにして、本格的な新ターミナルを建造するという方法はありそうだ。

 その場合、現在の成田空港駅(1ビルに直結)からも空港第2ビル駅(2ビルに直結)からも近くはないという難点がある。空港周辺のある関係者は「新駅を造る際、新たに線路を大幅拡張するとなると、大変な費用がかかり、鉄道会社も『うん』とは言わないだろう。しかし、第1ビルと第2ビルの「間」に新駅を造るとしたら、元々近くに線路が通っているところなので、駅の建造費などだけで済む。空港会社が費用を出すつもりなら、鉄道会社も同意するかも」と指摘する。

最近できた第3ターミナルは?

 2015年にオープンした第3旅客ターミナル(3タミ)の扱いはどうなるのか。3タミは、整備費を抑えることによって、航空会社が支払う施設利用料を第1、第2ビルより安くし、複数のLCCに愛用されてきた。コロナ禍までは活況を呈しており、15年当時の施設がすぐに手狭になったため、順次増築を行い、22年4月にも大幅なターミナル拡張を行ったばかりだ。

 田村社長も、「理想としては、全部ひっくるめてワンターミナルというのがいいが、3タミ(のオープン)は最近。拡張もしているので、出来るだけ使っていきたいということもある」と話し、「ワンターミナル」構想の中での第3ターミナルの扱いについては明言を避けた。

自治体は「貨物地区」にも重大関心

 「構想」には、貨物地区の大幅再編も盛り込まれている。現在の貨物地区は、空港の北西側、北東側、南側に分かれており、貨物を扱う会社などにとって使い勝手が悪い構造になっている。やはり需要の拡大などに応じて「付け足し」方式で整備されてきたからだ。

 貨物地区を集約するとなると、現在も貨物地区の一部を町内に持ち、民間の貨物関連施設も多い芝山町側が有力視されるようにも見える。しかし、航空貨物の取り扱いを町の活性化につなげたい多古町も、貨物地区の位置には重大な関心を持ち、同町関係者は「多古が貨物関連施設から外れるとなると、不満を持つ町民も多いのではないか」と指摘する。

 構想の「検討会」は、田村社長はじめ成田国際空港会社幹部と成田市、芝山町、多古町の各首長のほか、学識経験者や国土交通省航空局の幹部らもメンバーになっており、2022年度内に「中間とりまとめ」を行うとしている。その中で、利用者にとって使い勝手が良く、地元自治体など関係者も納得できるような「ワンターミナル」の方向性が打ち出せるのか。今後の「検討」内容が注目される。

(2022年11月1日掲載)

話題のニュース

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ