陸上自衛隊は主要火砲「155ミリ榴(りゅう)弾砲」の射撃訓練の様子を報道陣に公開した。砲弾は記者らが詰めた観測用シェルターのすぐ先に次々と撃ち込まれ、空気や床が震える。立ち込めた煙が晴れると、地面には巨大な穴が見えた。155ミリ榴弾砲はウクライナでも使われている。訓練を取材し、改めて戦争の恐怖を感じた。 (時事通信社会部 釜本寛之)【末尾に動画あり】
ウクライナで使用、現役兵器
公開されたのは、陸自が最も多く保有する「FH70」という155ミリ榴弾砲を使った訓練。FH70は1985年から配備されている「古株」で、陸自は車両と一体型になった砲への切り替えを進めている。ただ、古株ではあるが、西側諸国からウクライナ軍に提供されている現役兵器だ。
観測用シェルターは富士山に続く山肌にあり、砲弾を撃ち込む標的ゾーンとは200メートル余しか離れていない。台地状になった所に「敵陣地」を示す黄色いバルーンが五つ揺れていた。約3キロ先から、空中で爆発する時限式の砲弾と、地面に接触した瞬間に爆発する砲弾の2種類計60発を撃ち込むという。
時限式砲弾を相手部隊の頭上で爆発させる射撃は「曳火(えいか)射撃」と呼ばれる。半径数十メートルに砲弾が金属片となって降り注ぎ、テントなどの簡易な陣地が曳火射撃を受ければ「ひとたまりもない」という。着弾と同時に爆発させる「着発射撃」は堅固な建物などを破壊するための射撃だ。
シェルターは分厚いコンクリートで覆われている。砲弾の直撃にも耐えられるよう設計されているそうだが、失敗し、標的ゾーンを外れて着弾することもあるという。実際、ゾーンの外にも着弾したような穴が見えた。
十分な安全距離を取っていても、予期せぬ跳ね方をした岩石や砲弾の破片が飛んで来ることはあるといい、絶対に外に出ないよう指示を受けた。横を見やると、シェルター窓の防弾ガラスに、まるで銃撃されたかのような亀裂が複数走っている。よぎる不安を打ち消し、腹を決めた。
火柱、舞う土片、
「突撃支援射撃、発動」―。シェルター内に開始を告げる無線が響いた。敵陣地に向かって前進する味方部隊を後方から支援する援護射撃を想定した訓練の始まりだ。
最初は曳火射撃から。発射から10数秒。シューッという風切り音が近づいてきたかと思うと、「だんちゃーく、いま!」というアナウンスと同時にオレンジ色の炎が上がり、風船がはじけ飛んだ。約15メートル上空でさく裂するよう設定しているという。
さらに次々と砲弾が飛んで来る。爆発音の度に、上空から降り注ぐ金属片で地面が銃撃されたようにはじけ、土片が舞った。この後の着発射撃では、火柱や土煙は一層激しさを増した。
FH70は1発約45キロの榴弾を、1門当たり約10~15秒間隔で連続発射できる。 タイミングを合わせて同時に複数撃ち込まれると、辺りは爆発の煙で全く見えなくなった。爆発の衝撃で、窓ガラスのみならず、床も揺れた。耳栓をしていても腰を抜かしそうなごう音が響く。最後に、突入を支援する黄色い煙幕弾が1発撃ち込まれ、援護射撃訓練は10分足らずで終了した。
着弾地点を確認
この後、自衛隊員の案内で砲弾が落ちた場所を見に行った。緩やかな斜面を登ると、クレーターのような直径1~2メートルほどの穴が目に入った。砲弾が集中した辺りは重機で掘り起こしたような状態で、元の地形が分からないほどだ。実際、FH70は、味方部隊の進攻を助けるため、地形を変える目的で使われることもあるのだという。
地面には、さく裂した砲弾の破片が無数に突き刺さっていた。大きなものだと、のこぎり状になった長さ30センチほど。細かいものでも断面はとがり、鋭利な刃物のようだ。爆発時、音速を超える速さで飛び散るという。
持たせてもらった破片の一つは、手袋越しにでも熱が残っているのが分かった。ぞっとした。よく映画では風切り音から着弾地点を予想して建物などに避難する場面が出てくるが、自分は立ちすくむことしかできないだろう。 ウクライナで実際に155ミリ榴弾が飛び交う様子を想像すると、体が震えた。
飛距離ピタリ、職人の技
射撃の様子も取材したが、それは、計算に基づいた非常に緻密な作業だった。
訓練の流れは、①レーダーや偵察部隊からの情報を基に敵の位置を特定②射撃指揮所はデータを基に距離や方角などを算定③部隊は指揮所の指示に基づき、砲の角度などを調整して発射④弾着状況を観測し、微修正を加える―というもの。
コンピューターの計算に基づき、角度などを自動調整する砲もあるが、FH70はアナログ式だった。まず、榴弾を飛ばす炸薬(火薬)の量を調整し、飛距離を設定。次に弾道計算に合わせて砲身が向く上下、左右の角度を、複数の手動ハンドルで調整する。角度調整は1ミル(約0.056度)単位という細かさだ。
風や湿度も影響するため、事前に観測用の気球を飛ばすこともある。ベテランは火薬の湿り気や砲身の熱さ、弾を込める力加減まで頭に入れ、砲ごとのくせも考慮して、さらに微妙な調整を加えるという。
曳火射撃に使う時限式砲弾は、発射から爆発するまでの時間を0.01秒単位で設定する。わずか0.01秒のずれでも、距離で約3メートル、高さで60センチの誤差が生じるといい、それを見極めるのは職人技だ。
FH70の射程距離は約30キロ。山の向こう側など、目に見えない地点を狙い撃つことができる火砲だ。部隊担当者は「万が一にも前方の味方に被害を出すわけにはいかない。まして民間施設への誤射などあってはならない」と顔を引き締めた。
戦車にも乗車
訓練公開に合わせ、戦車などへの体験乗車も行われた。最初に乗ったのは74式戦車。丸みを帯びた形状は、子供のころ怪獣映画で見た記憶がある。後継の90式戦車や10式戦車などへ切り替えが進んでおり、あと数年で部隊から姿を消す見通しという。
車体上部から出入りするが、乗り込むのも一苦労。隊員のようにキャタピラに足を掛け、するするとよじ登るわけにはいかず、脚立の助けを借りた。
定員は4人で、回転する砲塔部分に乗るのは、指揮を執る戦車長と射手、砲弾の装塡(そうてん)手の計3人。射手は戦車長の足元のわずかなスペースに体を突っ込んでいる。装填は手動で、装填手は約20キロの砲弾を1人で持ち上げる。エアコンはない。夏場、すし詰め状態での乗車は相当なものだろう。
前方にある運転席も狭く、記者が座るとハッチが閉まらないほどだった。操縦かんは想像より小さく、自転車や手押し車のハンドルに似た、T字型の金属棒にゴムグリップを取り付けたような形状をしていた。
パワフルなエンジン音が響き、走りだす。思った以上に揺れが少なく、段差を乗り越えるのもスムーズだ。
次に乗ったのは、16式機動戦闘車。外見は戦車に似ているが、砲塔の下にはタイヤが8輪付いており、時速100キロで高速道路も走れるという。車内の広さは74式とさほど変わらないが、74式と違ってモニターやレーダーが並び電子化が進んでいた。ただ、砲弾を自動で装填する装置はなく、こちらも人力で弾込めする。74式と同じ砲弾を使うそうだ。
16式の試乗では一般道も走行したが、すれ違う車から痛いほどの視線を浴びた。見掛けはほぼ戦車だ。当然だろう。隊員は「まず驚かれ、信号で止まるとかならずスマホを向けられます」と笑う。エンジン音は戦車よりは静か。74式よりクリーンという排ガスの色からも、技術の進歩を感じた。