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停戦の「橋渡し」こそ日本の役割 鈴木宗男氏にウクライナ危機を聞く【政界Web】

2022年11月11日

 ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始してから8カ月あまり。多数の犠牲者が出て、核兵器使用の可能性すら取り沙汰される状況に、プーチン大統領に対する国際社会の非難は収まらない。
 そんな中にあっても、ウクライナや米欧諸国の側にも問題があるとの主張を譲らず、「けんか両成敗」の立場で早期停戦を説くのが日本維新の会の
鈴木宗男参院議員だ。北方領土交渉にも深く関わってきた鈴木氏に、一連の経過や今後の対ロ関係について改めて詳しく聞いてみた。(時事通信政治部 古川夏月)

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【目次】
 ◇プーチン視点では
 ◇日本メディアにも問題
 ◇77年前の悲劇想起を
 ◇正しかった安倍外交
 ◇空疎な「4島返還」論
 ◇「遠くの親戚より近くの他人」
 ◇バランス良い外交を

プーチン視点では

 ―これまでの動きをどう見ているか。

 紛争には双方の言い分がある。先の大戦でも、日本には日本の言い分があった。欧米列強とのエネルギー争奪や覇権争いだ。今回、不思議に思うのは、ロシアが悪、ウクライナが善という仕分けだ。われわれが子どもの頃、けんかをしたら両成敗だった。国と国の争いにも当てはまると思う。力による領土拡大や主権侵害はあってはならない。しかし、なぜそうなったか考える必要がある。
 昨年10月、ウクライナのゼレンスキー大統領は「自爆ドローン」を(東部の)親ロシア派地域に飛ばした。プーチン大統領としては、ロシア人が殺される、被害を受けるとなったら政権維持にも影響するわけだから、態勢を取るのは当たり前だ。だから国境に兵隊を寄せた。なぜドローンを飛ばす必要があったのか、誰もゼレンスキー大統領を責めない。
 今年2月の欧州安全保障協力機構(OSCE)で、ゼレンスキー大統領は(ウクライナの核放棄と引き換えに同国の安全を米英ロが保障すると約束した1994年の)「ブダペスト覚書」を再協議しようと提案した。それにプーチン大統領が激しく反応した。自分の庭先で核を持たれたら、銃口を構えられたら安全保障上大変なことだ。そこでプーチン大統領も、黙っていたらやられる、ここは先手でなければいけないということで、2月24日の侵攻になった。

日本メディアにも問題

 ただ、決めたのは21日だ。だからまだ3日間あった。ドイツ、フランスが入って話し合いをしようとした。プーチン大統領は話し合いのテーブルに着こうとした。断ったのはゼレンスキー大統領ではないだろうか。
 ゼレンスキー大統領は、イランが(ロシアに)ドローンを供与している、制裁すべきだと言っている。では言いたい。あなたは米国から武器をもらっている、お金ももらっている。欧州からも武器をもらっている。それで戦っているのではないのか。ならば、あなたも制裁の対象になるのではないのか。
 こういった事実関係を全く踏まえず、米国や英国が流す一方的な情報に乗っている日本のメディアは公平だろうか。私は冷静に考えるべきだと思う。兎にも角にも一にも二にも停戦だ。

77年前の悲劇想起を

 なぜ停戦かというと、ロシアとウクライナでは国力の差は歴然としている。米国が武器やお金を出せば、戦争も長引くだけだ。本来、日本を含めて先進7カ国(G7)が「双方やめろ」と言うのが筋ではないか。首脳会議でも外相会合でも(ロシアへの)非難ばかりだ。
 戦争が長引けば長引くほど、犠牲になるのは子ども、女性、お年寄りだ。私が強く停戦を願っているのは、77年前の日本を思い起こすからだ。日本が半年早く降伏していれば、東京大空襲も沖縄戦も広島・長崎への原爆投下もなかった。軍部過激派が「1億総玉砕だ。竹やりでアメリカと戦うのだ」と言って、悲惨な目に遭ったではないか。日本のこの悲劇をウクライナにさせてはいけない。
 非難するだけでは紛争は終わらない。私は一にも二にも停戦に向けて、日本が立ち上がるべきではないかと考える。 

 《北海道出身の鈴木氏は83年に衆院初当選。自民党時代に官房副長官や北海道・沖縄開発庁長官を務めたが、2010年に受託収賄などの罪で実刑判決が確定し、失職。19年参院選で国政に復帰した。長く北方領土問題に取り組み、プーチン大統領とは4回会ったという。その時の印象を「柔道をやっているから礼に始まり礼に終わる。人情家だ」と語る》

正しかった安倍外交

 ―対ロ関係で米国との地理的な立ち位置の違いを意識している人は日本にもいると思うが。

 北方領土問題がなければ米国に乗ってもいい。(14年の)クリミア併合の時、安倍晋三首相はオバマ米大統領に経済制裁に乗れと言われても毅然(きぜん)と「日本には北方領土問題がある。平和条約締結交渉がある。米国と同じ価値観には立てない」と言った。安倍さんの頭作りは正しかった。
 プーチン大統領の発言からは「これ以上米国の言いなりに動くなら黙っていられない」というニュアンスが伝わってくる。ロシア外務省は3月、平和条約締結交渉、ビザ(査証)なし交流は停止、北方四島の共同経済活動に日本企業は参加させないと決めた。9月になってからは、現状で全て話し合いはないというふうになっている。 

空疎な「4島返還」論

  ―北方領土元島民の平均年齢は87歳近くになっている。

  人生限られている。ウクライナ紛争が始まるまでは元島民の皆さんも若干の希望を持っていた。今はせめて墓参だけは、というところまで下がっている。(歯舞、色丹2島引き渡しを明記した56年の)日ソ共同宣言を基に平和条約締結に向けて全力を尽くすとした18年のシンガポール合意は、元島民の中でも現実的判断として受け入れられている。
 「4島返還だ」と言う国会議員がいる。ならば、どういう道筋で実現できるのか示してほしい。運動ではなく、交渉して結果を出すのが責任ある政治だ。
 誰よりも元島民と会っている政治家は私だ。元島民の最大公約数は「自由に行きたい」が一番。二つ目が「一つでも二つでもいいから返してほしい」。三つ目は「海を使わせてほしい」だ。
 中国とロシアをくっつかせてどうするのか。日本とロシアが友好関係を結ぶことで、アジアはもとより世界の平和に貢献できる。

「遠くの親戚より近くの他人」

 ―岸田文雄首相に求める日本政府の役割は。

 私は(今年の)通常国会の予算委員会で3回、岸田首相に「あなたがリーダーシップを取りなさい」と言った。日本が停戦に向けて大きなリーダーシップを発揮すべきだと言っても、「G7との連携だ」という答弁だった。
 米英は自前でエネルギーを持っている。フランス、ドイツ、日本はエネルギー資源がない。なぜこの死活的な問題をもっと頭に入れないのか。
 国会の議論を見ても、サハリンからガスを入れるなという政治家がいる。日本の現状を考えない、お粗末な議論が多すぎる。この点、(ロシア極東の石油・天然ガス開発事業)サハリン1、Ⅱを継続させた判断は正しい。
 日本には「遠くの親戚より近くの他人」という言葉がある。ロシアも中国も韓国も北朝鮮も隣国だ。折り合いを付けていくしかない。個人は嫌な人が隣に来たら、口をきかなくてもいい。しかし、国と国では引っ越しできない。批判だけしても始まらない。 

バランス良い外交を

 ―軍事侵攻は正当化できないと思うが。 

 ドローンを飛ばし、ミンスク合意を破ったのはウクライナではないか。外交の基本は約束を守ることだ。国家安全保障が侵される時、黙っている国はない。ゼレンスキー大統領が「約束は守る」と言い、挑発しなければ特別軍事行動はなかった。 
 ゼレンスキー大統領も本心は「これ以上犠牲者を出したくない」だろう。しかし、米国が武器を供与するとネジを巻いているから、やらざるを得ないという側面があると思う。
 第3次世界大戦になったらどうするのか。プーチン大統領も今は冷静でも、やぶれかぶれになった場合を考えたらぞっとする。

 ―日ロ関係の現状をどう見るか。

 まだ首の皮一枚つながっている。例えば(北方領土周辺海域での日本漁船の)安全操業という枠組みがある。その首の皮一枚なくなったら終わりだ。先を見て大人の対応をした方がいい。
 これからの世界経済はBRICS(新興5カ国)が影響力を持ってくる。ロシア、ブラジル、インド、中国、南アフリカ。もっとバランスのいい外交をしないといけない。日本は米国に飲み込まれている。
 独自外交は何も難しい話ではない。今、米国一極支配の状況ではない。中国とぶつかる米国、ロシアとぶつかる米国だ。日本は地政学的にもものを言える立場にある。

 ―「ロシア寄り」との批判をどう受け止めているのか。 

 冒頭に述べたように、紛争には双方言い分がある。私は一貫してロシア、ウクライナ双方停戦だと言っている。歴史の事実を勉強していない人の発信、批判は気にしない。どちらが正しかったかは時が証明する。

(2022年11月11日掲載)

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