政治ジャーナリスト・泉 宏
国論を分断した「9・27国葬儀」を終えた岸田文雄首相は、10月3日から臨時国会に臨んだ。国葬時の弔問外交で反転攻勢を狙った首相だが、正念場となる臨時国会は、冒頭から世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題で大荒れとなるのは確実だ。首相自身は「山積する難問で一つ一つ結果を出せば、窮地を脱せる」となお自信をにじませるが、与党内には「このままではじり貧だ」(有力閣僚)との不安が拡大しており、内閣支持率の下落に歯止めがかからなければ、政権危機がさらに深まることは避けられそうもない。
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岸田氏の首相就任から3日で満1年となった。ただ、節目を迎えた首相への国民の視線は就任時よりはるかに厳しい。7月の参院選での自民党大勝からわずか3カ月足らずで、首尾よく手にしたはずの「黄金の3年」は事実上消滅。安倍晋三元首相死去を受けての国葬実施の即断以来、「次々と打つ手がすべて裏目」(自民幹部)となり、首相の表情にも焦燥感が隠せない。
そもそも、現在山積する内外の課題は「国家的な超難問」(首相側近)ばかりだ。反対論が圧倒的だった国葬強行への批判はなお収まらず、それとも絡む旧統一教会の問題では、自民党と教団の「政治的癒着」が相次いで発覚。同党が実施した「点検」のずさんさも際立ったことで「断固、関係を断つ」という首相の決意にも、国民の圧倒的多数が不信感を示している。さらに、10月に入って多くの食料品・生活必需品の大幅値上げが国民生活を圧迫。これに、日米金利差の拡大などに伴う急激な円安による石油価格の高騰などが追い打ちをかける。新型コロナウイルス感染爆発の「第7波」は9月下旬から収束傾向にあるが、政府が10月から水際対策を大幅に緩和し、入国者数の上限撤廃や個人旅行解禁を決めたことで「年末以降の『第8波』襲来は不可避」(厚生労働省幹部)とみられている。
「出直し解散論」「広島サミット花道説」も
そうした中、首相が臨時国会での野党からの厳しい追及に防戦一方となることは確実だ。国葬や旧統一教会の問題だけでなく、東京地検特捜部の捜査が進む五輪汚職事件の闇の深さについても、説得力のある答弁ができなければ、大手メディア各社が10月上中旬に実施予定の世論調査で内閣支持率がさらに低下し、政権維持の危険水域に落ち込む可能性は少なくない。野党側は国会論戦で集中的に旧統一教会の問題を追及する構えで、8月の内閣改造・自民党役員人事後も教団との密接な関係が次々と発覚している、山際大志郎経済再生相や萩生田光一政調会長の進退問題が浮上するのは必至。与党内からも「どこかで更迭しないと政権が持たない」(公明党幹部)との声が出始めている。ただ、首相が更迭に踏み切れば任命責任を厳しく問われるため、「自発的辞任しかないが、その後の混乱を考えれば、それも難しい」(自民幹部)のが実態だ。
こうした首相の窮状を踏まえ、自民党内で浮上しているのが「出直し解散論」だ。「野党もばらばらで、選挙となれば与党は負けない」(自民首脳)との読みからだが、「自民の大幅議席減は確実で、首相にとって致命傷になる」(自民選対)との見方が多い。さらに来春の統一地方選での自民苦戦を前提に、5月に首相の地元・広島市で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)後の退陣という「広島サミット花道説」も取り沙汰されている。ただ、首相にとっては「出たとこ勝負しかない」(側近)のが現状だけに、「右往左往が続けば、早晩『運の尽き』となりかねない」(閣僚経験者)との厳しい声も広がる。
(2022年10月10日掲載)
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