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「宝塚後」も輝き続けたい 夢の世界から現実の世界に【ジェンヌたちのネクストステージ(上)】

2022年10月22日12時00分

 歌やダンス、芝居で観客を魅了する宝塚歌劇団。ところが、退団後は限られたスター以外の人が活躍できる場はほとんどなく、劇団の外の世界に出て戸惑う場面も少なくない。そんな中、劇団を運営する阪急電鉄が退団後のサポートを強化するため、2020年4月に「タカラヅカ・ライブ・ネクスト(ライブ)」を設立するなど、OGたちの活躍の場を広げる動きも出てきた。それぞれの道を模索する元タカラジェンヌたちの姿を追った。(時事通信大阪支社 中村夢子)

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舞台に感じた新たな魅力

 21年に雪組を退団した元娘役の笙乃茅桜(しょうの・ちお)さんは、宝塚時代から定評があったダンスを生かし、「ライブ」でもアーティストとして活躍している。

 三重県伊勢市出身。幼い頃から宝塚に憧れタカラジェンヌを養成する宝塚音楽学校を2回受験したが、続けての不合格。3回目はもはや半分諦めていたが、「亡くなった祖父が夢に出てきて『ちーちゃんは宝塚がよい』と背中を押してくれた」ためだろうか、見事合格した。

 タカラジェンヌは、15~18歳の間に宝塚音楽学校へ入学してからは、バレエや演劇、日本舞踊などのレッスン漬けの日々。卒業して各組に配属されてからも次々訪れる公演の稽古に追われ、舞台の外の世界に触れ合う機会は少ない。

 笙乃さんも、退団するまで目の前の舞台に集中し、セカンドキャリアについて周りと話す機会はほとんどなかったという。「宝塚は裏側を見せず、ベールに包まれているからこそ魅力的。退団するに当たり、周りに『あれする、これする』と話している人はいない。最後まで夢の世界は守っている」と語る。

 もともと退団後は別の道を考えていた。「以前からけがの予防のため解剖学を学んでおり、退団後も勉強したいと考えていました。しかし、新型コロナウイルスが流行した影響で学び方がオンライン中心になってしまった。自分は対面で学ぶ方が好きなタイプだったので断念しました」と話す。

 そんな時、退団公演の千秋楽後、「ライブ」の小川友次社長から「『ライブ』もあるからね」と声を掛けられ、旗揚げ公演に参加することになった。そして、その後入社も決めたのは、「コロナ禍の中での卒業だったのでファンの方と触れ合う機会が少なく、舞台で恩返ししたかった」からだ。

「『ライブ』では宝塚で学んだことは出しつつも、宝塚でできないこともできる。やらせてもらえることには真剣に取り組みたい」と手応えを感じている様子。例えば、男性出演者との共演。演技中に一人の演者がもう一人の演者を持ち上げる「リフト」は、女性しか出演しない宝塚ではお互いのタイミングを合わせてはじめて成功する技だ。しかし、「男性は筋力があるので多少ポジションがズレても腕の力でサポートしてもらえる」と話し、これまでとは違った身体表現の可能性に胸を膨らませる。

舞台上から製作者側に

「ライブ」では裏方として活動する元タカラジェンヌも。雪組の男役、真地佑果(まち・ゆうか)として10年~21年4月に劇団に在籍し、21年6月に「ライブ」入りした森脇由梨(もりわき・ゆり)さんは、広報のほか、デザイナーとの予定の調整、公演で使用する曲の選曲、照明調整と幅広い業務をこなす。裏方を選択したのは、宝塚の男役に強いこだわりと自負があったからだ。

 新しい環境に戸惑うこともある。「これまでアルバイトすらしたことがなかったので、入社までの1カ月半、パソコン教室に通いワードやエクセルの使い方を習いました。宝塚にいた時は、みんな考え方も似ていましたが、『ライブ』では外部の方とも交流するので認識が違うところがある。会議中、専門用語が分からずについて行けなくなることがありますが、その場でメモしてあとで上司に聞きながら勉強しています」。森脇さんにとって初めてのことばかりだが、「仕事はきつい時もあるが、面白いです」と目を輝かせる。

 今は、森脇さん自身が企画した作品の準備を進めている真っ最中。公演予定は23年度だ。森脇さんは「宝塚の枠をはみ出たようなステージを作りたい」と意気込む。

 退団するまではやはり舞台漬けの日々だった。「宝塚はとにかく幸せな空間。しかし、独特で魅力的な場所だからこそ外の世界について知らないことも多い。なので、30歳になる前に辞めようと決めていました」。退団が決まり、その後の日々の過ごし方について悩んでいる時期もあったが、ライブに進むことが決まり、楽しみな気持ちが増していった。

われわれも歯を食いしばって

 小川さんは、「トップスター以外の2番手、3番手で劇団に貢献した人や、ダンスや歌などで素質を持った演者のセカンドステージをサポートしたい」と同社設立の趣旨を語る。9月末時点で、アーティスト8人、社員7人(梅田芸術劇場兼務3人を含む)が所属し、これまでステージやイベントなど5つの公演を行ってきた。

「『ライブ』は役者だけではなく、演出家、衣装などの裏方を育て、総合芸術としてやっていきたい。元タカラジェンヌなので舞台の雰囲気は分かると思うが、チケットの売り方やキャスティング、外部との信頼関係の構築なども学んでいかなければ」と小川さん。

 まずは少人数からのスタート。小川さんは「頑張ってきたタカラジェンヌをサポートできるよう少しでも力になりたい。興業リスクや新型コロナウイルスでの公演中止の懸念もあるが、われわれも歯を食いしばりながらやっていく。できないことはしないけど、できることは援助していきたい」と決意を語った。

(2022年10月22日掲載)

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