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王貞治さん、村上宗隆の56号と三冠王を語る「チャレンジしてくれた人はたくさんいたが…」

2022年10月11日15時00分

「押し返す」打撃を支持

 ついに「王超え」を果たした―。プロ野球ヤクルトの村上宗隆内野手(22)が10月3日、レギュラーシーズン最終戦となったDeNA戦の最後の打席で今季56号本塁打。1964年に王貞治(巨人)がマークした日本選手のシーズン最多記録を58年ぶりに更新した。本塁打と打点は断然トップ、そして打率でも首位を守り、史上8人目の三冠王を最年少で達成。球史を塗り替えた若きスラッガーの打撃を、今はソフトバンクの球団会長を務める82歳の王さんはどう見ているのか。打席でのどっしりとした姿、飛距離が出るフォームの特徴、改めて感じる本塁打の魅力などについて、熱く語った。(時事通信福岡支社編集部 近藤健吾)

◇ ◇ ◇

 高卒5年目という若さで、誰もが認める強打者へと成長した村上。まれに見る逸材に対し、王貞治さんは称賛と期待を惜しまない。広角に打ち分けて本塁打を量産した打撃スタイルを「僕は支持したい」と言う。

 ―村上が今季最終戦で56号を放ち、王さんの記録を58年ぶりに更新した。
 今までもチャレンジしてくれた人はたくさんいたが、なかなかそこまでいかなかった。日本の野球界も変わったということを一番最初に感じた。同時に、村上君は(プロの世界に)出てきたときから注目されていた。周りの期待通りに成長している。技術を向上させて、精神的にもたくましい。思いはあっても到達しにくい数字を超えたわけですから、やっぱり村上君は素晴らしいですよ。

 ―55号を打ってから、ノーアーチが続いた。本人の重圧はすごかったのではないか。
 周りが騒ぎ過ぎですよ(笑)。とにかく、どこにいってもそういう話でいっぱいになる。彼もまだ若いですし。出ちゃえばどうってことはないけど、1試合出ない、2試合出ない、3試合出ないとなると、ちょっと気になる。彼は野球人生の中でいい経験を積んだと思う。将来的にもっとすごいケースが出てきた時に、すんなりと超えられる。

 ―ホームランバッターとしてのすごさ、優れているところとは。
 今の時代は広角に打てることが求められるけど、十分できる。普段の練習でもそうだが、試合でのホームランの飛距離がすごい。ホームランでも、普通の「ナイスホームラン!」という程度のものと、「すごいな!」と思わせるものは、ファンが見ても違う。そういう(後者の)ホームランを打てるようでないと、なかなか本数も打てない。
 常に飛距離や技術にもチャレンジしている。だから、今のような成績になっても慢心しているところは見えない。「今が俺にとって一番大事なところだ」という感じで取り組んでいる。野球選手としてもしっかりしているし、今後は50本、60本を何度も打つことを期待している。

 ―広角に打てるというキーワードがあった。
 新聞の談話で「押し返した」と言っていたが、あれだけ立派な体をして、少々泳ぎ加減や詰まり加減になっても、あの若さでそれをつかんでるのはすごい。どうしても今はボールをたたいて、バットを振ることで打とうとしている人が多いけど、彼はボールとバットの芯を結んで、ボールが来たところにまた押し返していくという感じ。だからボールとバットがついている時間が長いし、ボールもなかなか落ちない。だから彼のやってることを、僕自身は支持したい。

彼のホームランは日本で一番強烈

 王さんは普段、映像を通じて村上の活躍を見ているが、今季は福岡ペイペイドームでの交流戦でソフトバンクと対戦した際、球場で本塁打を目の当たりにした。絶対的エースの千賀滉大投手に一発を浴びせ、さらには対左打者のスペシャリストでもある救援左腕、嘉弥真新也投手からは満塁本塁打を放った。王さんは、投手が分業制になった今の時代に50本以上を打つことは、自身の時代よりも難しいという。

 ―ソフトバンクとの交流戦でも本塁打を打ち、王さんも目の前で見ていた。
 僕は東京五輪で彼が打ったホームランも見ている。体勢をちょっとを崩されてもホームランにするような、応用力も身についてきている。彼の中では、バッティングの迷いはないと思う。彼のホームランは日本で一番の強烈さを持っている。

 ―日本人で50号以上が松井秀喜選手以来。久しぶりに、すごいスラッガーが出てきた。
 やっぱりこりゃあ、すごいですよね。実際に50本以上打つというのは、大変なこと。最近は、相手はデータで研究してくるし、同時に今は分業制。1試合で同じ投手に4回当たるなんてことはない。4打席とも違う場合もあるだろうし、最初の投手は2回、3回と当たるけど、あとは必ず違う投手、ましてやその専門家(セットアッパーら)が出てくる。そういう中でホームランを量産するのは、われわれの時代よりも難しい。その中でもそれだけ打ってるということは、彼の技術がいかに今の時代の若い選手たちの中でずぬけているかということだ。

 ―王さん自身との共通点はあるのか。
 僕はどちらかと言うと体が大きい方ではなかった。彼は打席で構えていてもどっしりしていて、隙がない。投げる方も大変だと思う。アウトコースにいっても左中間に打ち込まれるなど。ちょっと泳がせたと思ってもスタンドまで十分飛んでいっちゃう。この前もアウトコースのスライダーを打っていて、投げる方の投手もすごく神経を使う。僕の経験からしても、投手が神経を使ってくれればくれるほど、ミス(失投)が出てくるし、バッターは打ちやすい。ちょっと(投手の)手元が狂えば、球の勢いや、曲がりも鋭さもいまいち。打つ側からすればチャンスボールになる。

不思議じゃないから、もっと打てる

 22歳という若さがクローズアップされている中、王さんは「打てる人は打てる。年齢は関係ない」とみる。さらに自身が22歳の頃と比べて「子どもと大人の違いがある」と表現した。打席に立つ村上には、大打者の風格や貫禄さえも感じられる。

 ―22歳という若さが注目されている。
 年齢というのは、あんまり関係ないんですよ。打てる人は打てるんですよ。僕も22歳の時がありましたけど、自分が22歳の時とでは、子どもと大人の違いがある。構え方がどっしりとしていて、ホームランの大きさも素晴らしいし、レフトへ大きいのが打てる。何て言ったって三冠王ですからね。(自身を含め)今まで獲った人もいるけど、あの若さで三冠王というのはびっくり。どこまで伸びていくのかと。興味がありますよ。

 ―王さんが55号を記録された1964年を回顧していただきたい。前年に野村克也さんがマークした「52号」を超えてからの心境はどうだったのか。
 僕は52本を打ってから、まだ10試合以上あった。本数は気にしないで普通の気持ちで戦っていた。とにかく、打てる時は打てちゃうんですよ。村上君もそうだと思う。周囲からは「すごい」と言われるけど、本人にしてみれば、特別なことではない。その中でホームランの本数も増えて、5打席連続もあった。だから本人にとっては不思議ではない。不思議じゃないからもっと打てるわけだよね。自分が感激したり興奮したりしているようでは、打てなくなる。本人は一本打てば次、また次と取り組んでいる。

 ―今季は四球で勝負を避けられる場面も多く、厳しくマークされる中で本塁打を量産した。
 難しい球、四球を無理して打つことはない。いわゆる失投というか、ホームランになるボールは必ず来る。それを逃さないで打つというだけでいい。四球は止めようがないんだよね。だから、それは我慢。この打席が四球だったら、よし次の打席、って切り替えて。切り替えをうまくやればいい。それは十分にできている。

本塁打は「野球の華」

 世界記録の868本を放ち、折に触れて本塁打の魅力を語っている王さん。村上はファンにとって、「テレビで見るのではなく、実物を見たいと思わせる選手」になっているという。

 ―近年は米大リーグなどでいわゆる「フライボール」革命が提唱され、フライを狙う選手が増えた。その中で村上の打撃は、ボールをたたいて、スピンをかけている印象がある。
 「フライボール革命」というのは一時の流行だと思う。それは、もともと無理がある。物は上から下に落ちるわけだからね。やっぱり上から下に打ち込んでいけば遠くへ上がっていく。バットが上に当たればボールは下に行く。たたくという感覚で言えばボールは上がる。僕らの時代もそういうのでやってきた。そのこと自体はよかったと思う。村上君もそういう思いをもってやってくれていたのであれば、彼は彼なりに、ホームランを打つコツを捉えているんだなと思う。

 ―王さんは常々、ホームランの魅力を語られてきた。ホームランを量産する選手がいることで、野球人気も高まるのでは。
 とにかく、1点を取るのにみんながあんなに苦労して野球やってるわけですよ。例えば無死三塁だって絶対に点が入るとは限らない。ところが(ホームランは)一振りで1点入っちゃう。やっぱり野球の華と言われるようにね。これはもう相手もどうしようもないわけですよ。スタンドに入っちゃったらどうしようにも、止めようもない。ファンの人もそれを望んでいる。
 アメリカで大谷(翔平)君が注目されてるのは、投手としてすごいっていうこともあるけれど、日本の選手がホームラン争いの中に加わっていたことが、大きな騒ぎになった基だと思う。それだけホームランというのはファンの人も望んでいる。多くの人が望むことをできるっていうことが、素晴らしい。これからもファンの人は彼のホームランを楽しみにグラウンドに来てくれる。テレビで見るんじゃなくて、実物を見たいと思わせる選手、自分でグラウンドに足を運んでバットを振るところを見たい、と思わせる選手になったということは、素晴らしい。

「俺はできる」との強い思いでやってほしい

 王さんは「記録は破られるものだ」と言い、55本を超えた村上を素直にたたえる。大事なのは、これから先だと強調する。村上を待ち受けるのが「いばらの道」だという。その理由とは。

 ―村上がご自身の記録を破った。悔しさ、うれしさは。率直にどう思うか。
 もともと記録は破られるものだと僕は思っている。自分も(55号を打った年に)野村さんの記録を超えた。だから、ボクシングみたいに直接戦って勝った、負けたとは違う。悔しい、ということは全くない。素晴らしい。彼が一本一本を積み重ねて、どんどん(56号に)近づいた。残り試合からしても、これは簡単に超えられるな、とは思っていた。

 ―今後、どんな選手になってほしいか。
 逆に彼はこれからが「いばらの道」ですよ。これからは(本塁打のペースが鈍いと)「何で打てないんだよ」ということで、周りからも責められる。この56号という数字は、確かに彼は(55号を)超えたけど、簡単には超えられる数字ではない。ところが、周りの人はすぐに「60本だ」などと言う。彼はもちろん自分の心の中で挑戦はするでしょうけど、相手も警戒する。人がチャレンジできない道を自分で行っているんだから、これからは本当にやりがいがある野球人生だと思う。

 ―村上へメッセージを。
 とにかく、人一倍打てるところにいることは確か。あまり数字を気にしないで、「俺はできるんだ!」という思いでやってくれればいい。先ほども言ったように、ホームランは波がある。打てないときも、打てるときもある。「絶対に打てるんだ」という強い気持ちを持ってくれれば、彼がホームラン王の時代は続く。三冠王も何回取るのかな。それくらいの期待度はある。とにかく頑張ってほしい。

◇ ◇ ◇

 王貞治の三冠王と2冠 巨人のV9(9連覇)最後のシーズン、1973年に打率3割5分5厘、51本塁打、114打点をマークし、33歳で自身初の三冠王。翌74年も打率3割3分2厘、49本塁打、107打点でプロ野球初の2年連続三冠王となった。本塁打王はシーズン途中から一本足打法とした62年が初で、同年からの13年連続を含む15回。打点王も62年を振り出しに計13回で、8年連続も。首位打者は5回。「2冠」は62年(本塁打王、打点王)、64~67年(本塁打王、打点王)、68~70年(本塁打王、首位打者)、71~72年(本塁打王、打点王)、76~77年(本塁打王、打点王)。77年9月3日に「756号」を記録した。

(2022年10月11日掲載)

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