世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係をめぐり、山際大志郎氏は24日、経済再生担当相辞任に追い込まれた。3日に召集された今臨時国会前から辞任を迫られていた山際氏が「退場」したことで、野党の次の主たるターゲットは、細田博之衆院議長。12月10日の会期末に向け、細田氏の進退が焦点となりそうだ。(時事通信解説委員長・高橋正光)
【目次】
◇安倍首相に報告?
◇「トラブル3冠」問われる資質
◇重い伊吹元議長の発言
◇首相、「内」「外」どちらを優先?
安倍首相に報告?
「瀬戸際大臣」。自民党の石井準一参院議院運営委員長が岸田文雄首相らとの会食後、記者団にこうやゆしたのは17日夜。山際氏は1週間、瀬戸際で踏ん張ったものの、国会審議への影響を理由に辞表を提出した。首相による事実上の更迭とみられる。石井氏から、「だらしない」と挑発された野党は、1週間で山際氏の首を取り、メンツを保った。
8月の内閣改造で続投した山際氏は、外部から教会との接点を指摘されては、認める「後出しじゃんけん」の繰り返し。しかも、急激な物価高などを受けて、政府が取りまとめる総合経済対策の担当閣僚。辞任すれば、岸田政権へ大きなダメージを与えられることから、野党は首取りを狙う第1のターゲットにしていた。
首相には、国会が始まれば、山際氏が徹底追及されるのは分かっていたこと。問題閣僚を切るなら、国会前に決断するのが政界の常識だ。判断が遅れたことで、首相の危機管理能力に疑問符が付き、傷口は広がったと言える。
いずれにしろ、山際氏「退場」の結果、次のターゲットとして注目が集まるのは細田議長だ。与野党を問わず、多くの国会議員に、教会とのさまざまな関係が判明しており、細田氏も例外ではない。こうした状況下、野党が問題視しているのは、出席した会合の内容を当時の安倍晋三首相に報告した疑惑だ。細田氏は教会の韓鶴子総裁が出席する会合で、盛会を祝い「会の内容を安倍首相にさっそく報告したい」などとあいさつする動画が確認されている。
細田氏は与野党双方に迫られ、9月29日と10月7日の2回、ペーパーを出し、教会関連の会合出席8件と会合への祝電など3件を認めたものの、議院運営委員会での質疑に応じたり、記者会見を開いたりしての自らの言葉での説明はなし。ペーパーでは、安倍氏への報告の有無についても触れていない。
細田氏はまた、最大派閥・安倍派の前任会長として、選挙の際に教団票を差配した疑惑もささやかれる。紙での説明に終始する細田氏の対応に、立憲民主党など野党は「疑念は晴れず、国民は納得しない」などと反発を強めている。
そもそも、衆参両院の議長は与党、副議長は野党第1党から選ぶのが慣例で、中立な立場で議院を運営するため、党籍を離脱する。議長が開会のベルを押さなければ、本会議は開けず、与野党の対立から審議が空転した際には、あっせんに乗り出すこともあるなど、強い権限を託されている。
「トラブル3冠」問われる資質
細田氏はこうした立場でありながら、公職選挙法に基づいて衆院小選挙区の定数を「10増10減」する案について、「都会(の定数)を増やすだけが能ではない」「地方いじめのよう」などと異議を唱え、与野党から批判を浴びた。
また、週刊文春は複数回、細田氏の女性記者へのセクハラ疑惑を報じた。これに対し、細田氏は「事実無根」として発行元の文芸春秋を名誉毀損(きそん)で訴えたが、この時も、記者会見を開くなどして、自身の言葉で抗議の意思を示すことはなし。立民は先の通常国会会期末に、細田議長の不信任案を提出。与党などの反対で否決されたものの、議長としての資質を問われている。
これに続いての、教会との接点判明。自身の言動に絡み、これだけ多くの問題を指摘された議長はなく、さながら「トラブル3冠王」。議長としての説明責任が改めて問われているにもかかわらず、「紙対応」に終始。説明責任を果たすことに後ろ向きと言える。
憲法63条は、首相と閣僚に、国会から答弁、説明を求められた場合の出席義務を課している。岸田首相や山際前経済再生担当相らが衆参の予算委員会で、教会の問題について野党の追及にさらされたのは、この条項に基づく。野党は引き続き、首相や、自身の政治団体から親族への事務所賃料の支出が判明した寺田稔総務相と秋葉賢也復興相を追及する構えだ。
一方、議長に関しては、国会法20条で「委員会に出席し発言することができる」としており、出席を求められた場合の対応はあくまでも議長の判断。委員会への出席、説明などを義務付ける条項はない。もちろん、議長は本会議に出席、議事の整理に当たるが、議員が議長に質問することは認められていない。議長は議事に関すること以外、慣例上発言できない。このため、細田氏が同意しない限り、野党は直接、教会との接点についてただすことはできないのが実情だ。
立民の泉健太代表が5日の衆院代表質問で、議長席に座る細田氏の方を振り返り、教会との接点について問い掛け、意思表示での回答を求めた。明確なルール違反だが、こうした事情を踏まえてのことだ。
重い伊吹元議長の発言
衆参の議院運営委員会は、本会議の議事日程や提出された議案の扱い、選挙結果を受けた控室の割り振りなど、院の運営全般について協議する場。今国会では、細田氏が異議を唱えた衆院小選挙区を「10増10減」する公選法改正案が審議される予定だ。いずれかのタイミングで、野党は細田議長に議運委へ出席し、野党の質問に答えるよう改めて求めるだろう。細田氏がこれを拒否した場合、野党の「武器」になりそうなのが、昨年の衆院選に出馬せず、議員を引退した伊吹文明元議長の発言だ。
自民党のご意見番的な存在である伊吹氏は6日、所属する二階派の会合で、泉氏のルール違反を「あり得ないこと」と批判する一方、細田氏に対しても「進んで議院運営委員会に出て、自分の思うところをしっかり述べたらいい」と、議運委での直接の説明を促した。もし、野党が細田氏の議運委での説明を要求し、自民党が反対すれば、伊吹氏の発言との整合性を問われる。自民党も同意して、与野党が合意して議運委への出席を要求。細田氏がなお拒否し続ければ、野党には不信任案提出の理由になり得る。
細田氏が議運委への出席に応じれば、野党は、安倍氏への報告の有無を含め、教会との接点について徹底的にただすのは確実。細田氏が説得力のある説明をできなければ、国民の細田氏への不信感が募り、やはり野党は不信任案を提出するだろう。いずれのケースでも、野党が会期末に、細田議長の不信案を提出する流れとなる可能性が高そうだ。
首相、「内」「外」どちらを優先?
その際、判断を問われるのが岸田首相だ。細田氏を守るなら、自民党が不信任案に反対、否決すれば済むが、世論の反発を買い、内閣支持率がさらに低下しかねない。逆に、細田氏を切るなら、自発的な辞任を説得し、応じないなら採決での欠席を党に指示すれば、不信任案は可決される。その場合は、安倍派議員らの反発を買い、政権基盤が揺らぐかもしれない。
首相は、自らの言葉で説明しない細田氏について「自身の判断で適切に対応すべきだ」と述べ、対応を見守っている。いずれ、「内」と「外」のどちらを優先するのか、決断を迫られよう。
「いまだ貝のように口を開かない細田議長の、記者会見が必要だ」。山際氏の辞任を受け、25日の本会議で急きょ行われた質疑で、立民の逢坂誠二代表代行は、自身の言葉での説明を細田氏に促すよう首相に求めた。共産党の塩川鉄也氏は「細田議長にも議運の場での説明、質疑を求める」と強調した。首相はこれらの点について答えなかったが、細田氏は議長席でやり取りに聞き入っていた。議長が不祥事で辞めた例はほとんどなく、辞任となれば、政権への衝撃度は山際氏の比ではない。
細田氏の進退問題は、会期末に最大のヤマ場を迎える見通しだが、まずはその前段階として、細田氏に対する野党の議運委での説明要求に、自民党が同意するのか。同党が同意し、与野党そろっての出席要求に、細田氏が応じるのか。自民党と細田氏の対応が、当面の焦点となるだろう。
(2022年10月25日掲載)