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さらなる水際緩和で国力低下防げ【政界Web】

2022年10月14日

日本旅行業協会・池畑孝治事務局長に聞く

 政府は、新型コロナウイルスの水際規制を大幅に緩和した。1日5万人の入国者数上限を撤廃し、外国人の個人旅行を解禁。今後、円安効果も相まってインバウンド(訪日客)の回復が見込まれ、大きな打撃を受けてきた関連業界の期待は高まる。日本旅行業協会の池畑孝治理事・事務局長に、政府対応の評価や旅行業界の課題などを聞いた。(時事通信政治部 大沼秀樹)

【政界Web】前回記事は⇒岸田首相の言葉はなぜ響かないのか

【目次】
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旅行需要、コロナ禍前の4割に
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ワクチン条件撤廃、脱マスクも
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円安、旅行費増の好機
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欧米豪の富裕層旅行、獲得が必要

旅行需要、コロナ禍前の4割に

 ―現在、旅行業界が置かれている状況は。

 観光庁が公表している主要旅行業者の旅行取扱額の月次調査によると、2022年7月は新型コロナウイルス禍前の19年の4割に減少し、国内旅行に限っても6~7割しかない。持続化給付金など政府の支援策を活用し、社員の休業や他業種への出向などあらゆる経営努力を行って、何とか存続・維持しているのが現状だ。
 「Go To トラベル」や近隣地域限定の旅行割引キャンペーン「県民割」なども活用し、訪日・海外旅行の専業でも国内旅行に取り組み、成果を出せた事業者はあった。旅行先の産品の通信販売や、カフェなど非旅行分野に挑戦した事業者もあり、一部の成功事例はあるが、多くは利益の柱にまでは至っていない。

 ―国内観光の需要喚起策「全国旅行支援」への期待は。

 もちろんある。県民割やブロック割は近場を自家用車で行って帰ってくるようなマイクロツーリズム的な旅行が多かった。鉄道や飛行機などをアレンジし、付加価値を付ける旅行会社の力を発揮できる時がやっときた。

ワクチン条件撤廃、脱マスクも

 ―政府は11日から水際措置を緩和した。これまでの対策の評価は。

 岸田文雄首相が5月に「G7(先進7カ国)並み」に水際措置を緩和する方針を示してから、①入国前の陰性証明取得廃止②入国者数上限の撤廃③ビザ(査証)免除措置の適用再開―を求めてきた。
 ワクチン3回接種などを条件に入国時の検査がなくなり、査証免除措置も適用される。受け入れ責任者による厚生労働省の入国者健康確認システム(ERFS)の申請も不要となった。ほぼ全ての要望がかなったことを感謝する。だが、ワクチン3回接種の条件は諸外国に比べて厳しく、回数による制限の撤廃を求めたい。
 また、現在開港している空港はいまだ10空港にすぎない。大型豪華客船の航路から日本が外されないためにも、全ての空港や港の早期再開が必要だ。地方経済の活性化、数年後の日本の国力低下を防ぐことになる。

 ―欧米では「脱マスク」が主流になっている。

 日本のマスク着用は、既に着用していない国から見ると特異だ。夏休みの間に海外を訪れた日本人からも、疑問の声が上がっている。場所や場面を選ばないマスク着用は、インバウンドにとって心理的なハードルとなり得る。

円安、旅行費増の好機

 ―現在の円安がインバウンドにもたらす効果は。

 計り知れないチャンスだ。19年の訪日旅行客1人当たりの平均消費額は15万8000円だったが、円安の影響でワンランク上の食文化などを楽しんでもらえる可能性がある。体験型の「コト消費」、地方分散などにも取り組むことで、旅行期間を延ばすことができ、さらに消費額を増やすことにつなげられる。地域経済への効果も高められる。

 ―インバウンド復活に向けた方策は。

 旅行会社はこれまで、インバウンドへの対応が遅れていた。宿泊や交通など「旅行素材」の供給が中心で、ツアーオペレーターとして付加価値の高い旅行サービスを提供できている会社は非常に少なかった。だが、旅行・観光業はコロナ禍で、いかにインバウンドに取り組むべきか考える時間を持つことができた。
 日本は、世界経済フォーラム(WEF)の21年版「旅行・観光開発ランキング」で1位になったように、ポテンシャルがある。地方への分散や体験型の観光、文化・自然遺産といった高付加価値でテーマのある新たな旅の提供に向け、地域や事業者が連携していくべきだ。

欧米豪の富裕層旅行、獲得が必要

 ―「ゼロコロナ政策」を続ける中国からのインバウンドがなかなか見込めない。

 中国はインバウンドの3割を占め、1000万人近くが来日していた。遅かれ早かれ戻ってくると思うが、それまでの間を慣らし期間としてオーバーツーリズムなどの問題解消に取り組みながら、受け入れ体制を磨き上げていくべきだ。

 ―ポストコロナのインバウンドのあるべき姿は。

 これまで中国、韓国、台湾など東アジアへの依存度が高かった。一部地域への偏重を解消し、欧米各国やオーストラリア、アジアの富裕層の個人旅行などを獲得することが必要だ。

(2022年10月14日掲載)

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