中国の江沢民元国家主席ら共産党政権の有力長老2人の動きがインターネット上で相次いで伝えられた。引退した指導者は重要な公式記念行事以外、原則として表に出ないことになっており、珍しいことだ。江氏らは第20回党大会(10月16日開幕)を前に習近平国家主席への支持を表明したのか、それとも、何らかの不満を示したのか。(時事通信解説委員・西村哲也)
写真の構図に疑問
香港メディアなどは10月初め、江氏の近影とされる写真を紹介した。中国本土のインターネット交流サイト(SNS)上で出回ったもので、96歳の誕生日(8月17日)を上海で祝った際に撮影されたといわれる。江氏周辺から流出した可能性が大きい。
江氏の後ろには誕生祝いの花輪。送り主の名前は一部が見えないが、「李克強 程」と書かれており、李克強首相、程虹夫人と思われる。
江氏の右(前方から見て左)に座った王冶坪夫人の後ろにもう一つの花輪が置かれ、送り主は上の方の名前が最後の字の一部しか見えないが、下が「彭麗媛」なので、習近平国家主席夫妻であろう。
写真の構図について、①「李克強」が全部見えるのに、習氏の名前はほとんど映っていない②中国の慣習では左が右の上位とされるが、政権ナンバー2である李氏の花輪が習氏の花輪の左側に置かれている─ことから、江氏が李氏支持を示唆したとの見方も出ている。
習氏は江氏から推されて党総書記・国家主席になったといわれるが、トップ就任後、自分の権力基盤を強化するため、反腐敗闘争で江派の大物OBを次々と粛清した。習氏に対し、江氏が不満を抱いても不思議ではない。
しかし、上記の①は、夫妻の後ろに立っている人物の顔が映らないように写真の上部をトリミングしたためかもしれない。②に関しても、花輪の並べ方はバースデーケーキの位置など人物以外の要素も関係するので、何とも言えない。
この写真から、江氏もしくは江派が習、李両氏との良好な関係を誇示したいことは想像できるものの、それ以上の深読みは現段階では難しい。
最高齢長老が「改革・開放」強調?
動静が伝えられたもう1人の長老は、旧国家計画委員会主任(閣僚)や党中央組織部長、党政治局常務委員を歴任した宋平氏。105歳と有力長老の中で最高齢だ。革命時代に周恩来氏(後の首相)の政治秘書を務めたことや、胡錦濤氏を総書記・国家主席に推したことで知られる。
宋氏は9月12日、貧困家庭の子供に対する就学支援などを行う慈善事業団体の行事にオンライン参加。中国の社会主義文化を宣伝するウェブサイトなどが映像付きでこれを紹介した。
宋氏は慈善団体の顧問役を務めて、習氏が特に重視する貧困対策を後押ししてきた。この時期にこのような形で公の場に出てくる行動は、習氏支持を意味しているようにも見える。香港親中派のメディア関係者は「宋氏は政治面で(社会主義イデオロギーの)正統派であり、習氏と一致している」と語った。
ただ、一部の香港メディアなどは、宋氏が「改革・開放は中国の発展が必ず通る道だ」と述べたと報じた。改革・開放政策について、李氏が市場経済化などの必要性をたびたび強調するのに対し、保守派の習氏が消極的なことはよく知られており、このような発言は習氏に対する苦言に聞こえる。
現在確認できる映像に宋氏の「改革・開放」発言はない。ネット規制当局の指示で削除された可能性があるが、そもそも、この発言は宋氏のものではないという説もあり、宋氏の今回の言動は謎に包まれている。
(2022年10月12日掲載)