世界三大映画祭の一つ、ベネチア国際映画祭(8月31日~9月10日)がイタリアで開催されている。会場はイタリア北部ベネチア・リド島。79回目を数える今年も、世界中から力作が集まった。映画関係者や観客でにぎわう祭典の様子を現地から報告する。(時事通信文化特信部 服部華奈)
会場は高級リゾート
リド島はベネチア本島の南に位置する。アドリア海に面して長く続く海岸には高級リゾートが並び、映画「ベニスに死す」の舞台としても有名だ。
海に浮かぶベネチアへは陸路と空路で向かうことができる。今回はベネチアの空の玄関口、テッセラ空港(通称マルコ・ポーロ空港)から入った。空港に到着すると、早速映画祭の広告やポスターが目に入り、盛り上がりを予感させる。
すぐにリド島へ向かいたいところだが、宿泊地の関係でまずは本島に立ち寄ることに。マスク着用が義務付けられた水上バスに揺られること1時間25分。本島のホテルにスーツケースを預け、町の中心部に繰り出した。
近年は高潮の影響で浸水被害に見舞われているベネチア。水没したサンマルコ広場の映像も記憶に新しいが、この日はカフェで生演奏に酔いしれながら旅行気分に浸るノーマスクの観光客でにぎわっていた。ただ、個人旅行で訪れた2018年に比べると、コロナの影響もあってか人出は少ない印象だった。
支度を整え、いざリド島へ。水上バスで約15分。リド島の船着き場では、ベネチアの象徴で映画祭のモチーフでもある獅子像が迎えてくれた。映画祭は初めてなので、胸を躍らせながら海岸沿いをひたすら会場へと歩く。街中に祭りの雰囲気はさほどない。高級リゾート特有のゆったりとした空気が流れ、レストランのテラスやビーチで思い思いに過ごす人たちの姿が見えた。
日差しがとにかく強い。10分ほど歩いただけで日焼けしたような感覚を覚えながら海沿いを進むと、だんだん映画祭の会場が近づいてきた。
スターを「入り待ち」
驚くほどさらりとセキュリティーチェックが終わり中に入ると、そこはまさに祭りの舞台。熱気と興奮が会場全体を包んでいた。
まず人だかりができていたのがレッドカーペット。日差しが照り付ける中、スターを一目見ようとカーペット前で陣取る観客の多さに驚く。試しに若い女性2人に声を掛けてみると、ローマから初めて映画祭に来たという。まだ目当てのスターには会えていないが、「待っている時間も楽しい」と笑顔を見せた。
俳優らが会場入りする際に通る船着き場。一般の観客から見える位置にあるため、ここでも辛抱強く待つ人たちの姿が。一緒にしばらく様子を見ていたが、なかなかスターは現れず、「入り待ち」は断念した。
映画祭の期間中は、最高賞の金獅子賞を競うコンペティション部門などの作品が連日上映されている。メイン会場「パラッツォ・デル・シネマ」のほか、複数の上映会場が日々フル稼働しており、この日はコンペ部門選出のマーティン・マクドナー監督「イニシェリン島の精霊」を観賞した。数々の映画祭で評価されてきた名監督の最新作だけに、会場は多くの人でにぎわい、エンドロールでは拍手が続いた。
ただし上映は全て英語字幕。字幕を追い、訳すことに必死で、なかなか話が頭に入ってこない。終わった頃にはヘトヘトで、改めて語学力の大切さを痛感した。
夜はさらに華やぎが増す。きらびやかにライトアップされたレッドカーペットを歩く俳優らの姿に、あちこちから歓声が上がる。観客の中にもドレスアップして参加する人が増え、ちょっとした撮影会になっている場面も。初めての映画祭で連日の取材や原稿執筆、試写会と過密スケジュールに疲れもあったが、祭りの非日常体験を味わうと苦労も悪くないなと思えてくる。
日本作品はコンペ部門に深田晃司監督、木村文乃さん主演「LOVE LIFE」、斬新な作品を集めたオリゾンティ部門には石川慶監督、妻夫木聡さん主演「ある男」が出品されている。会場では、現地メディアなどがコンペ作品を評価する「星取表」が連日配布され、さまざまな受賞予想が飛び交う。日本映画がどう評価されるのか、10日夜(日本時間11日未明)の審査結果発表を待ちたい。
(2022年9月8日掲載)