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「無策無敵」「決断実行」の選択ミス【点描・永田町】

2022年09月05日

政治ジャーナリスト・泉 宏

 故安倍晋三元首相の「9・27国葬」まで1カ月足らず。参院選の最終盤だった7月8日の銃撃による安倍氏の突然の死は、岸田政権への重大な影響だけでなく、安倍氏との密接な関わりが指摘される世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の「底知れぬ闇」(閣僚経験者)を白日の下にさらした。「独断専行」で安倍氏の国葬を閣議決定した岸田文雄首相にとっても「想定外の事態」(側近)で、最新の世論調査では国葬への反対論拡大とともに内閣支持率が急落し、夏休み最終日に新型コロナウイルス感染が判明した首相を追い詰めている。

【点描・永田町】前回記事は⇒首相が「8・10電撃人事」で大勝負

 そもそも安倍氏が非業の死を遂げた際は、「民主主義への挑戦」との受け止めから首相らは「断固たる姿勢を示す」と、参院選最終日の翌9日は全国で選挙活動を展開、野党側もそれに呼応する状況だった。しかし銃撃犯が旧統一教会に対する個人的な恨みから、教団が広告塔として利用していた安倍氏を標的として付け狙い、奈良市での犯行に及んだとの経過が明らかになると、「民主主義への挑戦」という見方も変化。その一方で「安倍氏と教団の、長年の選挙を通じた〝癒着〟」(立憲民主党幹部)が取り沙汰されるようになったことで、国民レベルでも国葬への反対論が急拡大した。

 首相は窮状をリセットすべく、お盆直前の8月10日に内閣改造・自民党役員人事を断行したが、各メディアが新体制に起用された議員と教団の関係を集中的に取材した結果、安倍派を中心に何らかの関わりを持っていた者が次々と掘り起こされ、政権への逆風は一段と加速した。

「国葬」「人事」での大変身が裏目に

 首相の電撃的な人事は、その時点では安倍派も含めて党内から一定の評価を得た。しかし「旧統一教会隠し」(共産党幹部)との批判などから、各メディアの世論調査では内閣支持率が下落傾向に。主要閣僚や党役員の教団との関わりが次々と露見した8月下旬には内閣支持率が急落し、支持と不支持が逆転する事態に陥った。そうした中でのコロナ感染で、首相は8月27日から出席を予定していた国際会議をリモート参加に切り替え、本格公務は31日から再開。まさに「泣き面に蜂」(周辺)の状態だ。

 もともと首相は「『無策無敵』という政治手法で高支持率を維持してきた」(自民長老)とされる。ただ、この「無策無敵」という言葉には注釈が必要で、「無策」は「国民の反発を招くような余計なことはしない」、「無敵」は「あえて敵をつくらず味方に付ける」ことを意味する。安倍氏死去を踏まえ、首相はいずれも電撃的な「国葬」と「人事断行」を決断したが、これらは「本来の『無策』と『無敵』の双方に反する」(自民長老)との見方が支配的だ。

 経過を知る側近は「『何も決めない〝検討使〟』から『決断と実行の〝ニュー岸田〟』に大変身することで〝岸田1強〟をアピールしようとした」と解説する。しかし、国民の間では「決断すべき問題が違う」との批判が高まる。収束が見通せないコロナ「第7波」の感染爆発への対応は「すべてが後手で中途半端」(閣僚経験者)と疑問視され、旧統一教会に関わりを持つ議員への対応も「本人に申告させるだけで、首相や党執行部は傍観している」(同)という野放し状態だからだ。だからこそ「今こそ『聞く力』を発揮し、コロナ対応や旧統一教会問題で決断すべきだ」(同)との声が広がる。

 軽症の首相はリモートで公務をこなし、支持率急落にも「一喜一憂しない」(松野博一官房長官)となお強気だが、「9・27国葬」に向けての〝政治的後遺症〟の重さは増すばかりだ。

(2022年9月5日掲載)

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◆時事通信社「地方行政」より転載。地方行政のお申し込みはこちら

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