国論分断を鮮明にした安倍元首相「国葬」狂騒曲

2022年09月27日21時00分

政治アナリスト 伊藤惇夫

 泉下の安倍晋三元首相は、果たしてこんな形で送られることに、どんな思いを抱いているのだろうか。明らかに多くの国民が反対する中、岸田文雄首相の‟決断“による「国葬」が強行された。おそらく、後に残るのはほろ苦い思いと、寂しさだろう。ここでもまた、この国の分断に、新たな1ページが加えられることになったことは間違いない。「終わったこと」にするのではなく、岸田政権は改めて、なぜここまで国民の反発が高まったのか、その背景、要因と正面から向き合う必要があるはずだ。

〔写真特集〕安倍晋三元首相の国葬

 安倍元首相の衝撃的な死からわずか6日後、岸田首相が安倍元首相の国葬を表明した。多くの国民がショック状態にある中、極めて唐突な決断だった。事件直後の異常な空気もあって、確かに当初は賛同する声も少なくなかったが、その後、時間がたつにつれて、急速に反対論が高まっていった。なぜ、世論は大きく動いたのだろう。

 いうまでもなく、その要因の一つは旧統一教会問題だ。中でも、安倍元首相自身がこの教団と自民党との接点の中心にいた可能性が高まったこと。にもかかわらず、岸田首相が真相究明を拒否したことが、少なからず影響したとみてもいい。

 さらに言えば、「丁寧な説明」を口癖のように繰り返してきた岸田首相自身が、国葬実施を表明してから、約2カ月間も公の場での説明を避け続けたこと、最長政権だったことや、海外からの弔意が相次いだことなど、理由として挙げた四つが、いずれも説得力に欠けたことなども、反発を生んだ要因の一つかもしれない。

国葬決断の背後に漂うもの

 ただ、少し視点を移して、さらにその奥にある背景を探っていくと、三つの問題が横たわっているように見える。一つ目は「政治臭」だ。国葬決断にあたって、岸田首相は安倍元首相を支持する、党内のいわゆる保守層に配慮したのではないか、あるいは国葬に伴う弔問外交での成果に期待したのではないか、などといった見方がある。むろん政権側はこうした見方を否定するだろうが、多くの国民は今回の判断のどこかに「政治的思惑」を感じ取っていることは間違いない。政治の世界では駆け引き、損得、思惑が錯綜(さくそう)することが常だが、元首相の非業の死にまで、政治が絡むとなると、「一線を越えた」と感じる人がいたとしても不思議ではないだろう。

 二つ目は「一強のおごり」だ。岸田首相は今回の国葬について、内閣府設置法に基づいて閣議で決定したもので、国葬を行うかどうかを判断する権限は行政府にあると述べている。法的根拠についてはさまざまな視点からの議論が展開されているが、おそらく「水掛け論」に終始するだろう。ただ、物事は単純化して考えるとわかりやすい。そもそも「国葬」とは、国が、その意思として弔意を表すための儀式のはず。では、その国の意思を決める権限は一体どこにあるのか。法律論ではなく、素朴に考えれば、それは「国権の最高機関」である国会ではないのか。

 だが、岸田首相は国会に諮ることも、国会で説明することもなく「閣議決定」で済ませてしまった。国会を軽視、無視し、憲法解釈の変更まで閣議決定で押し切る手法は安倍政権の「得意技」だ。参議院選挙までの岸田首相は、安倍政権流のハードな政権運営ではなく、ソフト路線を取るかに見えたが、同選挙後の、これまた唐突な原発新増設や稼働延長表明などをも併せて考えると、「黄金の3年間」?を手に入れたことで、「1強のおごり」に回帰してしまったかに見える。意識しているかどうかは別にして、国葬反対論の高まりの背景に、こうした姿勢への反発があるのではないだろうか。

 三つめは、これと関連して、岸田首相のイメージの崩壊があるように見える。参議院選挙までの岸田政権は、「何もしないこと」と、世論の反応を見て「聞く力」を発揮、方針を軽々と変更することで、支持を高めてきた。他の政権なら「無策」、「ブレた」の批判が起きても不思議ではないはずだが、むしろこれが柔軟、ソフトという評価につながっていたかに見える。だが、独断ともいえる国葬の決断が、そうしたプラスイメージを崩壊させてしまった。加えれば、記者会見や閉会中審査での岸田首相のまるでAIのような‟体温”を感じない言葉の羅列が、それに輪をかけたのではないか。世論は具体的な政権の方針に対する賛否とは別に、イメージによっても大きく動く。

 いずれにしても、おそらく、岸田首相は国葬を終えた今、「こんなはずではなかった」との思いにとらわれていることだろう。

 安倍政権の功罪についてはさまざまな見方がある。だが、一つはっきりといえるのは、2017年の都議会議員選挙中に安倍元首相が放った「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という言葉に象徴される国論の分断が、安倍政権下で急激に進んだことだ。今回の国葬は、改めて国論の分断を鮮明にする結果となった。安倍元首相が残した「遺産」はまだ、消えそうもない。

  ◇  ◇  ◇
伊藤 惇夫氏(いとう・あつお) 学習院大学法学部卒。1973年から自民党本部に勤務。主に広報を担当し、88年から92年まで自民党政治改革事務局主査補として「政治改革大綱」の作成にあたる。94年自民党本部を退職。95年に新進党事務局に入り総務局企画室長。96年に新進党を退職、太陽党結成に参画し事務局長。98年民政党結成・事務局長、同年民主党結成・事務局長。2001年に民主党を退職し、政治アナリストに。内外情勢調査会講師。

(2022年9月27日掲載)

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