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【中国ウオッチ】劣勢ロシアと距離置く中国─ウクライナ戦争に「疑問と懸念」

2022年09月21日13時15分

 中ロ首脳会談でウクライナ戦争をめぐる中国側の「疑問と懸念」が取り上げられるなど、両国間に隙間風が吹いている。習近平政権は反米のパートナーとして引き続きロシアを重視しながらも、泥沼化したウクライナ侵攻に巻き込まれて、国際社会で共犯扱いされたり、米国などから新たな制裁を受けたりする事態を避けるため、プーチン政権と微妙に距離を置き始めたとみられる。(時事通信解説委員・西村哲也)

記者団の前で暴露

 「ウクライナ危機について、われわれは中国の友人たちのバランスが取れた立場を高く評価している。われわれはこの点に関するあなたの疑問と懸念を理解している。きょうの会談でもちろん、われわれの立場を詳しく説明する」。9月15日、上海協力機構(SCO)首脳会議の開催地となった中央アジアの古都サマルカンド(ウズベキスタン)でプーチン大統領は習近平国家主席と会談し、記者団の前でこう語った。両首脳がじかに会うのはロシアの対ウクライナ開戦以後初めてだ。

 プーチン氏の発言は、中国がウクライナ戦争をめぐって「疑問と懸念」を持っているとロシア側が認識していることを示す。しかも、習氏に対して「会談で説明する」と言っているので、事前に中国側が「疑問と懸念」を伝え、回答を求めていた可能性がある。

 プーチン氏が中国の懐疑的態度に対するいら立ちを表したのか、それとも、ロシア側の誠意ある対応をアピールしようとしたのかは分からないが、いずれにせよ、この発言は中ロ間に何らかの食い違いが生じていることを暴露する形となった。

 中国外務省の発表によると、習氏は「中国側はそれぞれの核心的利益に関わる問題で、ロシア側と互いに強く支持し合っていきたい」と述べたが、ウクライナには全く触れなかった。中国側の外務省発表も主要公式メディアの報道もプーチン氏の上記の発言を紹介しなかった。

「中国外交の風格に合わず」

 一方、海外特派員経験がある国営通信社・新華社のベテラン記者が開設したといわれる微信(中国版LINE)のアカウント「牛弾琴」はプーチン氏の発言に言及。「疑問と懸念」が何かを直接説明しなかったものの、「中国が自分のやり方で和平を勧め、交渉を促し、情勢の沈静化を図っているということではなかろうか」と指摘した。

 また、「ウクライナに全く関心を寄せないとか、ロシアがどんな戦いをしようが、それを支持するというのは中国外交の風格に合わないし、(中国を)さらに中傷する口実を西側に与え、中国の道義や利益にも合致しない」とも述べた。

 牛弾琴の論評が関係当局者の考えを反映しているとすれば、中国はロシア側に「なぜ和平交渉を行わないのか」「このまま軍事作戦を続けて大丈夫なのか」といった疑問と懸念を伝達したということであろう。

 中国当局者と付き合いのある香港消息筋の間でも「戦争に勝てるのかということではないか」「ハリコフ州での失敗(ロシア軍の撤退)を取り上げたのかもしれない」とさまざまな見方が出ている。

 ロシア側の映像を見た限りでは、中ロ両首脳の表情はいずれも硬く、反米連携強化で気勢を上げるといった雰囲気ではなかったようだ。

「負け戦」不安視か

 訪ロした中国全国人民代表大会(全人代)の栗戦書常務委員長(国会議長に相当)がロシア下院のボロジン議長、各派指導者らと顔を合わせた会談(9月9日)に関する報道も不可思議だった。栗氏は共産党政治局常務委員として党指導部ナンバー3の地位にあり、習氏の盟友といわれている。

 映像を含むロシア側の報道によれば、栗氏は会談で次のように述べた。

 一、ロシアの核心的利益や幾つかの重大なカギとなる問題で、中国側はロシアに十分な理解と支持を表明する。

 一、現在のウクライナ問題で、米国と北大西洋条約機構(NATO)はロシアの玄関口に迫り、ロシアの国家安全保障と人民の生命安全に影響を与えた。このような状況下で、ロシアは取るべきだと考えた措置を取った。中国はこれを理解し、さまざまな面で策応している。

 一、ロシアはコーナーに追い詰められ、国家の核心的利益を守るため反撃に出たと言ってよい。

 「策応」は戦闘に関する連携を指すことが多く、ロシア擁護の立場を強調するため、あえてこの言葉を使ったようだ。ロシア側は栗氏と下院指導者たちの会談の映像を公表し、ウクライナ問題で中国から強い支持を得ていることを宣伝した。ところが、中国側は栗氏の「策応」発言を発表も報道もしなかった。つまり、中国国内ではこの発言はなかったことにされている。

 以上の動きから、中国がウクライナ問題で引き続きロシア寄りの立場を取りながらも、それを積極的に宣伝しないようにしているのは明らかだ。ハリコフ州でのロシア軍大敗などを見て、ウクライナ侵攻作戦の先行きに対する不安を強めているとみられる。ロシアはしょせん軍事同盟国ではなく、声援は送っても「負け戦」に直接首を突っ込むつもりはないというのが本音なのだろう。

(2022年9月21日掲載)

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