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【中国ウオッチ】反撃に転じた習主席 政策・人事で影響力誇示

2022年09月14日12時00分

 中国の習近平国家主席が久しぶりに左派色を強く打ち出している。地方視察などで「共同富裕」や「国内大循環」主体論を強調し、徹底的なゼロコロナ政策も継続。国内経済の失速でしばらく持論を抑え気味だったが、10月16日からの第20回共産党大会に向けて巻き返しに出たようだ。(時事通信解説委員・西村哲也)

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左派スローガン連発

 政権指導部の夏休みが明けた8月16~17日、習氏は東北地方の遼寧省を訪れ、国共内戦の記念館や国有企業などを視察した。習氏は、社会主義体制を意味する「赤い天下」を守り、「赤い遺伝子」を受け継いでいく重要性を指摘。「共同富裕」「国内大循環を主体とする国内・国際の双循環」「自力更生」「科技自立自強」と左派好みのスローガンを連発した。

 いずれも改革・開放路線を否定するものではないが、偏重すれば市場経済化や対外開放拡大、民間ビジネス振興による経済立て直しの妨げになりかねない。そのため、3月の政府活動報告で共同富裕論がトーンダウンして、国内大循環主体論や国有企業強化の文言が書き込まれなかったほか、民営企業たたきも沈静化し、経済政策で習近平カラーは薄くなっていた。

 習氏の遼寧視察に合わせるかのように、8月後半発行の党理論誌・求是は、習氏が共同富裕論を詳述した昨年1月の党内演説を掲載。「現代化が実現するのを待って共同富裕問題を解決するというわけにはいかない」というかなり左寄りの発言があったことを明らかにした。

 求是は9月前半発行の誌面でも、習氏が国内大循環主体論を展開した2020年10月の党内演説を紹介した。習氏はその中で新たな発展戦略について「閉鎖的な国内だけの循環ではない」としながらも、なるべく外部からの影響に左右されないようにして、国内経済が「極端な状況」にも対応できるようすべきだと主張している。米国など先進国陣営から全面的な経済制裁を受ける事態などを想定しているとみられる。

 党機関紙・人民日報や国営通信社・新華社など他の主要公式メディアも共同富裕論や国内大循環主体論を積極的に伝え、習氏の主張を補強した。

 一方、経済改革に積極的な李克強首相も8月16日から17日にかけて、改革・開放の先進地区である南部の深圳市(広東省)を視察し、民営企業重視の姿勢をアピールした。だが、李氏のこの動きに呼応する公式メディアはなかった。

「ゼロコロナ堅持」不変

 新型コロナウイルス対策でも一時、極端な行動規制が経済に与える打撃への懸念から、習氏のゼロコロナ路線が後退したのではないかとの見方が出た。孫春蘭副首相が8月13~21日にコロナ対策指導のため海南省を訪れたことを報じた新華社電(13日と21日)が、習氏の路線を意味する「ダイナミック・ゼロコロナ」ではなく、「社会面ゼロコロナ」という別の言葉を使ったからだ。

 しかし、実際には8月以降も西部の成都市(四川省の省都)などでロックダウン(都市封鎖)が次々と断行された。西部の貴陽市(貴州省の省都)など一部の都市では食料不足が深刻化しているといわれる。国家衛生健康委員会の報道官は9月に入ってからも記者会見で「ダイナミック・ゼロコロナの方針を堅持する」と言明している。

 人事面では、中部・湖北省のトップ(党委員会書記)から全国人民代表大会(全人代=国会)憲法・法律委の副主任委員(副委員長)という閑職に転じていた習派の応勇氏が9月2日、最高人民検察院の副検察長(閣僚級)に任命された。習氏の推しで第一線に復帰したとみられ、来春の全人代で同検察長(検事総長に相当)に昇格する可能性が大きい。

 高齢(11月に65歳)を理由に半引退となった幹部としては異例の「復活」だ。検察トップに就けば、閣僚級より格が高い「国家指導者」となる。ただ、社会主義体制の中国では、検察も共産党の支配下にあり、検事総長に当たるポストと言っても実権はあまり大きくない。

 応氏は中国経済をけん引する大都市・上海の市長を務め、湖北省ではコロナ対策で大きな成果を上げた習派の功労者。このキャリアと年齢から、政権中枢の党政治局に入ってもおかしくないが、これまで政治局員が検察トップを務めた例はない。

(2022年9月14日掲載)

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