会員限定記事会員限定記事

「この台詞が言いたかったから」 映画「よだかの片想い」主演・松井玲奈【インタビュー】

2022年09月10日12時00分

 女優、松井玲奈にとって映画「よだかの片想い」(安川有果監督)は、長年、映像化を強く望んできた作品だ。原作は小説家としての顔も持つ松井が心から敬愛する直木賞作家、島本理生の同名小説。主演女優は「何か映像化したい作品はないかと聞かれるたびに挙げてきましたが、いろんな人たちのご尽力でようやく実現しました」と感慨深げに話した。(時事ドットコム編集部 宗林孝)

【写真特集】映画「よだかの片想い」 主演・松井玲奈

 松井が演じたのは、顔の左側に大きなあざがあるアイコという大学院生。幼い頃の思わぬ体験を契機に目立たないように生きてきたものの、内面は一本芯が通った女性だ。タイトルから連想されるように原作は、醜い姿をした「よだか」という鳥が、鷹から変えるよう強いられた名前を、命を賭して守り抜くという宮沢賢治の短編小説「よだかの星」がモチーフとなっている。「よだか」の弱さと気高さが重なる存在のアイコは、映画監督の飛坂(中島歩)と出会い、恋愛関係を築いていくことで、心の重荷を解きほぐされていく。

 全作品を読破したというほどの島本ファンである松井は、同じ作家としても「行き詰まるたびに読み返し、そこに自分の求めている答えがあることが多いんです。もちろんコピーすることはないですがとても勉強になります」と熱っぽく語る。さらに、原作についても「恋愛とか友情といった(他人との)関係性が踏み固められるように徐々に変化していく展開がとてもリアルに感じられるんです」と、言葉が止まらない。

 もちろん自身も顔にあざのメークを施したが、「いつも通りの気持ちで演じた」という。「この作品が魅力的なのは、あざのある主人公が恋をするからではなく、不器用な女性が恋愛をしていく中で、人に受け入れてもらえたり、周りとの人間関係の距離感に気付かされたりしていくところにあると思うんです」と語り、自然体で演じられたことを強調した。

 ただ、思い入れが強いだけに、時間に限りがある映画に原作の内容をすべて詰め込むことなど不可能であることは理解しているものの、愛読者として譲れない部分もあった。「例えば飛坂さんと電話をするシーンですが、最初は原作にあったある台詞(せりふ)がなくなっていたんです。でも、これがないと思いが伝わらない、この台詞が言いたいから出演したんだと熱い気持ちを伝え、復活してもらいました」と明かす。

 一方で、アイコが夜空を見詰めながら終わる原作とはラストシーンが大きく異なったことについては納得している。「最初はなんでこのような終わり方をするのかなと思いましたが、完成したものを見て、アイコを含めた登場人物の前向きさが表れていて、これも好きだなと思いました」。制作者と出演者が相互に意見を交わし合いながら手を携えて作り上げたことが、映画の完成度をより高めた。

 現在、スクリーン上などで見せる所作や姿勢の美しさはデビュー当初にスタッフに忠告されたことがきっかけで修正したものだという。「お箸の持ち方が下手で当時のマネジャーさんから指摘され練習しました」と照れる松井だが、これまでの14年間の積み上げが今につながっていることは間違いないようだ。

◇  ◇

松井 玲奈(まつい・れな) 1991年生まれ、愛知県豊橋市出身。名古屋を中心に活動するアイドルグループSKE48の一員として2008年にデビュー。15年に卒業して、現在では女優として舞台や映画などに出演するほか、「カモフラージュ」や「累々」などの小説やエッセーの執筆も手掛けている。

◆映画「よだかの片想い」 9月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開

(2022年9月10日掲載)

インタビュー バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ