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急加速、感じるG「足すくんだ」◆オスプレイに乗ってみた【news深掘り】

2022年08月11日08時30分

 離島防衛を想定し、速やかに部隊を運ぶ手段として配備が進む陸上自衛隊の輸送機「V22オスプレイ」。ヘリコプターとプロペラ機の特徴を併せ持ち、プロペラが着いた主翼先端部(ナセル)の角度を変えることで、垂直離着陸や高速飛行が可能な点が最大の特徴だ。陸自は2022年7月下旬、報道陣や地元関係者の体験搭乗を初めて実施し、安全性をアピールした。実際に搭乗してみると…。(時事通信社会部 釜本寛之)

 【news深掘り】

強い熱風、耳栓でもごう音

 「プロペラのダウンフォース(地面に押し付ける力)による砂ぼこりと音がすごいので」。手渡された保護メガネと耳栓を着用してからバスを降り、駐機場に立つと、ジェットエンジンの熱を含んだ強風が顔に吹き付けた。耳栓越しにもごう音が響くが、騒音レベルは以前から同駐屯地で運用する陸自の大型輸送ヘリ「CH47」と同程度という。

 後部ハッチを倒したスロープから機内に乗り込む。天井の高さは170センチほど、横幅も同じくらいで、「思ったより狭い」というのが第一印象だ。天井は備え付けられた無線機で一段低くなった部分があり、「頭上注意」を呼び掛けられた。

 機内の電気配線やパイプ類は、むき出しのままになっている。少しでも軽量化して積載量を増やすため、あえてそうしているという。最大積載量は約9トン。大型トラックや155ミリ榴弾(りゅうだん)砲などをつり下げて運ぶことも可能だ。

◇冷房「米国製ならでは」

 座席は24席で、横向きに向かい合って座る。ちょうど地下鉄に乗車しているような格好だ。シートベルトは4点式で、両肩と腰を固定する。座面のクッション性は高く、座り心地は悪くない。座席背後のパイプから冷たい風が出ており、冷房も完備という。自衛隊機で荷室にも冷房があるものは少ないといい、陸自の部隊担当者は「米国製の機体ならではの仕様。任地に着く前に兵員を消耗させないという米軍の設計思想のたまもので、その点は見習うべきだ」と苦笑した。

いざ出発

 エンジンがうなりを上げた。プロペラの回転速度が増し、機体がゆっくりと前に進み始める。機上整備員が後方ハッチを上げてパイロットに合図すると、機体がふわりと上昇した。ナセルを上向きにした垂直離着陸モードで、浮遊感や振動はヘリコプターとほぼ変わらない。

 次第に地表が遠ざかり、高度が約200メートルに達した辺りで、ナセルが徐々に前傾、数秒で固定翼モードに変形した。途端に機体が急加速し、体が持って行かれるような重力加速度(G)がかかる。機体が傾いたような感覚もあったが、実際には水平を保ったままという。飛行はモード転換時に最も不安定になるというが、非常にスムーズで、気が付いたら転換している印象だった。

 陸自によると、ナセルは操縦席左側のレバーに付いたボタンで操作する。レバーは、垂直離着陸モードでは、上昇と下降、固定翼モードでは、加速と減速の切り替えに使用される。パイロットは「頭の切り替えは必要だが、コンピューターが補助するので難しさはない」と話した。

 オスプレイの最高速度は時速約500キロ。通常は同300~450キロ程度で巡航飛行する。千葉県の木更津駐屯地を飛び立った機体は同県富津岬を経由し、数分で東京湾を挟んだ向かい側の神奈川県の観音崎沖に出た。速度は陸自のCH47輸送ヘリのほぼ2倍で、航続距離は約3倍の1600キロ。木更津駐屯地から小笠原諸島の父島や沖縄・那覇基地まで飛べる計算だ。記者はCH47輸送ヘリにも乗ったことがあるが、モード転換後の音や揺れはオスプレイの方がはるかに静かという印象だ。

◇ハッチ開け、命綱

 景色を見ようと思ったが、左右に数カ所設置された窓の直径は40センチほどと小さい。ガラスの反射で敵に見つかることを防ぐ意味もあるといい、座ったままでは、窓に近い席でも主翼のモード変化と少しの風景が見えるだけだ。

 そのためもあってか、オスプレイ後方は、開け放した後部ハッチから、機上整備員が身を乗り出すようにして見張る。搭乗体験中、高度約300メートルで旋回した際、工業地域や海面が傾いて見え、座っていても足がすくんだ。命綱があるとはいえ、外を常にのぞき込む見張り番は、記者にはとても務まらない。

 オスプレイは、米海兵隊も後部ハッチを開けて運航しており、これが落下物事故の一因にもなっているという。昨年11月にも沖縄県の米軍普天間飛行場所属機が住宅地に水筒を落とす事故があったが、この事故も後部ハッチからの落下だった。

 このため、陸自では対策として落下の危険がある物の持ち込み自体を原則禁止にしている。記者もカメラなどは必ずストラップを付けて首から下げるよう指示され、飛ばされやすい筆記具やスマホは、上空では取り出さないように注意を受けた。

 東京湾上空の周回を終え、木更津駐屯地が近づくと、再びナセルが上向きになり、機体が減速した。電車が急停車したときのように、体が機体前方に傾く。再びヘリコプター型になった機体は、ゆっくりと高度を下げ、なめらかに着陸。離陸から約15分のフライトはあっという間だった。

相次いだ事故

 開発段階で事故が相次ぎ、危険なイメージもあるオスプレイ。陸自は「二重三重の対策が取られている」と強調する。

 陸自によると、パイロットは2人乗り込んでおり、異常があれば交代できるし、コンピューターに任せた自動操縦も可能。手動で操縦しているときでも、急な動作や無理な操作をすると、飛行制御装置が自動で安定した姿勢を保つ。過去の事故データを反映することで、事故時と同じ操縦ができなくなる仕組みもある。油圧や電気などの配線は3系統あり、1つにトラブルが起きても他の系統が補い、片方のプロペラが停止しても飛行できるという。

 トラブルに至らない軽微な異変も記録し、整備担当者らに伝える自己診断システムもあるといい、担当者は「いくつもの備えに加え、自衛隊独自の視点でも点検を徹底している」と胸を張った。

陸自のオスプレイとは

 陸自のオスプレイ 南西諸島などで有事があった場合に離島防衛を担う専門部隊「水陸機動団」(長崎県相浦駐屯地)を乗せて飛行し、部隊の速やかな展開を支援する。計17機を導入予定で、2022年7月末までに9機が木更津駐屯地に配備された。木更津駐屯地へは20年7月から5年間の暫定配備。陸自はその後、佐賀空港に移転する計画を進めているが、事故を懸念する地元の声も根強く、慎重な調整が続いている。(2022年8月11日掲載)

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