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「長距離用」スパイクで女子100メートル障害驚異の世界新記録 世界陸上制したトビ・アムサン

2022年08月02日14時00分

「スーパースパイク」と報道

 スプリント種目の驚異的な世界新記録は、長距離用スパイクを着用して生まれた―。7月に米オレゴン州ユージンで開催された陸上の世界選手権で、女子100メートル障害のトビ・アムサン(ナイジェリア)が12秒12の世界新記録を樹立した。履いていたスパイクは、5000メートルや1万メートルのトラックレース用に設計されたアディダス社製の「アディゼロ・アバンティTYO」。鮮やかな緑色の「相棒」は瞬く間に「スーパースパイク」と報じられ、注目を集めている。(時事通信ロンドン特派員 青木貴紀)

◇ ◇ ◇

 大会最終日の7月24日。アムサンは準決勝で中盤から周囲の選手を置き去りにし、0.9メートルの追い風に乗って12秒12をマーク。6年ぶりに世界記録を更新し、雄たけびを上げて喜びを爆発させた。同レースで0秒15の差をつけられた従来の世界記録(12秒20)保持者、ケンドラ・ハリソン(米国)も驚きの表情を浮かべた。

 アムサンは約2時間後の決勝で、追い風2.5メートルの参考記録ながら圧巻の12秒06。前回2019年大会は4位、昨夏の東京五輪でも4位でメダルにあと一歩届かなかった25歳は、別次元の走りで悲願の優勝を飾った。大会前時点の自己記録は12秒41。予選で軽々と12秒40の自己ベストを出すと、勢いそのままに一気に記録を伸ばしてみせた。

故障がきっかけ

 複数の英メディアによると、アムサンが今大会で着用したアディゼロ・アバンティTYOは、推進力のある走りを実現し、疲労の蓄積を軽減する構造が特徴だという。アムサンは今季序盤に故障し、「柔らかいソールのスパイクはないか」とアディダス社に相談。いくつか勧められた中から履き心地の良いものとして選び、まさにけがの功名だった。

 アムサンは「私の能力はスパイクが中心ではない」と強調。躍進の要因としてスプリント能力の向上を挙げ、4月に100メートルで11秒14(無風)の自己新を出し、「ハードルではスピードが非常に大きな要素なので、技術的な部分をクリアできれば大丈夫だと思っていた」と語った。

好記録ラッシュ

 実際、アムサン以外も好記録ラッシュに沸いた。100メートル障害準決勝では、アムサンと同組に入った福部真子(日本建設工業)が12秒82の日本新を出すなど、5人が国内記録を更新。男子400メートル元世界記録保持者のマイケル・ジョンソン氏(米国)が「これらの記録が本当だとは信じられない」と疑問を投げ掛けるほどだった。

 女子400メートル障害決勝で東京五輪金メダルのシドニー・マクラフリン(米国)は、自身が6月に出した世界記録を0秒73も縮める50秒68で制覇。男子200メートル決勝では、ノア・ライルズ(同)が世界歴代3位の19秒31で2連覇を遂げ、マイケル・ジョンソン氏の米国記録を26年ぶりに0秒01塗り替えた。

 陸上シューズをめぐっては近年、「厚底シューズ」を履いたランナーがマラソンや長距離種目で好記録を連発。世界陸連はシューズに関する規定を厳格化した。現在、800メートル未満のトラック種目は靴底の厚さが原則20ミリ以下と定められており、もちろんアムサンのスパイクも規定の範囲内だ。選手自身の努力と成長の上に、トラックやコンディション、用具の進歩、会場の雰囲気などさまざまな要因がかみ合い、驚がくのパフォーマンスが生まれた。

(2022年8月2日掲載)

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