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「足に磁石が…」個人技光るドイツの19歳ムシアラ 異色の英国育ち、W杯で日本の脅威に

 11月20日に開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で、1次リーグE組の日本が初戦で対戦するドイツは、言わずと知れたW杯4度優勝(西ドイツ時代を含む)の強豪。連覇を狙った前回2018年ロシア大会では1次リーグ敗退の憂き目を味わい、カタール大会で雪辱を期す。昨年5月に就任したフリック監督の下、新戦力も台頭して上昇基調にあり、中でも目を見張る急成長ぶりで輝きを放っているのがMFジャマル・ムシアラだ。(ドイツ・ケルン在住スポーツジャーナリスト 吉泉愛)

独特のボールタッチ

 ムシアラはドイツ王者バイエルン・ミュンヘンに所属する19歳。W杯シーズンの公式戦初戦となった7月30日のドイツ・スーパーカップでライプチヒ相手に1得点1アシスト。8月5日には、長谷部誠、鎌田大地が所属するアイントラハト・フランクフルトとのドイツ1部リーグ開幕戦で2ゴールを挙げて、6―1の大勝に貢献した。

 Eフランクフルトの長谷部の試合後のコメントが、ムシアラの勢いを物語る。「きょうのムシアラは今まで見た中で一番よかった」。続く14日のウォルフスブルク戦でもゴール。勢いが止まらない。

 他に類を見ないプレースタイルは、見る者をわくわくさせる。独特のボールタッチについて、バイエルンのナーゲルスマン監督は「足に磁石が仕掛けてあるようだ」と表現。ムシアラ本人も「見ている人を楽しませたい」と個人技で魅せることを信条とする。ドイツ代表監督のフリック氏はムシアラの「ストリートサッカー」を思わせる自由な発想から生まれる意外性のあるプレーを評価している。

 もちろん、それだけではバイエルンでもドイツ代表でも主力を担うことはできない。ドイツ1部でのデビュー当初は体を当てられてボールを失う場面も多く、シュートやパスの精度もまだ改善の余地はあるように映った。新型コロナウイルス禍で無観客試合だったスタジアムにチームメートからの怒鳴り声が響くことも多かった。ナーゲルスマン監督も「先発に定着するには守備面でも信頼を勝ち取らないといけない」と指摘していた。

成長のカギは「学ぶ能力」

 ムシアラの目ざましい成長を見ていると、真の才能とは「学ぶ能力」だと、ひしひしと感じさせられる。「周りの選手に言われることは何でも聞いて、吸収するようにしている」という心構えで課題を克服し、守備面はチームで必要とあればボランチを任されるまでに。攻撃でも相手に恐れられるプレーが増えた。あらゆる位置からゴールを狙え、得意のドリブルに加えてターンやパスでもチームの攻撃を一気に加速させる。

 所属クラブ、代表チームでムシアラを弟のようにかわいがっている様子のトーマス・ミュラーは「バイエルンに加入した当初からクローゼ(当時アカデミー監督)と精力的に居残り練習をしている姿を見てきた。絶対にあきらめないし、今も変わらず練習熱心でまだまだ若い」と、今後のさらなる飛躍を確信しているようだ。

チェルシーの育成部門育ち

 ドイツのシュツットガルト出身。ナイジェリア系英国人の父と、ドイツ人の母の間に生まれ、幼少期を英国で過ごし、8歳から16歳まではイングランド・プレミアリーグの強豪チェルシーの育成部門に身を置いた。

 ドイツにとっては、自国の育成システムで育ってこなかった異色のタイプの選手と言える。ムシアラは以前、「イングランドではリーグ戦ではなく、いろいろなチームと多くの練習試合をしていた。勝ち負けへの重圧のない中、サッカーを楽しみながら成長できたと思う」と語ったことがある。この点は、「ストリートサッカー風」な選手の登場を待望するドイツのサッカー界が選手の育成について考えさせられるところでもあるだろう。

 U15からU21まではイングランド代表でプレーしていたが、18歳の誕生日前にドイツ代表を選択した。「ドイツかイングランドかを選ぶのは本当に難しい選択だった。ドイツは生まれ故郷でサッカーに出会った場所だが、イングランドで育ち、大切な友達もたくさんいる」。既にバイエルンでプレーしていたこともあったが、何よりドイツ・サッカー連盟、前代表監督のレーウ氏の熱烈なオファーが実った。

W杯は「誰もが夢見る大会」

 ニックネームは「バンビ」。たくましさを増す逸材に、そのかわいらしい愛称が似合わなくなる日も近いだろう。W杯へ向けても「誰もが夢見る大会。クラブで良い結果を重ねて、その勢いを大会に持ち込みたい」と意気込む。まだティーンエージャー。調子の波もないとは言い切れないが、ドイツと当たる森保ジャパンにとっては厄介な存在になりそうだ。

 ひときわ謙虚で、ピッチ外では温和な雰囲気の青年は「憧れはメッシ、ネイマール、ロナウジーニョ」と話す。次世代の担い手としてサッカーの魅力を示してくれそうだ。

(2022年8月25日掲載)

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