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知事交代で動きだす? 和歌山政界のパズル【政界Web】

2022年08月19日

 4期目の現職・仁坂吉伸氏(71)が6月の県議会で不出馬の意向を示した和歌山県知事選(11月10日告示、27日投開票)の行方がにわかに注目されている。和歌山県は衆院和歌山3区選出の自民党の二階俊博元幹事長(83)が大きな影響力を持つ「二階王国」とも呼ばれる。知事選には、衆院1区で圧倒的な強さを誇ってきた国民民主党出身の岸本周平氏(66)がいち早く出馬を表明。参院から衆院へのくら替えを模索している自民党の世耕弘成参院幹事長(59)の動向も注目されている。(時事通信政治部 大塚淳子)

自民に推薦依頼

 「直接県民の役に立つ仕事がしたい思いが強くなった。悩みながらの決断だ」。岸本氏は5月の記者会見で、知事選出馬に至った心情をこう語った。関係者によると、岸本氏は前回知事選でも出馬を模索しており、県政への関心は持ち続けていたという。

 岸本氏は2009年の衆院選で、民主党旋風の勢いも受け、自民現職に大差を付けて初当選。以来5期連続で当選し、21年の衆院選では自民・門博文氏の復活当選を許さなかった。つじ立ちを日課とし、地元では野党議員ながら自民支持層にも幅広く浸透。与野党を超えて支持される様子は「岸本党」とも言われる。

 そんな岸本氏は、離党して無所属となる一方で、自民党に推薦依頼を出した。会見では「広い選挙区だ。県民党でないと選挙にならない」と説明した。共産党系を除く与野党から幅広く推薦を受けていた仁坂氏のように、与野党相乗りで選挙戦を優位に進めたいとの狙いがある。

揺れる自民党

 これに対し、自民党は県連の候補者選考会を断続的に開き、知事選への対応を協議しているが、方針は固まっていない。県連内では、「野党候補として戦ってきた人物を支援できない」という主戦論と、岸本氏を推そうとする動きの両方があるためだ。

 5期目を目指すとの見方も強かった仁坂氏が不出馬を決めたことが混乱の一因だ。仁坂氏は経済産業省の元官僚で、ブルネイ大使などを務めた。06年、談合事件で木村良樹知事が辞職したことを受け、二階氏が仁坂氏の擁立を主導した。汚職事件のあった和歌山県政では、仁坂氏の実直さと実務能力が評価され、4期連続で対立候補に圧勝した。

 ただ、盤石に見えた仁坂氏の足元も徐々に揺らいできた。今年4月、仁坂氏の肝煎りだったカジノを含む統合型リゾート(IR)を国に認定申請する議案が県議会で否決された。自民会派も一体となって誘致を目指してきたものの、採決では反対票を投じる自民県議が相次いだ。資金計画の不確実性が懸念されたほか、知事選をにらんだ「仁坂下ろし」との見方もあった。

 仁坂氏は昨年、安倍内閣で内閣官房参与などを務めた本田悦朗氏を副知事に起用する方向で調整していた。しかし、県議会の反対で人事案の提出を断念した。ある自民関係者は「仁坂氏は本田氏を自分の後継者にしようと考えていたのだろう。根回し不足で周囲の怒りを買った」と指摘する。もともと仁坂氏の多選には賛否があり、自民県連の一部が仁坂氏不支持に傾き、代わりに岸本氏を担ぐ動きにつながった可能性がある。

候補者選びは難航

 岸本氏の知事選出馬で、衆院1区では自民党にとっての強敵がいなくなり、議席奪還の期待が高まる。岸本氏を推しているとされるある自民県議は「知事選まで時間がない。今から候補者を立てるのは難しい」と指摘。県連に対し「大人の対応をすべきだ」といら立ちを募らせる。

 一方で、自民党は独自候補を立てるべきだとの意見も根強い。自民関係者は「大半の県議は何度も戦ってきた岸本氏の推薦はありえないという立場だ。選挙の時だけ無所属になればいいという話ではない」と憤る。地元では知名度が高いものの、全県的には広がりを欠くとの見方もある。

 自民県連内の一部で呼び声が上がっているのが衆院2区選出の石田真敏元総務相(70)だ。海南市長を2期務め、閣僚経験もある。ある自民県議は「石田氏を担げば自民はまとまる。最後のカードだ」と語る。

 ただ、本人は7月17日の候補者選考会後、記者団から自身が出馬する考えがあるか問われ、「あまり前向きではない。ただ、保守の自民党に亀裂が入らないようにしないといけない」と複雑な心境を吐露した。

 県幹部は自民県連の状況について、「まとめ役が誰もいない。(県連会長の)二階氏が主導すれば誰も反対できないが、何も言わない」と指摘する。

二階、世耕氏の動向注目

 知事選は国政にも影響しそうだ。岸本氏が知事選出馬に伴って議員を辞職するか自動失職すると、和歌山1区では補選が実施される。昨年の衆院選をめぐる「1票の格差」訴訟が続いているため、来春以降に実施される見通しだ。自民党では、昨年岸本氏と戦って落選した門氏を推す動きがある一方で、衆院へのくら替えを模索している世耕氏が出馬する可能性もささやかれる。

 さらに、「1票の格差」是正に向けた衆院小選挙区定数の「10増10減」によって、和歌山の次期衆院選の定数は3から2に減る見通しだ。候補者調整が課題となるが、「仮に石田氏が出馬すれば、選挙区1減の問題も調整が進むだろう」(自民関係者)との見方もある。

 現在83歳の二階氏の動向にも注目が集まっている。いずれ衆院3区の地盤を後継に引き継ぐのではないかとの見方もあり、現在二階氏の秘書を務めている三男の名前も取りざたされている。

 二階氏は5年にわたり党幹事長を務め、国土強靭(きょうじん)化や防災などに取り組んできた。「二階王国」とも呼ばれる強固な地盤を築いており、同じ3区を拠点とする世耕氏が簡単にくら替えに踏み切れない理由の一つになっている。

 ただ、自民関係者は「昨年の衆院選と比べ、先の参院選では二階氏の存在感は薄かった」と漏らす。知事選や10増10減が絡み、二階、世耕氏らの動向が注目だ。

(2022年8月19日掲載) 

〔写真特集〕二階俊博氏
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