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日に日に盛り上がるカタール サッカーのワールドカップ開幕を待つ舞台は今

スタジアムに冷却装置

 サッカーの4年に1度の祭典、ワールドカップ(W杯)が11月20日に開幕するカタールでは、日に日に盛り上がりが高まっている。6月13~14日には同国アルラヤンのアハマドビンアリ競技場で大陸間プレーオフ(PO)が行われ、熱戦の末に出場32チームが出そろった。開幕を待つ現地の様子を届ける。(時事通信運動部 野澤健介)

◇ ◇ ◇

 6月のドーハは暑かった。早朝、ハマド国際空港から一歩出たとたん、厳しい日差しと熱風の歓迎を受けた。昼間の外の気温は40度超え。これから本当にサッカーの試合が行われるのかと思いながら、アハマドビンアリ競技場へ向かった。

 今回のW杯は全8会場がドーハ近郊に集まっているため、「史上最もコンパクトな大会」などと言われる。アルラヤン地区にあるアハマドビンアリ競技場は、ドーハの中心部から地下鉄を使えば、スタジアムまで1時間前後で到着できる。しかもカタールの地下鉄は乗車区間にかかわらず、通常の座席なら2リヤル(約75円)と驚きの安さだ。ただ、最寄り駅からスタジアムまで約20分間、サウナのような状態の中を歩かねばならないのはあまりに危険。幸い、今回はカタール大会組織委員会が用意した車で他国メディアとともに移動することができた。

 試合開始は夜の9時。おそらく外は暑いままだが、冷却装置が完備しているスタジアムの中はそれほど暑くない。記者席の座席の後ろにも、壁に設けられた小さな穴から冷風が出ていた。

 6月13日のペルー―オーストラリアの一戦では、ペルーのサポーターが大挙して訪れ、バックスタンドの下側の席を真っ赤に染めていた。同国メディアのカメラマンは「ほとんど欧州在住の富裕層じゃないかな」と話していた。試合は互いに譲らない展開で、延長を含めた120分間でも勝負が決まらず。終盤、豪州の選手は次々に足がつってその場に倒れ込んでいた。運命のPK戦では、直前に控えGKレッドメインを投入した豪州に軍配が上がった。ペルーの選手たちはその場に崩れ落ち、豪州イレブンはゴール裏に小さく陣取ったサポーターと喜びを分かち合った。

 翌14日の試合では、コスタリカがニュージーランドに1―0で競り勝ち、最後の切符をつかんだ。堅守が売りのチームらしく、開始早々に奪った1点をGKナバスを中心に守り切った。日本が1次リーグE組の第2戦でぶつかる相手がようやく決まった。

 コスタリカは、2014年ブラジル大会でイタリア、イングランド、ウルグアイといずれもW杯優勝国と同組になりながら、下馬評を覆して堂々の首位通過を果たしたことがある。日本が本大会でドイツ、スペインがいる1次リーグE組を突破して決勝トーナメントに進むにはコスタリカ戦で勝利が求められるのと同様、コスタリカにとっても日本戦の勝ち点3は必須だろう。試合後の記者会見で、スアレス監督に第2戦の重要性についてぶつけてみたが、「1次リーグはどの試合も難しい、複雑な試合になるだろう」とかわされた。過去にエクアドル、ホンジュラスを率いてW杯に出場したコロンビア出身の監督は「W杯で主役になるには、まずグループリーグで主役にならないといけない。それにはよくしないといけないことがたくさん、あまりにたくさんある」と足元をみつめた。

 日本―コスタリカが行われるのは11月27日、同じアハマドビンアリ競技場で。好勝負を期待したい。

治安の良さはスタジアムも

 カタールは治安が良く、ドーハの中心部であれば夜でも旅行者が1人で外を歩いているのを見るのは珍しくない。カタール当局が治安対策にかなり力を入れているようだ。実際、大陸間POの試合後の取材を終え、日付が変わってから宿泊ホテルに戻ったときも、危険な感じは一切なかった。タクシーの呼び込みが少しうっとうしいだけだ。ちなみにドーハ滞在中、タクシーを利用するときは必ず配車アプリを使い、あらかじめおおよその料金を把握した上で乗っていた。流しのタクシーにのると、ぼったくりに遭うのが心配だったからだ。

 カタール大会ではスタジアムの安全管理も徹底されている。司令塔役を担う「アスパイア・コマンド・センター」では、全8会場の状況をリアルタイムでチェックしている。ずらりと並んだ七つの大画面では、各会場の気温のほか、人の流れなどが常に確認できる。8会場に計15000個のカメラが設置されており、センターで操作すれば各カメラをズームアップすることができる。安全上の問題が起きた場合はすぐにアラームが鳴る。大会期間中は24時間、休むことなく監視。現場の状況を確認し、同時に他会場にも即座に情報が共有され、アクシデントが起きる前に防げるようにすることを目指している。

 センターは昨年11月から開業し、同11、12月にW杯のテスト大会を兼ねて行われたアラブ・カップでも試験的に運用された。エグゼクティブ・ディレクターのニヤス・アブドルラヒマン氏は「これはスタジアム・オペレーションの未来だ。イノベーションによって、八つの会場はこれまでにないほど技術を搭載したものになった」と自信を示す。

 過去のW杯では、試合で興奮し暴徒化した「フーリガン」が衝突することが珍しくなかった。トラブルを事前に予防できれば、ファンも安心して観戦できるだろう。

レジェンドのサルマン氏「開催できるのは名誉」

 出場32チームがでそろった翌日の6月15日、カタールサッカー界のレジェンドが各国報道陣の取材に応じた。ハリド・サルマン氏(60)は1981年にオーストラリアで行われた世界ユース選手権(現在のU20W杯)の準々決勝ブラジル戦でハットトリックを決めるなど3―2の勝利に貢献し、準優勝に導いた。84年ロサンゼルス五輪では、優勝したフランス相手に1次リーグで2得点をマーク。90年代後半までプレーした。

 中東初開催となるカタール大会。サルマン氏は「W杯を開催することはどの国も望むことだ。ホストできるのは名誉。これからの世代にとって、大きな遺産となるだろう」と意義を強調した。

 初出場となるカタールは1次リーグでエクアドル、セネガル、オランダと同じA組。実力的にはオランダの1強と見られている。サルマン氏は「とても難しいグループにいる。もちろんグループで1位になってほしいが、そうはいかないだろう」と現実的な見方。大会初日、エクアドルとの初戦で勢いに乗れば2位通過の可能性は見えてくるだろう。

 日本代表についても語った。日本は68年メキシコ五輪で銅メダルを獲得したものの、その後は70年~80年代にかけて低迷した「冬の時代」を迎える。サルマン氏は当時を振り返り、「技術レベルは今ほど高くなかった。記憶に残っていることは、当時、他のチームは大会で日本と同組になればいいなと思っていた。レベルが低いからね」と正直に打ち明けた。今回で7大会連続出場となるまで成長した日本を「日本代表がいい例だろう。ステップを踏んで発展を遂げた。今ではアジアでベストのチームだ」とたたえた。

(2022年7月28日掲載)

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