金澤美冬・おじさん専門ライフキャリアコンサルタント
今回は定年退職後の居場所について取り上げてみたいと思います。先日、私が運営するおじさんLCC(ライフキャリアコミュニティ)発信部のユーチューブライブで「定年退職後の居場所」というテーマで配信した際に、普段70~100回再生のところ、一気に1000回以上再生され、定年退職後の居場所については多くの方が気になっていることだと感じたからです。ユーチューブの分析アプリで視聴者層を確認してみたところ、55~65歳の男性が視聴しているということが分かり、定年前後の男性がご自身のこれからのヒントにしたいと情報を求めているのだと受け止めました。
1日の大半を職場で過ごしていたサラリーマンの方にとってその大半の時間をどうするか、居場所はどうなるのか? ということは重要なテーマです。実際に現在サラリーマンとして働いている方々に現在の居場所について聞いてみたところ、職場が平均9時間、電車/バスなどが平均3時間ということでした。そうなると1日24時間のうち半分の12時間をどこで過ごすか? ということになり、人生100年時代だとするとあと40年の居場所探しということにもなります。特に私のようにもともと友達が少なく、社交性もそんなになく、趣味も1人でできるものばかり(読書、一人カラオケ)という性質の人が会社を退職した場合、一気に居場所がなくなり、残るは家だけになります。
そうなるとほぼ24時間家にいることになり、妻を悩ますことで有名な3大台詞「俺の飯は?」「お前、どこ行くんだ?」「俺も一緒について行く」がさく裂し、妻は、サラリーマン時代には作らなくて済んでいた昼食を毎日作らなくてはならず、気兼ねなくしていた外出ができなくなり、ぬれ落ち葉がまとわりつき…とストレスが蓄積され、いずれ家庭内戦争が勃発(もしくは冷戦状態)してしまいます。
では、家庭以外で、現実的に定年後の居場所になりそうなところは? と聞いたところ、ハローワーク相談窓口、ショッピングセンターのソファ、図書館のソファ、近所の緑道か公園のベンチ、ネット空間―と「定年後はずっと座っていることになりそうだ」という声が上がりました。ずっと座っているのはお尻が心配なので、お尻を守るためにも他の居場所も探していかねばなりません。そこで定年後の居場所について五つのカテゴリーに分けてみました。できたら一つのカテゴリーにつき一カ所は居場所を確保できるといいので、想像しながら読んでみてください。
1、1人でいて心が落ち着く場所
家以外でも自分が居ていい場所、安心して居られる場所、ちょっとした気晴らしになる場所です。図書館、映画館(最近、『トップガン マーヴェリック』が面白い! と50代の方の間で話題で、私も4D版を見に行くつもりです)、温泉、公園、緑道、森や川や山などの自然、お寺、釣り船等が挙げられます。ただ、公園などで注意しなくてはいけないのは、「子どもをニコニコ見守る優しい大人」のつもりが「子どもをニヤニヤ見てくる怪しいおじさん」と見られてしまうこともあるということです。通報されるのを避けるためにも本を持参するなどの工夫が必要かもしれません。
2、誰かと居て心が弾む場所
童心に帰り、ワクワクできる時間が大人になってからもあると心が潤います。知己との会合(同窓会、同期会)、子どもや孫との遊び(ザリガニ釣り、昆虫採集など私も大好きです)、スポーツ観戦、趣味の集まり、コワーキングスペースなどいろいろあると思います。
先日、東京地下鉄丸ノ内線の駅のホームで70代とおぼしき男性3人組が飲み会の帰りらしく上機嫌で歩いているところを目撃しました。3人のうち2人は肩を組みゲラゲラ笑い楽しそう。先頭を行く1人もご自身の頭を“ピチっピチっ♪”と楽しそうに何度もたたき喜びを表現していました。多分中身のある話はしてないと思うのですが(失礼!)、そういう余白というか遊び部分が人生には大事で、そしてそういうことを話せる仲間がいると居酒屋でも駅のホームでも楽しい居場所になると感じました。
3、脳が活性化する場所
学び、成長し続けるための場所です。会社を辞めると一気に老ける、と言われるのはこの、学びや成長が無くなってきて張り合いがなくなるからだと思います。逆に私の周りの定年した方でイキイキしているのは「学びは定年後の最高のぜいたくだ」と日々学び続けている方です。資格・語学・音楽・歴史・パソコンの講座や文化センターなどの教室に通ったり、書店(新刊書の並びで今の時代を知れます)巡りや専門職(ライター、キャリアコンサルタント、中小企業支援コンサル、顧問等)コミュニティーに参加したり。学校の勉強は好きじゃなかった方でも大人になった今だからこそ純粋に学び直しをエンジョイできるようです。
4、健康のための場所
最近膝をけがした方が、「いつも通り動けなくなったことにより筋力が落ちて、けがをした右足が3センチほど細くなってしまってぞっとする。これからの健康のためにもジムという場所は重要だ」とおっしゃっていました。やはり体が資本ですので、スポーツジム、ランニングサークル(自分で立ち上げた方もいます)、ゴルフ(定年後は「楽しいゴルフしかしない」宣言する方多数)、テニス、合気道など、体を動かすための居場所を持つことは健康寿命を延ばすためにも必要です。
5、誰かから必要とされる場所
誰かから求められたり、感謝されたり、という場所です。サラリーマンとして働いてきた方は、働いている時は部下から教えを乞われ、家族からも大黒柱として頼られていたのが、退職後は誰からも頼られなくなってしまい自分に利用価値が無くなったからと結論付け、自己肯定感が下がってしまうことも少なくありません。でも価値が無くなったということでは決してなくて、価値として認めてくれるところに自ら足を踏み入れていないというだけです。
アルバイト、プチ起業、ボランティア、さらには地域コミュニティーへの参加や何かの幹事を自分が買って出るという手もあります。また、最近聞いた話では、シルバー人材センターにベンツで乗りつけるような方もいて、「お金はあるけれど、社会に必要とされたい、人とつながりたい」ということをおっしゃって通っているそうで自分が必要とされる場所があるというのは大事です。
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五つに分けてお伝えしてきましたが、重要なことは、居場所が、新しい世界への入り口にもなっているということです。どういうことかというと、自分が知らない世界の情報を誰かが自分のために持ってきてくれるということです。いやいや、新聞読んでるよ、ネットニュースだって見てるし本も読んでるよと思われるかもしれませんが、ここで言いたいのは自分にカスタマイズされた情報が入ってくる、ということです。「あなたが住んでる所の近くで面白そうなボランティアあるよ」「あなたの経験が生かせそうなアルバイトがあるらしいよ」など自分にとって有益な情報がもらえます。自分では考えもしなかったけれど、これからの可能性を広げてくれるキッカケをもらえることもあります。
だからまずはじめの一歩として、1人で完結する趣味ばかりだったとしても、例えば読書が趣味の人は読書会に参加してみるとか、歴史好きなら歴史を歩く会を見つけるところから始めてみるのも有りです。リアルかオンラインかはこだわらずどちらでも大丈夫です。どちらの場合でもフィーリングが合いそうなら継続して参加し、合わなそうだったらまた違うところに行ってみる、という気軽さで参加するのがいいと思います。
居場所を探すことは、結構面倒くさいですが(私のように人見知りの人間には特に)、これから定年を迎える世代は“人生100年時代の定年後のロールモデル”が無く、自分たちで新しい定年後の居場所や生き方を開拓していかなくてはなりません。DXとかAIの時代に反逆するような、泥臭いアナログな方法になってしまいますが、自分の足で稼いで、自分に合う旬な情報を取ることが、定年後の40年を決定づけるので、是非一歩二歩と踏み出してみてほしいです。
(2022年7月16日掲載)