会員限定記事会員限定記事

スマホ2週間不調に? 25年「宇宙天気」大荒れも、急がれる対策【けいざい百景】

2022年07月27日12時00分

 太陽の表面で突発的に起きる爆発現象(フレア)など主に太陽活動の動きを観測・予測してリスクに備える「宇宙天気予報」が注目されている。太陽フレアにより放出される電磁波などの影響で、スマートフォンなどが2週間にわたり断続的に使えなくなるとの最悪シナリオが示され、関心が高まった。2025年ごろには太陽活動が活発化すると予想されている。社会や産業の高度化で新たなリスクが生じる「文明進化型の災害」への対応の重要性が叫ばれている。(時事通信経済部 佐藤快哉)

太陽フレアが影響

 総務省は6月、有識者会議による宇宙天気予報の高度化に関する検討報告書を公表した。太陽フレアなど宇宙天気が社会システムにもたらす影響を指摘し、観測・分析を強化するとともに、人材育成や国際連携の強化などを求める内容だ。最悪シナリオも同会議で検討され、報告書に盛り込まれた。

 「宇宙天気」は聞き慣れない言葉だが、報告書では「電離圏や磁気圏、太陽活動の諸現象」と定義している。主に太陽活動により地球で起きるさまざまな現象を示しており、雨が降ったり風が吹いたりはしないものの、目に見えない形で影響を及ぼしている。

 太陽は普段からX線などの強力な電磁波などを放出している。太陽活動には周期があり、次は25年ごろに活発化し、フレアが起きると見込まれている。

 普段は地球が持つ磁場や大気が電磁波などから地球を守っているが、大規模なフレアが起きると、高エネルギー粒子が地球周辺に届いたり、地球の大気上層にある電離圏に影響を及ぼしたりする。その結果、人工衛星の異常動作や通信障害が出る恐れがある。海外の研究では、全世界にもたらす潜在的な損失額は650億ドル(約8.8兆円)に上るとの予測もある。

社会・経済が機能不全に

 報告書は、宇宙天気現象がもたらす被害の全体像を明確にし、社会に注意喚起するため、100年に1回以下の頻度で起きる極端な宇宙天気現象を想定した最悪シナリオを提示している。

 携帯電話については、2週間にわたり、昼間の時間帯に最大で数時間程度のサービス停止が、全国の一部エリアで断続的に発生。通信回線の混雑などが起き、119番などの緊急通報もつながりにくい事態に陥るとしている。防災行政無線、消防無線、タクシー無線などの通信システムにも支障が生じ、公共サービスの維持が困難になる。

 全地球測位システム(GPS)は精度の大幅な劣化や途絶が断続的に起きる。自動運転車やドローンの位置精度が低下し、衝突事故が発生する可能性がある。GPSは農作業や建設、物流など幅広く使われており、こうした業界でも大規模な作業の遅れが起きる。航空機は、世界的に運航の見合わせ・減便が多発する。

 電力分野でも、磁気の乱れにより保護装置が誤作動して広域停電が発生したり、一部の変圧器に損傷が出たりして、社会活動に広く影響が出ると想定した。

 これらは極端な現象を想定した最悪シナリオだが、決して絵空事ではない。カナダでは1989年3月、磁気嵐により送電システムに障害が起き、9時間にわたる停電で600万人が影響を受けた。今年2月には、米実業家イーロン・マスク氏が率いる宇宙企業スペースXが打ち上げた衛星49機のうち40機が地磁気嵐の影響で大気圏に再突入し、失われた。日本の衛星でも宇宙天気が原因とみられる損失や異常動作が報告されている。

「分かりやすさ」カギ

 モノのインターネット(IoT)機器の急速な普及などもあり、通信は産業や生活のあらゆる場面で使われるようになっている。そうした変化に比例して宇宙天気によるリスクも高まっているが、「産業界等の認知度は低く、社会インフラに対する影響は軽視されてきた」(報告書)。

 課題の一つが「分かりにくさ」だ。総務省が所管する国立研究開発法人の情報通信研究機構(NICT)は88年から週7日、電波の伝わり方に関する予警報として宇宙天気予報を発信している。ただ、主に物理現象の規模に着目した内容である上、専門用語を用いた表現となっており、影響度などを直感的に理解することは難しい。

 報告書は、通信・放送、測位など5分野について、宇宙天気現象による社会的な影響を踏まえた予報・警報を設定。NICTに対し、新基準を用いた宇宙天気予報の検討を求めた。

 人材不足も指摘されている。地学関係学科の学生数は、理科離れの影響もあってこの10年で2割も減少した。専門知識を身に付けても就職では生かしにくい。報告書は小中高生から宇宙天気への関心を高めるとともに、企業でもキャリアパスの確立を進めるべきだと指摘した。

 カギを握りそうなのが、報告書が打ち出した「宇宙天気予報士」制度の創設だ。有識者会議のメンバーで、NHKなどで気象予報士として活躍する斉田季実治氏が提案し、盛り込まれた。宇宙天気とその影響について分かりやすく解説することで、一般の人の関心を高める役割を果たしてもらう狙いだ。企業が予報士の資格を持つ人を採用するようになれば、人材育成につながるとも期待される。

 宇宙天気予報士は民間資格として創設が検討される。斉田氏は報告書の取りまとめに当たり「重要なのはこれから。さらに輪を広げることが大事だ」とコメントしている。

 「太陽活動が活発化している影響で、午後から携帯電話などが利用しづらくなる恐れがあります。外出する際は注意が必要です」。こんな予報が出るのかどうかは分からないが、数年先には天気予報と同じように、宇宙天気の解説が聞けるようになるのかもしれない。

(2022年7月27日掲載)

けいざい百景 バックナンバー

話題のニュース

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ