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「非常に厳しかった」 救命医が語った銃撃後の安倍晋三元首相【news深掘り】

2022年07月26日10時00分

 安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、救急搬送された安倍氏の治療に当たった奈良県立医科大付属病院(同県橿原市)の救命センター長、福島英賢教授が時事通信の取材に応じた。2~3人分の血液量に相当する13リットルの輸血をしたことや、想定より重い状態で、最終的にスタッフ41人で治療に当たったことなどを明かし、「非常に厳しかった」と振り返った。(時事通信京都総局 富山愛茉美)

 【news深掘り】

 ―いつ事件を知ったか。

 (7月8日)午前11時58分ごろにスタッフ全員に集合を呼び掛けた。事件そのものはテレビのニュースで。テレビで見たのは、多分、午前11時55分くらい。

 ―ニュースを見た3分後に集合を掛けた。

 重症外傷で搬送されてくる可能性があると思い、集合を呼び掛けた。準備を始めたのが午前11時58分ごろで、ほぼ同時に、こちらに搬送したい旨の連絡が無線で入った。

 ―奈良県立医科大付属病院が搬送先に決まった理由は

 搬送先を決めたのはドクターヘリのスタッフ。治療にかなりの人数が必要になると予想して決めたと思う。

 ―担当医が先生になった理由は。

 ドクターヘリで運ばれてくるとなると、救命センターが窓口になる。私が(同センターの)一番上の責任者なので、担当する形になった。

 ―担当に決まったときはどのように思ったか。

 準備をするのにエネルギーを注いだので、どう思ったかは記憶にない。どう思ったかというか、やることは決まっていた。それにエネルギーを注いだ。

 ―ドクターヘリの要請の時間と現場に到着、離陸、病院に到着した時間について。

 要請が午前11時36分、着陸が午前11時53分。午後0時13分に離陸し、午後0時20分に病院到着。

 ―ドクターヘリ内ではどのような処置が取られたか。

 気道確保、点滴。

 ―一般的に、外傷による心肺停止の生存率はどれくらいか。

 外傷の場合というのはなかなか難しいので、極めて低い。

 ―搬送されてきた安倍氏を初めて診た時の印象は。

 印象は持たない。やることは決まっていたので、その時どうというのは考えない。

 ―どういう思いで治療に当たったのか。

 今回に限り何か特別な思いがあったかというとそうではない。いつも通りの処置をやっている。交通事故でけがをされた方々と同じ。

 ―医療態勢について。

 医療スタッフは41人。医者、看護師、臨床工学士、薬剤部の応援もあったし、レントゲンの技師もいた。

 ―記者会見での説明では、最初は10人だった。思ったより重かったため増やしたのか。

 そう。

 ―開胸手術の前はどのような処置をしたのか。

 ドクターヘリ内で気道確保、点滴をしていた。次にやることは止血処置と分かっていたので、(病院にヘリが)着いてすぐ手術を始めている。午後0時20分に到着して、エレベーターで降りてきてすぐにやった。

 ―開胸手術は麻酔をしてから行う。

 通常、心停止をしている人には麻酔はしていない。

 ―人の平均の体温が35~36度だとすると、それよりも低かったか。

 はい。

 ―記者会見で「大量に出血し凝固する力を失っていた」と説明があった。出血がどれくらいの量だと凝固する力を失うのか。

 データはない。凝固障害がどうやって起きるかというと、大量に出血すると、血を止める成分が大量に消費されてしまう。大量に消費されてしまうと、次から次へと血を止める作業が追いつかなくなってしまう。また、体温が下がると生理学的に血を止める力が弱くなる。それから、出血すると身体はどんどん酸性に傾いていくので、その状況も血を止める力を無くしてしまう。

 ―「ある程度大きな血管はコントロールできた」との説明もあった。コントロールできた大きな血管というのは大動脈か。

 大動脈などです。

 ―一般論で。出血量と出血の時間、生存確率は。

 そういったデータはないので答えられない。体重が60キロだと、血液はだいたい5リットル。3分の1から半分くらい出血すると、かなり重篤な状態になる。

 ―輸血にはどれくらいの量だったのか。

 正確な数値は言えないが、単純計算で13リットルになる。

 ー13リットルだと2~3人分の血液量。

 2~3人くらい。

 ―輸血はどこで保存されてあったのか。

 基本的には院内で保存されてあったもの。それで足りなければ県赤十字血液センターに追加の依頼をする。

 ―今回は血液センターにも依頼された。

 はい、そうですね。

 ―記者会見時には弾丸が確認できなかったと。その後見つかったか。

 見つかっていない。(捜査での)解剖でどうなったかは分からない。

 ―会見時、首の2カ所の傷口は「非常に小さい」と説明していたが、サイズは。

 正確に測ったわけではないので分からないが、1センチくらいだったか。分からないですが。

 ―これまで診てきた症例の中でも重い方だったか。

 はい。一般論として、心停止で来られた方が助かっても、後遺障害が残っている方も多い。心臓が動きだす可能性も厳しいし、動きだしたとして、後遺症がないという方は少ない。そういう意味でもかなり厳しかった。

 ―手術は4時間を超えた。死亡を確認をされた時の気持ちは。

 …本当に残念です。(2022年7月26日掲載)

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