安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、救急搬送された安倍氏の治療に当たった奈良県立医科大付属病院(同県橿原市)の救命センター長、福島英賢教授が時事通信の取材に応じた。2~3人分の血液量に相当する13リットルの輸血をしたことや、想定より重い状態で、最終的にスタッフ41人で治療に当たったことなどを明かし、「非常に厳しかった」と振り返った。(時事通信京都総局 富山愛茉美)
―いつ事件を知ったか。
(7月8日)午前11時58分ごろにスタッフ全員に集合を呼び掛けた。事件そのものはテレビのニュースで。テレビで見たのは、多分、午前11時55分くらい。
―ニュースを見た3分後に集合を掛けた。
重症外傷で搬送されてくる可能性があると思い、集合を呼び掛けた。準備を始めたのが午前11時58分ごろで、ほぼ同時に、こちらに搬送したい旨の連絡が無線で入った。
―奈良県立医科大付属病院が搬送先に決まった理由は。
搬送先を決めたのはドクターヘリのスタッフ。治療にかなりの人数が必要になると予想して決めたと思う。
―担当医が先生になった理由は。
ドクターヘリで運ばれてくるとなると、救命センターが窓口になる。私が(同センターの)一番上の責任者なので、担当する形になった。
―担当に決まったときはどのように思ったか。
準備をするのにエネルギーを注いだので、どう思ったかは記憶にない。どう思ったかというか、やることは決まっていた。それにエネルギーを注いだ。
―ドクターヘリの要請の時間と現場に到着、離陸、病院に到着した時間について。
要請が午前11時36分、着陸が午前11時53分。午後0時13分に離陸し、午後0時20分に病院到着。
―ドクターヘリ内ではどのような処置が取られたか。
気道確保、点滴。
―一般的に、外傷による心肺停止の生存率はどれくらいか。
外傷の場合というのはなかなか難しいので、極めて低い。
―搬送されてきた安倍氏を初めて診た時の印象は。
印象は持たない。やることは決まっていたので、その時どうというのは考えない。
―どういう思いで治療に当たったのか。
今回に限り何か特別な思いがあったかというとそうではない。いつも通りの処置をやっている。交通事故でけがをされた方々と同じ。
―医療態勢について。
医療スタッフは41人。医者、看護師、臨床工学士、薬剤部の応援もあったし、レントゲンの技師もいた。
―記者会見での説明では、最初は10人だった。思ったより重かったため増やしたのか。
そう。
―開胸手術の前はどのような処置をしたのか。
ドクターヘリ内で気道確保、点滴をしていた。次にやることは止血処置と分かっていたので、(病院にヘリが)着いてすぐ手術を始めている。午後0時20分に到着して、エレベーターで降りてきてすぐにやった。
―開胸手術は麻酔をしてから行う。
通常、心停止をしている人には麻酔はしていない。
―人の平均の体温が35~36度だとすると、それよりも低かったか。
はい。
―記者会見で「大量に出血し凝固する力を失っていた」と説明があった。出血がどれくらいの量だと凝固する力を失うのか。
データはない。凝固障害がどうやって起きるかというと、大量に出血すると、血を止める成分が大量に消費されてしまう。大量に消費されてしまうと、次から次へと血を止める作業が追いつかなくなってしまう。また、体温が下がると生理学的に血を止める力が弱くなる。それから、出血すると身体はどんどん酸性に傾いていくので、その状況も血を止める力を無くしてしまう。
―「ある程度大きな血管はコントロールできた」との説明もあった。コントロールできた大きな血管というのは大動脈か。
大動脈などです。
―一般論で。出血量と出血の時間、生存確率は。
そういったデータはないので答えられない。体重が60キロだと、血液はだいたい5リットル。3分の1から半分くらい出血すると、かなり重篤な状態になる。
―輸血にはどれくらいの量だったのか。
正確な数値は言えないが、単純計算で13リットルになる。
ー13リットルだと2~3人分の血液量。
2~3人くらい。
―輸血はどこで保存されてあったのか。
基本的には院内で保存されてあったもの。それで足りなければ県赤十字血液センターに追加の依頼をする。
―今回は血液センターにも依頼された。
はい、そうですね。
―記者会見時には弾丸が確認できなかったと。その後見つかったか。
見つかっていない。(捜査での)解剖でどうなったかは分からない。
―会見時、首の2カ所の傷口は「非常に小さい」と説明していたが、サイズは。
正確に測ったわけではないので分からないが、1センチくらいだったか。分からないですが。
―これまで診てきた症例の中でも重い方だったか。
はい。一般論として、心停止で来られた方が助かっても、後遺障害が残っている方も多い。心臓が動きだす可能性も厳しいし、動きだしたとして、後遺症がないという方は少ない。そういう意味でもかなり厳しかった。
―手術は4時間を超えた。死亡を確認をされた時の気持ちは。
…本当に残念です。(2022年7月26日掲載)