リーグ戦を目指し、新人戦でステップ
かつてプロ野球で活躍した選手を父に持つ「2世」たちが、東京六大学野球の主役を目指してステップを踏んでいる。慶大の清原正吾内野手(2年)と前田晃宏投手(1年)、東大の渡辺向輝投手(1年)、法大の吉鶴翔瑛投手(2年)。既にリーグ戦の登板経験を持つ吉鶴を含む4人は、春季リーグ戦の直後に行われ、1、2年生に出場資格があるフレッシュトーナメント(新人戦)ではつらつとプレーした。神宮球場を沸かせる選手へと成長するか、期待と注目が高まっている。(時事通信運動部 岩尾哲大)
父と同じ「5」を背負い―清原正吾
清原は、通算525本塁打を放った清原和博さんの長男として知られている。新人戦では、東大戦で2安打2打点。早大に勝った3位決定戦でも適時打を放った。
新人戦の背番号は、和博さんが巨人やオリックスで付けた「5」を選んだ。「おやじの背番号というのもあるし、大学から野球を始めると決めた以上、必ず親孝行したいなと思った」。186センチ、90キロの堂々たる体格。その大きな背中によく映えた。観戦した和博さんからは「5番を付けてくれて、ありがとうな」と言われたという。
慶応高(神奈川)でアメリカンフットボール部に所属。中学時代はバレーボール部だった。小学生の頃に取り組んでいた野球を大学で再開した。今回の新人戦は3試合で4番一塁。慶大の堀井哲也監督は打順について「(練習試合などで)結果を出しているから」と説明した。
ブランクを埋めるべく、とにかくバットを振り込んできた。昨秋に比べ、清原は「変化球への対応が一番伸びた」と自認。打撃練習では投手に対し、集中して変化球を投げてもらった。「調子の悪い日も、自分が納得するまでバットを振り続ける。調子がいい時も、毎回素振りをしてから練習を終える」。そう意識している。
堀井監督には、来春からのリーグ戦メンバー入りを想定して育成する考えもある。ただ、本人は貪欲に今秋を目指している。「慶応義塾の部員として貢献できるのは、やっぱりフィールドに立ってプレーすることだと思う。自分の結果よりもチームの優勝に全力を尽くしたい」。歓喜の輪に加わるイメージを膨らませている。
「焦らずに」と助言受け―前田晃宏
慶大にはもう一人、大打者のジュニアがいる。慶応高から今春入学した右腕の前田。広島で通算2119安打を記録した前田智徳さんの次男だ。新人戦は2試合に登板。早大との3位決定戦では先発して4回1安打無失点で、勝利に貢献した。
大学野球界での一歩は、復活への序章でもあった。高校3年の6月、軸足となる右膝の前十字靱帯(じんたい)と半月板を痛めた。夏の神奈川大会にはテーピングをして臨んだが甲子園出場を逃し、その後手術を受けた。
大学生になって練習試合で投げ始めたのは、今年5月半ば。「けが自体は治っているが、右脚が使えずトレーニングもできていなかったので、筋肉が戻っていない。きれいに使えるようになるにはもう少し時間がかかる」と率直に話す。
父からは「『焦らずにやりなさい』としょっちゅう言われる」。智徳さんは現役時代、両足のアキレスけん手術などを乗り越え、名球会入りを果たすまでに至った。そんな父の言葉だからこそ、「焦らずに」という言葉は響く。「注目されるだろうとは思っている」と自覚。「夏にまず体をつくって、秋にメンバーにかかっていければいい」と言いつつも、「体を大事に頑張っていきたい」。先を見過ぎることはない。
最速143キロの球速は少し落ちているが、スライダー、チェンジアップ、カーブの持ち球は計算できる。徐々に段階を踏めば、やがてリーグ戦で投げる日が訪れるだろう。
打撃にも、控えめながら自信をのぞかせる。「高校でもある程度は打っていた。投手にしては打つな、と思ってもらえるぐらいがちょうどいい。打率3割を目指して頑張ります」。投手も打席に立つ東京六大学。父のように、狙いを絞って振り抜き、速く鋭い打球を飛ばすつもりだ。
以前はアンダースローも―渡辺向輝
渡辺の父は、ロッテで通算87勝の渡辺俊介さん。地をはうような下手投げで、2005年には15勝を挙げた。新人戦で慶大を相手に初登板し、3分の2回で2失点だった渡辺。「ものすごく緊張した。ちょっとでも甘い球投げたら全部打たれちゃうと思った」。高揚感も感じさせる口ぶりだった。
海城高(東京)3年の夏を迎える前、右肩を痛め、オーバースローで投げられなくなった。そこで大胆な決断をし、父のようにアンダースローで投げることを選択。「遊びでいろんな投げ方をやっていたので、割とすぐ投げられた」
俊介さんの動画は参考にしたそうだが、「親のまねをするのは悔しかった」との感情を吐露。当時のフォームを再現してもらうと、驚くほど父に似ていた。「中学生ぐらいの頃はサイドが合っている気がしていたが、絶対(アンダースローの父と)比較されるなと思って。それで上からにこだわっていた」と明かす。肩のけがが治った今は「上からだと変化球が曲がるし、慣れている」との理由でオーバースローに再び取り組み、サイドスローとの使い分けを目指している。
東大には現役で合格。高校野球を終えてからの猛勉強のたまものだった。「夏の模試は全部E判定で、絶対受からないなという感じだった。秋にかけて、だいたいBとか、たまにAが出た」。受験後間もないため、体重も戻りきっていない。まずは体づくりにテーマを置き、「先発で長いイニングを投げられる投手になりたい」と抱負を話す。
プロ目指す本格派左腕―吉鶴翔瑛
本格派左腕、吉鶴の父はロッテなどで捕手としてプレーした吉鶴憲治さんだ。今春のリーグ戦メンバーに名を連ね、マウンドも経験。新人戦を経験の場ではなく、さらなるアピールの機会にしようとしていた。
引き分けだった慶大戦で、最速149キロの直球を軸に7回3失点(自責点1)。決勝の明大戦では、終盤の2イニングを無失点に抑え、優勝に貢献した。
大きな刺激を受けている存在が、同学年で同じ木更津総合高(千葉)から法大でもチームメートになった篠木健太郎投手だ。150キロを超える力のあるストレートが魅力の篠木は今春、2年生ながらエース格の役割を担い2勝を挙げた。その活躍を目の当たりにし、「高校でも切磋琢磨(せっさたくま)してやってきたので、自分もいつかはリーグ戦の先発を任されるようになりたい」との思いが強くなった。
制球力を課題にしていたが、新人戦ではしなやかなフォームから切れのある球を投げた。父は現在、ソフトバンクのバッテリーコーチを務めている。「自分もプロで活躍できればいい」と、上のステージをはっきり意識している。
(2022年7月11日掲載)