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若者よ、投票に行こう!たかまつななの主張

2022年06月25日08時00分

株式会社「笑下村塾」代表 たかまつなな

 若者の政治参加が進まない。2019年7月の参院選の投票率は、60代が63.58%だったのに対し、10代は32.28%、20代は30.96%にとどまった。若年層の投票率は昨年10月の衆院選でも低迷しており、若者の選挙への関心をどう高めるかは政治の大きな課題だ。「政治の絵本―学校で教えてくれない選挙の話」を執筆し、NHK勤務経験もある異色の時事ユーチューバー、たかまつななさんに投票の意義を説いてもらった。

 【教えていただきました】

選挙に行かないと損をする?!

 私は全国の学校に出張授業に行き、政治をお笑いで身近に伝える「笑える!政治教育ショー」を行っています。「笑下村塾」は日本で唯一全国規模で主権者教育を行っている株式会社です。これまで6万人の子どもたちに授業を届けてきました。たった1回の授業で投票率が84%にまで上がったこともあります。そんな私が、7月10日の参議院選挙を前に、投票に行く意義を伝えます。

 「政治」とは一体何でしょうか? 政治の大きな役割はルールを決めること。そして、お金の使い道を決めることです。「医療費に回してほしい」「いや、教育費こそ必要だ」。いろんな考えの人がいる中、できるだけ不公平が生じないように調整し、ルールを作る。それが政治家の仕事です。日本が1年間で使えるお財布の中身は、100兆円です。この中で教育関係費はどのぐらいでしょうか? 何と、たったの5%なのです。 実は、これは選挙に関係があります。若者の投票率が1%減ると、1人当たり年7万8000円の損をするという試算があります。若者が投票に行かないと、その分、教育費が減り、社会保障費などが増えるからだそうです。「20代の投票率が3%下がった」と聞いて「そんなに変わらない」と思っても、1人約23万4000円も損することになります。

◇政治家はウケるためにネタ選びをする

 どうして、こうなるのでしょう。お笑い芸人が客層を見てウケるネタを選ぶのと同じように、政治家は選挙に来る人を見て、ウカるネタ(政策)を決めるからです。若者の投票率が低いということは、政治家にとって「若者はいいお客さんではない」ということです。このように高齢者の政治的影響が大きくなることを「シルバー民主主義」と言います。実際に、60歳以上の高齢者と19歳以下の若者で国に払う金額ともらう金額の差が一生の間で1人当たり1億2000万円も差があると言われています。

 若者は、選挙に行かないせいで損をしているのです。黙っていたら若者が損をするというこの現実、実は選挙に行けば変えられる可能性があります。若者が選挙に行くことで、政治家に「若い人向けの政策も用意しなきゃ」と思わせることができます。

◇ネット投票はなぜ実現しない

 「インターネット投票があれば選挙に行くのに」。よく若い人からこう言われます。ネット投票をすると、今まで当選してきた政治家が、ルールが変わることで落選してしまうかもしれません。だから、なかなか実現できないと私は考えています。だからこそ、「社会がこれだけ求めていますよ」とプレッシャーをかけることが不可欠です。そう考え、私は署名を始めました。ただ、そのルールを作るのは政治の役割です。そのような役割を果たす議員を増やさないといけません。

◇若手議員の本音

 現在も、30代の若手議員は若者政策に力を入れ、与野党で奮闘しています。超党派で連携し、若者のために政策を進めようとしています。しかし、若者政策を進める主要6政党の若手議員に取材したところ、多くの方が「党内での優先順位を上げるのが大変だ」と話していました。だからこそ、そのような議員を応援することが大切です。また、選挙に立候補できる年齢を18歳に引き下げることも欠かせないでしょう。

社会を変える成功体験をしよう

 若者が選挙に行ったり、若い人が声を上げたり、若者議員が誕生したりするのに必要なのは、社会を変える成功体験だと思います。だからこそ、私は、社会にどう参画するかを教える主権者教育が大事だと考えています。主権者教育が盛んなフランスや英国などを取材すると、学校の中に仕組みがたくさんあり、「社会を変える成功体験」を積み重ねていることに驚きました。

 フランスには「学校管理評議会」と呼ばれる議会があり、最終的な意思決定の場に生徒や保護者、地域、校長などが参加します。生徒代表も所属し、生徒に権限が与えられているのです。英国でインタビューすると、多くの子が「制服の着方を変えた」など、学校のルールを変えたことがあると答えてくれました。

 日本では、校則を多くの場合学校がつくっています。校則の改訂を生徒会ができるようにする、生徒会が自由に使えるお金の予算を増やすなど「金と権限を与える」ことで、小さな変える経験を通して、社会を変える成功体験を生み出せるのではないでしょうか。

◇権力との付き合い方を知る

 そして、その目的ももう一度考え直す必要があると思います。主権者教育のゴールとは何か英国で主権者教育の研究を長年しているデイビッド・カー氏に取材すると、「権力がどこにあるのかを知ることだ。そうすれば、若者の声をどうやって実現するのか分かる」と語りました。権力は、汚いもの、監視するものというニュアンスで捉えられることが日本では多いです。それも大事ですが、権力を知り、どうすれば社会を変えられるか知ることは確かに大事だと思います。

 社会を変える場、権力を知る場があることも特徴です。ヨーロッパには「若者議会」がたくさん存在します。EUでも、各国の若者の代表者が、各国を背負って利益を主張する取り組みをしているのです。日本でも子ども議会は存在するものの、「子どもが話すだけ」という形骸化したものが多いと感じます。

 「若者議会」では、若者の直接の利害に関わることを議論します。例えば英国では、気候変動、若者のメンタルヘルス、若者の貧困、立候補できる年齢を引き下げることーが扱われ、それが下院議員で実際に話されています。政治家と話す場があったりして、それが形だけではなく、効果がもたらされているのです。

 このような活動を支えるための団体が持続可能であることも欠かせません。日本では若者がメディアに消費され、主権者教育の団体はお金にならず撤退していくことが多いです。全国規模で主権者教育をやる団体は、笑下村塾のみになってしまいました。若者の政治参加が活発なスウェーデンでは、1年間で若者団体に税金で30億円ほど支援されています。日本の学校でも、9割超の学校で主権者教育が実施されています。にも拘わらず、選挙に半分以上の生徒が行かないということは国だけの力では足りないのです。若者の政治参加を促す団体を国が支援していくことが大切だと考えます。

ポテンシャルはある

 先日、高校生と話していて「校則を変えたいけど、推薦がもらいにくくなるのではないか」と言われました。私たちは、群馬県とタッグを組み、若者の政治参加を日本一にすることを目指し、県内すべての高校に出張授業を行おうとしています。その授業の中で社会を変える宣言をしてもらっているのですが、続々と提案が出てきます。「電車の本数が少なすぎるから署名活動をして本数を増やしたいです」「眉毛をそるのを禁止するのは、おかしいと思うから校則を変えたいです」「楽器を演奏したいが費用が高いので、補助金がほしいです」。潜在的には変えたい内容はあるのですが、それを引き出せていないのです。

 今注目されているSDGsも、社会を変える17個の目標のことであり、社会変革が重要なキーワードです。しかし、暗記になっていたり、現状を知るにとどまっていたりする授業も多いです。現状の課題を解決するために、どう変えるのか。社会を変えた人が白い目で見られないようにする、文化・仕組みを作っていくことが不可欠です。今、経済協力開発機構(OECD)では「エージェンシー教育」という、社会を変える教育を提唱しています。この社会を変える教育をやることこそ、若者の政治参加のカギだと思います。

投票はめっちゃ簡単

 選挙に行かないと損だから選挙に行く。投票所が多いからネット投票だから選挙に行く。そこから次のステージに行ってほしいです。選挙のたびに同じ報道ばかり繰り返されます。なぜ若者は選挙に行かないのかという報道ばかりが目立ちますが、どうしたら変わるのかには注目されません。社会が変わっていく姿を体験する、すると、選挙も社会を変えられる有効な手段だと気付くでしょう。署名活動をしたり、政治家に会いにいったり、メディアに連絡したり、記者会見をしたり、会社をつくったり、政治家になったり。社会を変える手段はいくらでもあります。でも、選挙というのはたった10分ほどでできる超簡単で、しかも社会を大きく変えられる手段なのです。ぜひこの一票を大切に使ってください。

たかまつなな 大学生時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。株式会社「笑下村塾」代表取締役。1993年横浜市生まれ。若者の政治参加が専門。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に「政治の絵本」(弘文堂)「お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs」(くもん出版)など。(2022年6月25日掲載)

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