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世界に名を響かせた女子やり投げ北口榛花 日本陸上界初の快挙、ダイヤモンドリーグ優勝

憧れの初舞台で快挙

 日本選手がダイヤモンドリーグ(DL)で優勝する日がついに来た―。6月18日(日本時間同19日午前)、日本陸上関係者は興奮と感動に包まれ、快挙に沸いた。北口榛花(24)=JAL=がDLパリ大会の女子やり投げで63メートル13をマークし、日本選手で史上初めてDLを制した。世界のよりすぐりの精鋭が顔をそろえるDLは参戦自体が難しく、北口は初出場ながら頂点に。トップ選手の一人として、その名を世界に響かせた。(時事通信ロンドン特派員 青木貴紀)

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 待ち焦がれた憧れのステージ。ウオーミングアップ中から大歓声が聞こえ、胸が高鳴った。「こんなに盛り上がったスタジアムで投げるのは初めて」。同時に、「スロースタートだとすぐに終わってしまう」と気が引き締まった。

 1投目から61メートル91で3位と快調な滑り出し。3投目に63メートル13で首位に立ち、ガッツポーズをつくった。会心の一投ではなかったものの、「やりがきれいにスッと出た」。ただ一人、63メートルを上回って制覇。「出られるだけでもすごく幸せだったので、まさか勝つことができるとは思っていなくて。言葉にならないぐらいびっくり。とてもうれしい」。トレードマークの笑顔がはじけた。

世界トップ選手の証

 DLは2010年に始まった世界最高峰シリーズの賞金大会だ。22年は世界各地で13戦が行われ、優勝賞金は各1万ドル(約136万円)。年間成績上位のみが集う9月の最終戦では、優勝者に世界選手権の出場資格が与えられ、優勝賞金も3万ドル(約410万円)に上がる。

 各大会の選手数は限られ、出場するには世界で認められる成績を出すだけでなく、エージェントの力も重要になる。五輪や世界選手権の決勝と、ほぼ同等レベルの熱戦が展開される。今回の女子やり投げは、世界記録保持者のバルボラ・シュポタコバ(チェコ)、東京五輪銅メダルのケルシーリー・バーバー(オーストラリア)ら10人が参加した。

 DLを転戦し、日常的に強豪と競い合うのは陸上選手の憧れであり、トップ選手の証だ。もともと海外志向が強かった北口は世界中を回るDLに興味を抱き、「一つの国だけに収まらない規模の大きさも魅力。ずっと出たいと思っていた」と話す。実績十分の選手を抑えて優勝した価値は大きく、7月の世界選手権(米オレゴン州)後のDLにも出場できる可能性が高まった。

五輪の重傷乗り越え

 昨夏の東京五輪は、同種目の日本勢で57年ぶりに決勝進出。しかし、予選で左脇腹を痛めた影響で決勝は12位にとどまった。五輪後、約3カ月も運動が制限されるほどのけがだったが、逆に心身ともに一度リセットでき、「ずっとやり続けるより良い時間だった」と振り返る。母国の大舞台を機に燃え尽きるような日本選手も見られる中、北口は当初から「通過点の一つ」と語り、先を見据えていた。

 冬季からハードな2部練習を継続。ウエートトレーニングの数値など、基礎体力は目に見える形で向上した。助走はスピードが落ちないように、走りのリズムのままクロスステップへ移行するように改善。6月の日本選手権連覇を含め、5月以降に出場した全6戦で61メートルを超えて1位となり、高い水準で安定して結果を残している。

 専門コーチ不在で苦悩していた時期に、チェコのジュニア世代でナショナルコーチを務めるセケラック氏に指導を依頼し、19年から師事。同年に日本記録を2度塗り替え、66メートル00まで記録を伸ばして飛躍した。自らの行動力で才能を開花させ、「自分の投げの完成形はまだ見えないけど、こういうふうに投げれば飛ぶという指針が分かり始めた。これが一つ大きな変化」と実感を込めて話す。

世界選手権の目標は入賞

 快挙にも、本人は冷静に足元を見詰める。世界ランキングで出場が確実視される世界選手権は「入賞が一番の目標」と姿勢はぶれない。一歩ずつ、着実に前進していく姿を思い描く。

 「23年の世界選手権でメダルを取りたい。24年パリ五輪では金メダルを取れるように、一年一年上がっていければ。ずっと練習を続けられれば、自分の力も向上していくと思う」

 バドミントンと競泳で培った肩まわりの柔軟性、179センチの長身から繰り出すスケールの大きな投てき。才能あふれる24歳は、伸びしろが十分にある。「スポーツに接点がない人にも、自分の存在を知ってもらえるようになりたい。日本国外にもファンができたらうれしい。世界中に友達がほしい」。そう言って笑う表情に、競技を楽しめている充実ぶりがにじんだ。

(2022年6月27日掲載)

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