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地方でサミット、決めた首相の出席少なく【政界Web】

2022年06月10日

岸田氏、被爆地・広島で来年開催

 来年、日本が議長国を務める先進7カ国首脳会議(G7サミット)は広島市で開催される。ウクライナ危機や核・ミサイル開発を続ける北朝鮮情勢を受け、岸田文雄首相は自身の選挙地盤で、被爆地の広島から「核兵器のない世界」を訴えたい考えだ。ただ、過去に東京以外の地方で開いたサミット3回のうち、開催地を決定した首相が本番に出席できたのは1回だけ。岸田氏は悲願である「広島サミット」を議長として迎えることができるだろうか。(肩書は当時/時事通信政治部 田中庸裕)

急逝や退陣

 サミットは1975年、第1次オイルショックを受けて世界経済について話し合うため、仏ランブイエに日米英仏独伊6カ国の首脳が集まったのが始まりだ。翌年からカナダを加えたG7となり、各国が持ち回りで開催している。日本では79、86、93年に東京で開かれ、以降は地方で3回開かれた。このうち2回は、開催地の決定後に首相交代が起きた。

 00年は九州・沖縄サミット(沖縄県名護市)だ。8自治体が誘致に動き、大阪、福岡、宮崎の3市が有力候補とされていた。ところが99年4月、沖縄政策に並々ならぬ思いを持つ小渕恵三首相がトップダウンで決めた。

 決定直後、小渕氏は記者団に、悲惨な沖縄戦から米軍統治に至る沖縄の歴史に触れ、「21世紀が沖縄県にとって素晴らしい世紀になる端緒となればと思っている」と語った。万感の思いを込めた小渕氏だが、00年4月に脳梗塞で倒れてそのまま死去。同7月のサミットは後継の森喜朗首相が出席した。

 08年のサミットは北海道洞爺湖町で開かれた。当初、京都・大阪・兵庫3府県や岡山・香川両県など三つの地域が火花を散らしたが、決定1カ月前の07年3月、北海道が誘致レースに参入。安倍晋三首相は同4月、自然の美しさや警備のしやすさを踏まえ、洞爺湖に白羽の矢を立てた。

 「『美しい国、日本』を世界に示す上でも適当だ」と語り、環境問題の議論に意欲を見せた安倍氏だったが、不祥事による閣僚辞任が相次ぎ、7月の参院選で大敗を喫して、9月に体調問題を理由に退陣した。08年7月のサミットは、福田康夫首相が議長を務めた。

参院選、物価高

 来年の広島サミットに向けて、岸田氏にはまず参院選が待ち受ける。自民党は6月1日に45ある選挙区全てで候補者擁立を終えた。一方、野党側は候補者の競合が目立ち、32ある「1人区」で主要野党の候補者が一本化されたのは十数区にとどまる見通しだ。

 ある自民党ベテランは「インフレ対応を間違えると大変なことになる」と語る。ウクライナ危機や急激な円安を背景に、4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比2.1%上昇。生鮮食品やガソリンは2桁台の伸びを示しており、生活に直結する品目の高騰が続けば、不満の矛先は政府・与党に向かいかねない。

 年内に予定する国家安全保障戦略の改定では、敵基地攻撃能力の保有や防衛予算の大幅増を盛り込む方向。ただ、連立を組む公明党は急激な防衛力拡大には慎重で、与党内の調整は難航も予想される。

サミット「利用」

 大きな外交舞台は政権に注目を集める絶好の機会で、政権浮揚や政策推進の効果が期待できる。5月下旬に東京で開かれた日米首脳会談と日米豪印4カ国「クアッド」首脳会議の後、報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率が軒並み上昇したのは記憶に新しい。こうした「うまみ」を存分に味わったのが、16年5月の伊勢志摩サミット(三重県志摩市)を取り仕切った安倍氏だ。

 政権に返り咲いた安倍氏は15年6月、神戸市や広島市など8候補の中から志摩市を選定した。過激派組織「イスラム国(IS)」のテロの活発化を受けた警備のしやすさや、伊勢神宮に代表される歴史、文化の豊かさが理由だ。安倍氏はこの後、同9月の自民党総裁選を無投票再選で乗り切り、念願の議長役を務めた。

 伊勢志摩サミットで、安倍氏は居並ぶ首脳らに図入りの紙資料を示し、「世界経済が(08年の)リーマン・ショック級の危機に陥る可能性がある」との主張を展開。翌年4月に予定され、「リーマン・ショック級の事態がない限り実施する」と説明してきた消費税率引き上げの延期に道筋を付けた。

 野党は「サミット利用」と批判したが、安倍氏は16年の参院選で「この判断の信を問う」と訴え、勝利した。

 岸田氏は、広島サミットの晴れ舞台に立てるだろうか。中国、ロシア、北朝鮮と海を挟んで向き合う日本の安全保障環境は厳しさを増し、「米国の『核の傘』の重みが増す中で、『核なき世界』を訴えるのは実は難しいこと」(外務省関係者)との見方もある。議論をどうリードし、どのようなメッセージを発することができるかも注目される。

(2022年6月10日掲載)

〔写真特集〕日本開催サミット史

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