豪打と巧打の両面から
プロ野球ロッテの佐々木朗希投手(20)が目覚ましい活躍を続けている。時代を超え、往年の名打者は「令和の怪物」にどう挑むのか。その想定に応じたのは、阪神と西武で歴代11位の通算474本塁打を放った田淵幸一さん(75)と、巨人で2度の首位打者に輝いた通算1696安打の篠塚和典さん(64)。豪打と巧打を誇る2人に、攻め方や対策、さらに「凡退の仕方」などを語ってもらった。(時事通信運動部 上野雄大、前川卓也)
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最速164キロの速球に決め球のフォーク。加えて制球力もある190センチの右腕、佐々木朗に田淵さんは驚きの言葉を並べる。
「昔は『長身の投手は大成しない』と言われていた。背の高い人は猫背になるし、故障しがちだったから。成功したのは金田正一さんぐらいじゃないか。それを克服したのが大谷(翔平)であり佐々木朗。骨盤や背骨、家でいう柱の部分が真っすぐだから速いボールが投げられる。インナーマッスルも強い」
「俺の頃で言えば村田兆治」
現役時代、美しい放物線のアーチを架けたホームランアーティストならどう攻略するか。
「ああいう投手は追い込まれたら三振。1、2の3で割り切って(直球を)打つ。俺の頃で言えば村田兆治(元ロッテ)がそう。あれだけ割り切って打ちにいった投手はいなかった」
捕手としても活躍した田淵さんは、阪神時代に球を受けた名投手の姿を重ねる。
「江夏(豊)は速かった。真っすぐで90%抑えられる投手はなかなかいない。フォークは村山(実)さんがすごかった」
佐々木朗の性格も投手向きだとみる。
「話術がなさそうだし、人見知りするタイプなのかな。投手はその方がいい。ベラベラしゃべる投手は駄目」
ロッテの新人、松川虎生捕手についても「18歳であんなキャッチングができて、捕手としてあれだけの潜在能力を持った選手は見たことがない」と絶賛する。
「後ろにそらさないから、強気にフォークのサインも出せる。大したもの。捕手は『地味なエンターテイナー』。普通の精神力じゃ駄目だし、いろいろ考えてやらないといけない。打者とのだまし合いをこれからどんどん覚えていってほしい」
今後期待するのは、日本球界の至宝となること。
「(佐々木朗を)ロッテは大事に使っているが、決して過保護ではない。いい球団に入ったね。3年目でローテーション入りしたが、俺はまだ早いぐらいだと思っている。これだけ魅力のある選手はなかなか出てこない。プロ野球にとっていいこと」
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1980年代の巨人打線を支え、プロ野球歴代14位の通算打率3割4厘を誇る篠塚さん。84年、87年のセ・リーグ首位打者は、狙いを一つに絞り込むという。
「まずは、じゃなくて追い込まれても最後まで直球を狙う。それが一番シンプルだから。余計なことは考えず、変化球は頭の隅に置いておくだけ。さらには早いカウントで勝負するに限る。初球を見るとか、悠長なことはしていられない。いい投手ほど1球で仕留める必要がある」
迷わず、直球狙いでシンプルに
球種も勝負のタイミングも、極端なほど明確にしておく。正攻法での攻略は難しいとみている。
「速球は常に160キロが出て、フォークは140キロ台後半で鋭く落ちる。特に、普通の投手の直球と大して変わらない速さのフォークを捉えるのは、どんなにいい打者でも難しい」
「だから、どれだけ速くても真っすぐ狙いと決めて、簡単にシンプルに打ちにいく必要がある。追い込まれても同じ。次は変化球かな、とか考えていると対応できない。いつも厳しいコースを突いてくるわけじゃないから、直球を打つ準備をしていくしかない」
迷いは打者を不利にするという。その典型的な例が、完全試合を達成した4月10日のオリックス戦。19個もの三振の山を、ほぼ3球勝負で築いた点に着目している。
「頭も整理できず、テンポ良く投げられたこともあるだろう。打者があれこれ考えたり、不安な気持ちでいる間に投球されると、投手が有利になる。あやふやな気持ちで打席に立つと、思い切って打ちにいけない」
後続を勇気づける「凡退の仕方」
篠塚さんは「凡退の仕方」にも言及する。同じアウトでも後続を勇気づけられるか否か。自分の凡打が、投手を攻略するための糸口になることが重要だと説く。
「あまりこういう話をする人はいないと思うが、後ろの打者のことを考えて、球が速そうに見えないようにしないといけない。打者は投手の球が速いと意識すると、打撃が狂ってしまうから」
「同じ球速でも、感じる速さはその時によって異なる。前の打者が差し込まれてばかりいると、後ろは『あれ? 速いのかな?』と意識してしまう。そこで大事なのは、タイミングの取り方。そこを合わせられれば、(凡打でも)後続は変わってくる」
それは相手バッテリーに警戒心を植え付けることにもつながる。
「少しでもそういうことを思わせられるだけで、打線は変わってくる」
作新学院の剛腕・江川に驚き、成長の糧に
篠塚さんが選手生活で速さを感じた投手は、千葉・銚子商高時代に対戦した栃木・作新学院高の江川卓投手(元巨人)。自身がプロになってからを含め、後にも先にも他にいないという。
「僕が1年生、江川さんが3年生の時だね。春の関東大会で初めて対戦した時、自分のタイミングで勝負しようとして、打とうと思ったらボールがミットに入っていた。江川さんの球を見たから、それから150キロを見ても速さを感じなくなった」
それでも剛腕から放った一打が、中堅手と遊撃手、二塁手の間にポトリと落ちるテキサス安打となった。
「ガツっと詰まってね、ポテっと落ちた。打つポイントを普段より30センチ前にして、大げさに言うと泳いで打つくらいのつもりで。その後の練習試合では、しっかり中前へ運んだけどね」
こうした経験を基に、佐々木朗が躍動するパ・リーグで打者は成長するチャンスとも捉えている。
「あれだけ速い球を投げる投手は、なかなか出てこない。個人、個人が速さを感じず、タイミングを取れるようになれるか。打撃の形は教えられても、どこで振り始めるかなどは自分で会得しないと分からない。体が覚えれば、(打てる)確率も高くなってくるだろう」
じっくり育て、また大記録を
球界の大器に大きな期待を抱くのは、篠塚さんも同じだ。
「何十年に一人という存在なのは間違いない。ただ、あれだけ速い球を投げる投手は、絶対に肩肘を消耗する。心配するのは、故障だけ」
まだプロ3年目の20歳。ロッテが焦らずじっくり育成している方針にも、もちろん好意的だ。
「本当のプロの体になるには、(入団から)4~5年はかかるんじゃないか。まず、けがをしないように、あと2年くらいはじっくりと。いくら期待大でも、まだ今年は無理をさせてはいけない」
「今は無事に勝ち星を付けていくことが第一。その中で自分で目標もつくって。きょうはこれだけ三振を取ろうとか。そういう気持ちで臨んでいけば、自然と再び大記録をつくってくれるでしょう」
(2022年5月26日掲載)