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カットの系譜を継ぐ佐藤瞳、自分の卓球を変える決断

2022年05月27日19時00分

 卓球の世界選手権団体戦(9月30日から、中国・成都)の日本女子代表5人に、佐藤瞳(ミキハウス)が入った。日本に綿々と続くカットマンの系譜を、同僚の橋本帆乃香とともに受け継ぐカットのエース。パリ五輪代表選考も始まり、もう一つ天井を突き破るために「今こそ自分を変えたい」という。

あと1ゲームを取るために

 コロナ禍で実戦が激減した時期を経て、昨季からノジマTリーグに初参加した佐藤。さらに年明けから全日本選手権、Tリーグ後半、世界選手権団体戦代表選考と第1回パリ五輪代表選考会を兼ねたライオンカップ・トップ32、アジア競技大会代表選考会と重要な試合が続いた。

 平野美宇(木下グループ)、木原美悠(エリートアカデミー)、石川佳純(全農)らと激戦を重ね、さらに実戦を求めて日本リーグのビッグトーナメントにもエントリーした。

 そこで「相手選手から見た今までの自分のイメージを変えなければ」と自覚したという。「ミスをしないとか粘り強さが自分の特徴であり強みですが、そこを残しながら変えていきたい」

 大きな理由の一つは、「5ゲームマッチで3ゲーム取るのと7ゲームマッチで4ゲーム取るのとでは難しさが違うとすごく感じている」こと。中でも全日本の準々決勝では木原に3-0から逆転負けした。

 台から下がり、上からカットする返球を繰り返して相手のミスを誘い、機を見て反撃(攻撃)をするカットマンという戦型も、関係している。攻撃型選手は相手も攻撃型なら焦りだしたらズルズル終わることがあるが、カットマン相手だと1本ずつがそれ自体、粘り合い。劣勢から諦めずに巻き返す時間がある。

 「相手が開き直ったり(私のカットに)慣れたりして気づいたら向こうが優利になって、こっちは全部出し尽くして手がないことがあった」。粘りと安定だけでは、もう一度流れをつかんで最後の1ゲームを取ることが難しい。

中国の観客も味方にした

 だが、単に反撃を増やすだけでは及ばない。はるか以前からカットマンにも反撃力が必須になり、攻撃型選手は織り込み済み。5年ほど前からの高速化でも卓球が大きく変わった。チキータレシーブが当たり前になり、カットで返しにくいスマッシュも飛んでくる。カウンターブロックも増え、反撃を待たれている。

 コースやタイミングが読まれにくい打ち方、相手のブロックを計算した連続攻撃、相手の体勢の崩し方など反撃の高度化が求められる。「練習時間は足りない時があります。単純に考えてもカットと攻撃で2倍必要ですから」と佐藤。

 1997年生まれの北海道函館市出身。小学2年で卓球を始めた。「同じ学年に1人ぐらいカットマンがいてもいいだろう」という、よくある理由でカットマンに。初めは「後ろに下がってツッツキをしてみなと言われて」よく分からなかった。

 体力や忍耐力が必要で、志す選手は少ないが、コーチから松下浩二や朱世赫(韓国)の映像を見せられ「釘付けになりました。カッコいいなあと」。

 全国中学校大会優勝、高校総体準優勝などの成績を挙げ、早くから国際大会にも派遣された。16年に札幌大谷高からミキハウスへ。大嶋雅盛監督、由美夫妻の指導を受け、「まず相手がもう嫌だというくらい粘り倒すことを目指して」世界で戦える守備力を鍛えた。

 19年のジャパンオープン荻村杯でリオデジャネイロ五輪金メダリストの丁寧(中国)を倒した時は、相手がまさに「もう嫌だ」と言いたげに首を横に振っていた。

 丁寧には同年のワールドツアー・グランドファイナルでも勝った。中国・鄭州での試合。「最初はみんな丁寧の応援ですけど、だんだん良いプレーにすごく歓声が沸いて、気づいたら自分が応援されている感覚になりました。カットマンは会場全体を味方につけられる」と感じた。

 20年には初めて世界選手権団体戦(韓国・釜山)の代表になりながら、コロナ禍で中止に。今年はアジア大会(中国・杭州)の団体戦メンバーにもなったが延期。同じ中国での世界選手権団体戦の開催を心配しつつ、意欲と楽しみを膨らませている。

 日本が準優勝した14年東京大会は、目の前でカットマンの先輩、石垣優香の活躍を見た。高校時代に指導を受けた齋藤(旧姓新保)富美子さんは、1983年東京大会準優勝の立役者。卓球日本の歴史は、カットマンの奮闘抜きに語れない。

ダブルスの練習に込めた意味

  ダブルスへの思いも強い。19年世界選手権個人戦(ブダペスト)では橋本とのペアで3位になったが、昨年(米国・ヒューストン)は代表を逃した。大嶋夫妻はともにカットマン。「自分たちのダブルスで勝って恩返ししたい気持ちがすごく強いです」と、全日本で世界で、チャンピオンを目指す。得意なプレーが違うので、互いに得るものも多いペアだ。

 ダブルスは9月のTリーグまで試合がないが、よく練習するのには、別の理由もある。

 卓球は、自分の打球の球質が相手の返球に残って飛んで来る。それがダブルスではパートナーの球質が残り、相手ペアの打つ順番もゲームごとに入れ替わる。「自分のボールの返り球じゃないので、自分が打ったのと回転量も違う。それに対応しなきゃいけないので、予測とか判断にシングルスより神経を使います」。どんな球が来るかによって、カットか反撃か、どんなカットをするか、攻撃ならどう打つか。ダブルスがシングルスの現在の課題にも生きるという。

 パリ五輪はほとんど国内での選考会とポイント対象大会が、シングルス代表争いの場になる。日本選手は佐藤、橋本に勝たなければ代表になれないと考え、準備してくる。

 佐藤も「1人ならまた違うでしょうけど、2人いればみんな(対策を)やらざるを得ないですよね」と覚悟の上だが、世界に目を向けた時、独自の対策をしてくる中国勢は別として、「カット打ちは日本選手が一番うまいと思っているので、日本選手に勝つことが他の外国人選手に負けないことにつながる」と言えるのが、カットマンの強みでもある。

 自分の長所を残して新たな卓球を加えることは、誰でも難しい。だが、その先にこそ次のステージがある。「やらなきゃいけない時です。上(の選手)に勝っていないので。今までのやり方でもここまでは勝てるというレベルはできたけど、勝てない相手に勝つには変えなきゃいけない」。穏やかな口ぶりにも、プレーと同じ芯の強さがのぞいた。

◆世界選手権団体戦女子代表 伊藤美誠(スターツ)、早田ひな(日本生命)、長﨑美柚(同)、木原美悠(エリートアカデミー)、佐藤瞳(ミキハウス)

(時事通信社 若林哲治)(2022.5.27)

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